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なぜか水に好かれてしまいました  作者: にいるず


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52 箱根です

 土曜日が来た。

 玉山から木曜日の夜連絡が来て、待ち合わせの時間がいつもより早い朝8時になった。

 時間になったので玉山の元を訪れると、すぐに玉山が出てきた。

 相変わらずのさわやかさだった。


 「おはよう。今日朝早かったけど、大丈夫だった?」


 「はい、大丈夫です」


 ふたりで車に乗り込む。

 ずいぶん朝は涼しくなった。


「今日はちょっと遠出して箱根まで行こう」


「楽しみですね~」


 箱根はちらほら紅葉している木々があった。

 あと少しで紅葉真っ盛りになるだろう。

 敦子たちはさっそく箱根の芦ノ湖の遊覧船に乗った。

 晴れていて涼しくなったおかげで、湖上を吹く風が気持ちよかった。


 「気持ちいいですね」


 「うん」


 隣の玉山も目を細めて気持ちよさそうにしている。

 湖のほとりに赤い鳥居が見えた。

 敦子は玉山に指をさしていった。


 「あそこ有名なパワースポットですよね。後でいってみません?」


 「いいねえ。あそこ確か遊歩道があるはずだから、歩いて行ってみよう」


 木々に囲まれた湖は本当に気持ちよくて、会社での疲れを取ってくれたようで、体が軽くなった気がした。

 敦子はスマホを取り出し、玉山にいった。


 「せっかくだから竜也さん、撮ってもいいですか?」


 玉山は、名前でいきなり言われたことにはじめちょっとびっくりしたようだった。

 しかし敦子が狙い通りになったと笑っているのを見て、玉山も負けじと言った。


 「あっちゃん、僕も撮りたいな」


 にやっと笑いながら、敦子に言った。

 敦子も玉山の狙い通りちょっと恥ずかしくなって顔が赤くなってしまった。

 そんな二人をいつから観察していたのか、急に二人に声がかかった。


 「あらっ、二人で撮りたいんでしょ。撮ってあげるわよ」


 そういったと思ったら急に手が伸びてきて、敦子が持っていたスマホがその手に握られていた。

 敦子が驚いて伸びてきた手のほうを見ると、4人のおばさんグループがいつの間に来たのか敦子たちのすぐ横に立っていた。


 「ほらほら、こっちきて。二人並んで。こっち向いてね。えっ__」


 スマホをこちらに向けたおばさんが急にさけんだかと思えば、スマホを持ったまま固まっていた。

 その様子を見たほかのおばさんたちが、わらわらとやってきた。


 「どうしたのよ。操作できないの?」


 突っ立たままのおばさんさん1に聞いているが、ほかのおばさん2が敦子と玉山を見てまた奇声を上げた。


 「あらっ、いやだ~。こちら俳優さん?」


 後の二人のおばさん3と4も一斉にこちらを見た。


 「えっ~、ほんと。俳優さんじゃない?名前はなんていうの?」


 もうスマホで撮ることをすっかり忘れているのか、玉山の周りに四人のおばさんが集まってきた。


 「この人は、一般人です」


 「普通のサラリーマンです」


 敦子がそういうと、玉山も同じように言った。


 「そうなの~?すごいハンサムさんね~」


 おばさんたちは玉山の顔をじっくり見ながら、感想を四人でいいあっていた。

 しばらくしてやっと本来の目的を思い出したおばさん1が、敦子のスマホと玉山のスマホそれぞれで撮ってくれた。

 

 しかしである。

 そのあとなぜか玉山を囲んでの撮影会が始まってしまい、いつのまにやら敦子が、おばさんたちのスマホで撮影する羽目になっていた。

 四人納得するまで撮影会が続き、終わった時にはちょうど遊覧船の下船時間になっていた。


 「またね~。気を付けてね」


 大きい声に見送られて敦子たちはおばさんたちと別れた。


 「大変だったね。ごめんね」


 なぜか玉山が申し訳なさそうに言うので敦子のほうが恐縮してしまった。

 どちらかといえば敦子が、スマホで撮ろうなんて言ったからあんなことになってしまったのだ。

 敦子の申し訳なさそうな顔を見て玉山も次第に笑顔になり、ふたりおかしくて笑いあった。


 「遊歩道歩こうか」


 玉山が言ってふたり手をつないで湖の周りの遊歩道を歩いた。

 湖からの景色からとはちょっと違った景色で、またそれも気持ちよかった。

 しばらく歩くと、玉山が事前にチェックしてきたレストランがあったのでお昼を食べようと店に入った。

 ふたりパスタセットを注文した。

 出てきたお料理はおいしかった。

 なるほど玉山が事前調査しただけあった。


 「さっきの撮ってもらったものちょっと見てみますね」


 食後のコーヒーを飲んでいるときに、敦子は先ほど撮影してもらった画像を見た。

 あのおばさんたちにいくつかチェックを入れられただけあって、ふたり笑顔で映っていた。

 念のためと同じような画像が3枚もあってびっくりした。

 でもよく見ると少しずつ顔の表情が違うので、これはこれで敦子の宝物になるかもしれない。

 心の中であのおばさんたちにグッドジョブといっておいた。

 ふと玉山を見ると、玉山もおばさんに取ってもらった画像を食い入るように見ていた。


 「どうですか」


 敦子がじっと画像を見ている玉山に聞いた。


 「うん、うまく撮ってくれたよ。ただ同じようなのが何枚もあるけどね」


 玉山は苦笑いしながら、敦子に自分のスマホを差し出してきた。

 敦子も自分のスマホを差し出す。

 今度は相手のスマホの画像を見た。

 自分のスマホの画像と同じでよく撮れていた。

 玉山の言うとおり同じような画像が何枚もあったが。

 結局相手の画像を送りあい、記念の画像が一気に増えてうれしくなった敦子だった。


 食事が終わりまた遊歩道を歩く。

 しばらく歩くと湖上から見た赤い鳥居のある神社についた。

 中に入っていく。

 ふと敦子は、自分の周りに風のようなものがまとわりつくのを感じた。

 散歩の間ずっと玉山と手をつないでいたが、そのつないだ手に急にバシッと弱い電流が流れるような感じを覚えた。

 思わずつないだ手を見ると、玉山も同じように感じたのか玉山もつないだ手を見ている。


 「今、なんだか静電気が起きたみたいでしたね」


 「うん、びっくりした」


 ふたり顔を見合わせて笑ったが、手はつないだまま境内に入っていった。

 神社の建物の横に神社の成り立ちが書いてあった。

 どうやらここは、龍に関係のある神社らしい。

 ふたりゆっくり歩いて神社の賽銭箱の前に立った。

 つないだ手を放してお互い賽銭箱にお金を入れてお参りをした。

 ここは湖のほとりにあって、その湖は山々に囲まれているので、日が暮れるのが早いのかまだ3時前だというのに、あたりは少しずつ薄暗くなってきていた。

 お参りをして二人また手をつなごうとして、何気なくお互いの顔を見た時だった。


 敦子は玉山の目が金色に光っているのを見た。


 玉山はといえば、玉山も同じように驚いた顔をして敦子を食い入るように見ていた。

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