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なぜか水に好かれてしまいました  作者: にいるず


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53 励まされました

 お互いがお互いの顔を見つめあった。

 もう今は、先ほどのようにお互い目は光っていない。

 見つめあってどれくらいたったのだろう。

 時間にするとそう立っていないのかもしれない。


 先に我に返った玉山が、敦子の手をそっと取って手をつないで歩き出した。

 敦子は知らず知らずのうちに玉山の手をぎゅっと握りしめていた。

 玉山も敦子の手の震えを感じたのだろう。

 つなぐ手がいつもより力強かった。

 玉山の手のぬくもりを感じて、だんだん敦子の体のこわばりや手の震えが消えていった。

 敦子はまだ何が何だかわからずに混乱していたが、足だけは動いていて玉山に続いて歩いていく。

 ふたりはしばらくなんの会話も交わさないまま歩いていた。

 途中幾人かの人とすれ違ったが、敦子は自分の目を見られるのが怖くてついうつむき加減になった。

 そのたびに玉山の手が敦子の手を握る力が強くなった。

 どれくらい歩いただろうか。

 もう少しで車を停めてある駐車場が見えてくるという時になって玉山が言った。


 「僕はどんなあっちゃんでも好きだよ」


 敦子は、不意に顔を上げた。

 玉山の優しい目と出会った。

 今ほしかった言葉だと思った。玉山の言葉が敦子の心を温かくしてくれた。

 しかし口から出た言葉はかわいげのないものだった。


「今の告白?今告白されてもな~」


 思わず半分泣き笑いで言ってしまい、それを聞いた玉山も思わずうなってしまっていた。

 敦子を励まそうと思っていっただけで、まさか自分でもこんなところで告白まがいの事をするつもりはなかったのだろう。


 「ごめん、そういうつもりじゃあなかったんだけど」


 玉山が自信なさそうに言ったので、今度は敦子が慌ててしまった。


 「こっちこそごめんなさい。意地悪なこと言って。ほんとはすごくうれしかった」


 自分でも恥ずかしいことを言っている自覚があるので、思い切り顔が赤くなってしまい玉山を見られなくてそっぽを向いた。

 玉山も敦子の言葉がうれしかったのだろう。

 敦子の手が不意に引かれて、気が付けば抱きしめられていた。

 敦子も玉山のぬくもりがうれしくてしばらくそのままでいた。


 「あらっ~、さっきのカップルさんじゃない!」


 「ほんと~!いやだ~、こんなところで抱き合って。見てる方が恥ずかしくなっちゃうじゃない」


 「そういいながらあなた、よ~く見てるじゃない」

 

 「若いっていいわね~。あっはっは~」


 急に大きな声がしたかと思うと、遊覧船で出会ったおばさんたちがすぐそばに来ていた。

 

 敦子と玉山は、その声で我に返り、たぶん距離にすると1メートルふたり飛びのいたのだった。

 おばさんの一人が言った。


 「人生いろいろあるけれど、これから楽しいこともいっぱいあるんだから、ふたり頑張って」


 敦子はおばさんたちに、なぜか次々に励ましのつもりか謎の肩たたきを受けていた。

 そうしておばさんたちは、笑いながら去っていった。

 敦子と玉山はつきものが落ちたように、お互い自然におかしさがこみあげてきてまた手をつないで車に向かったのだった。

 ふたり車に乗り込んでから玉山が言った。


 「僕たち深刻そうに見えたのかなあ」


 「そうかも」


 ふたりは神社で起きた先ほどの出来事も気にならなくなるほど、さっぱりした気分になった。


 「あのおばさんたちのおかげですね」


 敦子は、そうつぶやいた。

 玉山も運転しながら、うんうんと深くうなづいたのだった。

 

 帰るときには、ずいぶんあたりは暗くなってきていたが、まだそう遅い時間ではなかったので、夕ご飯を食べて帰ることにした。

 お店は、帰る途中にある釜飯屋さんに寄ることにした。

 ここもあらかじめ玉山がリサーチしておいたらしい。

 ふたり違う種類のものを注文して、二人で味見をしようということになった。

 釜飯のふたを開けるときのいい匂いに、敦子はたまらなくなってにおいをクンクンかいでしまった。

 玉山はその様子がおかしかったのか、敦子が気付くと玉山は声を抑えてくすくす笑っていた。


 「もう知りません。お先にいただきます」


 敦子はむっとした表情をして一人釜飯を食べるふりをした。

 玉山は慌てて謝ってきて、敦子は仕方なく許すというふりをして、ふたりで釜飯を分け合って食べた。

 釜飯はどちらもおいしかった。

 心も体もほかほかになった二人は、のんびり帰っていった。


 アパートに着いた。

 車を駐車場に入れて敦子が出ようとしたとき、玉山が言った。


 「かたずけやっとおわたんだ。よかったら明日うちこない。その前に明日の午後ちょっと日用品で買いたいものがあるんだけどつきあってくれるかな?」


 「いいですよ。何時にします?」


 「そうだなあ。午後2時でいい?」


 そう約束して部屋の前で別れた。


 家に帰り落ち着いてくると、今日玉山に抱きしめられたことを不意に思い出し、ひとり恥ずかしくなってしまった。

 気が付けばクッションの形が変形してしまうほど、クッションを抱きしめている自分がいた。

 しかもあれを人前でやっていたことを思い出して、今度はあまりの恥ずかしさに一人身もだえていた。

 それは約5分ほど続いて、一気に冷静になった敦子はお風呂に入ったのであった。

 しかし寝ようとするとまたもや思い出してしまい、気が付けば明け方まで眠れなくて悶々とした時間を過ごした敦子だった。

 

 夜あまり眠れなかったのにもかかわらず、翌朝は、いつものように早く起きてしまった。

 急いで家事をして、買い物に行った。

 昨日もすべて玉山が出してくれたので、今日はご馳走しようと思いいつにもまして買い物に精を出した。

 急ぎ足で帰ってきて、料理を作った。

 朝早く起きたおかげで、玉山との待ち合わせには十分時間があったので、敦子はほっとした。


 素早く化粧を直す。

 ただ昨日寝不足のせいか少し目が腫れている気がする。

 いつもにもまして細くなった目に悲しくなったが、目が光ってないだけましだと自分に言い聞かせて、玉山の元へ向かった。

 敦子が昨日眠れなくなる原因を作った張本人にもかかわらず玉山は、今日もさわやかさを全身に身にまとっていた。

 敦子は、玉山のあまりのさわやかさに少し悔しくなってしまい、つい意地悪を言ってしまった。


「竜也さん、昨日はずいぶんよく眠れたようですね。なんかすがすがしい感じです」


 ほめてるわりに敦子の表情が険しいのを見た玉山が心配そうに言った。


 「あっちゃん、眠れなかったの?大丈夫?」


 あまりに玉山が本気で心配そうな顔をしたので、敦子は自分の心の狭さにちょっと恥ずかしくなったのだった。

 ただ赤くなった顔をした敦子をまた心配した玉山を見て、もう意地悪を言うのはやめようと思った敦子だった。

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