41 やはりあの人でした
それから数日たった。
朝、企画課の課長に続いて一人の女の人が、敦子の部署にやってきた。
企画課の課長が、皆に紹介した。
「 今日から企画課に入った小池さんです。 」
「 よろしくお願いします。 」
玉山さんとしゃべっていたあの女の人だった。
敦子は、つい小池さんの顔を凝視してしまった。
なぜか相手もこちらを見つめてきた気がした。
しかし見れば見るほどあの夢に出てくる女の人に似ている。
目がぱっちりとしたかわいらしい顔をしていた。
そして企画課の課長と小池さんは、ほかの部署に行ってしまった。
「 あっちゃん、あの人だよね。 」
奈美が敦子の横に来て腕をちょっとつついていってきた。
他の人たちも小声で、いろいろ先ほどの小池さんについてしゃべっている。
中でも男性たちは、皆口々にかわいい!と高評価だった。
その日のランチでは、もう結衣がさきほどの小池さんの事をいろいろ仕入れてきて、敦子たちに教えてくれた。
「 やっぱり彼女追いかけてきたみたいよ。玉山さんを!自分で言ったらしいのよ。だから女の子たちは、安心してるの。 」
「 なんで? 」
「 なんでってそりゃあ、社内恋愛を目指している子たちにとって敵にならないからじゃない? 」
「 ふ~ん。 」
敦子の問いに奈美が答えた。
「 ふ~んって、いいの? あっちゃん、玉山さんロックオンされてるよ。 」
結衣が意気込んでいった。
「 小池さんてかわいいし、いちずだし女の私から見ても、いい子そうじゃない? 」
「 まあそうかもしれないけど、ねえ結衣ちゃん。 」
奈美と結衣はお互い顔を見合わせ、なんだか敦子に言いたそうにしていたが、やめたようだった。
敦子はといえば、月曜日玉山と小池さんの様子を目撃してから、なんとなく落ち込んでいた。
その仕事に打ち込んでいたので、仕事ははかどったのが幸いだった。
仕事が終わってビルの一階で、会社に戻ってきた玉山と珍しく会った。
先に敦子を見つけた玉山が駆け寄ってきた。
「 滝村さん今帰り? 」
「 はい。 」
玉山が、敦子のそっけない対応にびっくりしたらしく言ってきた。
「 どうしたの? 」
「 いいえなんでもありませんけど。 」
敦子は、なぜか玉山の顔を見ることができなかった。
「 何かあったの? 」
玉山は、敦子の塩対応が気になるらしくまた行ってきた。
「 すみません、ちょっと急いでいるので。失礼します。 」
敦子はまだなにかいいたそうな玉山をその場に残して、足早に走っていった。
なんとなく玉山が、敦子のほうを見ているのを感じた。
しばらく走ってから、ため息をついた。
はあっ___
自分でも何やってるのだろうと自己嫌悪した。
その次の日朝、自分の部署があるフロアーの階のエレベーターの前に小池さんがいた。
敦子は、立っている小池さんに挨拶して通り過ぎようとしたが、小池さんが呼び止めた。
「 ちょっと待ってください。お聞きしたいことがあるんです。 」
小池さんのほうを見ると、まっすぐにこちらを見ていた。
敦子が足を止めると、小池さんはすぐに言ってきた。
「 玉山さんとは、どういうお知り合いなんですか。 」
「 どうって、住んでいるアパートのただのお隣なだけよ。 」
「 ずいぶん親しそうに見えたので。 」
「 そう? 」
チ______ン
敦子は、言葉を続けようとしたときに、エレベーターのドアが開いて、ちょうど奈美が出てきた。
「 あっちゃん、おはよう~! 」
奈美は挨拶した後、隣にいる小池を見つけたようで、小池にもあいさつした。
「 おはよう。 」
「 おはようございます。 」
小池は、奈美に挨拶すると、エレベーター横の階段で下に降りてしまった。
「 どうしたの?あっちゃん。 」
奈美が心配そうに聞いてきた。
2人は更衣室に向かいながら話した。
「 何も。ただ玉山さんとの仲を聞かれただけ。 」
「 なんて言ったの。 」
「 ただ同じアパートの隣人さんていっただけ。 」
「 そう~。 」
奈美は、他に何も言わなかった。
お昼にいつものようにランチに行こうとビルの一階に降りた時だった。
またもや声が聞こえた。
「 玉山さん、みんなでランチ行きましょう。 」
敦子が、玉山という言葉でつい声のしたほうを見ると、小池が玉山の腕をつかんでいた。
周りには、玉山と同じ会社の人たちも数人いた。
敦子は、視線を振り切るように前を向きなおして、足早にランチの店に向かった。
「 あっちゃ~ん、今日はどこいくの~? 」
気づけば一人奈美と結衣を置き去りにして歩いていた。
後ろを振り返ると、奈美と結衣が駆け足でやってくるところだった。
「 ごめんね。 」
「 いいよ~。 」
「 今日は、ここにしよ! ちょうど目の前。 」
知らず知らず敦子は、よく行くお店の前に来ていた。
しかしいつもなら二人に、お店の相談をするのだが、先ほどのロビーでの出来事が敦子には堪えていたらしい。
「 腕つかまれてたのに、払いもしないで。もう~。 」
敦子のつぶやきに、あとの二人が目を見合わせていた。
三人で店に入ると会社の人たちがいた。
「 偶然だね~。 」
声をかけてきたのは、奈美の彼氏である坂口だった。
坂口は、笹川と同僚の鈴木の男性三人で席に座っていた。
奈美が言った。
「 坂口さん、今日は内勤? 」
「 そう、午後から会議なんだよ。 」
敦子たちも坂口や笹川のいる席に同席することになった。
「 今日の会議は何なの? 」
「 来年春の新製品について。 」
そこで6人は、仕事の話で盛り上がり、あっという間にお昼休みが終わる時間になってしまっていた。
敦子がレジのところで精算しようとすると、笹川はそれを制して敦子の分を払ってしまった。
「 えっ、すみません。ありがとうございます。 」
敦子が笹川に言うと、笹川が何か言うまでに奈美が先に行った。
「 いつもあっちゃんにお世話になってるからいいって。ねえ、笹川さん! 」
「 そうそう、こんどもっと高いやつごちそうするよ。 」
敦子が言う前に先にまた奈美が言った。
「 待ってま~す。だって。 」
「 ちょっと奈美ちゃん。笹川さん、気にしないでいいですからね。 」
みんなで、わいわいいいながら、ビルに戻ってきた。
ビルの一階ロビーそこには、ちょうど先ほどの再現のように、またもや玉山の腕をつかんでいる小池がいた。
敦子は、黙って通り過ぎようとしたが、こちらを見ている玉山と目があった。
玉山は敦子を見つけると、こちらに来ようとしたが、なぜか小池がまだ腕をつかんでいるようだった。
そして他の人たちと一緒に、何か玉山にいっているのが見えた。
敦子も玉山を見つけ、足が遅くなってしまったのか、隣にいた笹川に促されてエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターに乗り込むときに、また玉山と目があった気がした。
玉山がなぜかするどい目つきで、こちらをにらんでいたのが目に入った。
気づけば乗り込むときに、笹川に促されたせいか敦子の背中に笹川の手が添えられていたのだった。