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なぜか水に好かれてしまいました  作者: にいるず


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38 雨が降ってきたせいです

敦子は、慌てて近くのトイレに駆け込んだ。


洗面所の鏡を見れば、クリームが少し口の周りについていた。


さきほど玉山も口元を拭ってくれていたから、よほどクリームが付いていたに違いない。


( 玉山さんのハンカチ汚しちゃったな。 ) 


あのソフトクリームの量を恨んでしまった。


敦子は口元を拭い、化粧を直し、今度は、スカートについたクリームを水で湿らせたティッシュでふき取った。


地味な色が幸いしたのか、目立たなくなった。


ついでにトイレも済ませて戻った。


玉山は、寝ベンチに座っていたが、なぜかその周りだけ人口密度が高かった。

中には、カップルもいて男の人の方は、不満そうな顔をしていた人もおり、敦子は、心の中でその人にあやまっておいた。


敦子は仕方なく人口密集地帯に足を踏み入れた。


「 お待たせしました。 」


「 スカートについたのとれた? 」


玉山は、敦子の顔をまず見てから、スカートに目をやった。


「 とれました。 」


「 よかったね。じゃあ僕も手を洗ってくる。 」


そういって玉山も手を洗いにいった。


敦子が、勝手に行ってしまったので、その場を不在にしてはいけないと玉山は思ったのだろう。


敦子をじっと待っていてくれた玉山にあとでお礼を言わなくてはと思った。


ふと周りを見ると、中にはトイレのほうに歩いていく人もいて敦子は、苦笑いした。


たぶんトイレが混むに違いない。

先ほどの玉山に感謝した。

玉山が、じーとしていてくれたので、トイレがすいていたのだ。


周りを見たりゆっくりしていると玉山が戻ってきた。


「 お待たせ。じゃあ行こうか。 」


また二人植物園を見て回ることにした。


また手をつないでいく。


その時にもこちらを見ている人たちが目の端に映った。


歩いていると残りあと少しというところで、雨がぽつぽつと降ってきた。


「 雨降ってきちゃったね。 」


玉山がそういい、敦子は慌ててバッグから折り畳み傘を出そうとした。


ただちょうどそこは、段差があって、バッグに気を取られていた敦子は、見事に階段を一段足を踏み外してしまった。


「 あっ。 」


いきなり何かに抱え込まれた。


気が付けば、敦子は玉山に抱え込まれていて、敦子は敦子で、とっさに玉山に抱き着いていて二人で抱き合う形になっていた。


どこからか悲鳴のようなものが聞こえた気がした。


「 大丈夫? 」


その声で敦子は我に返り、玉山から離れようとした。


その時、敦子にまわっている腕に力が入り、一瞬抱きしめられたように感じた。


( あれっ。 )


敦子は、びっくりしたが、たぶん錯覚だと思うことにした。


玉山の顔をつい見てみれば、玉山も耳も顔もなぜか真っ赤になっていた。


玉山も敦子が転びそうになってびっくりして、思わず敦子を抱えたのだろうが、それにしては顔が赤かった。


「 あっ、ありがとうございます。 」


そうお礼を言って、バッグからあらためて折り畳み傘を出して傘を差した。


「 持つよ。 」


そういって玉山が傘を持ち、二人ははたから見れば肩を寄せ合って歩き始めた。


雨は、ひどくならずにしとしと降っている。

先ほどの出来事のせいか、二人何も話さずにただ歩いていた。


ぽつ ぽつ ぽつ


傘に当たる雨音だけが、響いている。

なぜかそれも含めてすべてが心地よく感じた。


2人は、残りを見て回り、車に戻ることにした。

車の中に入ると敦子はいった。


「 よかったですね。雨ひどくなくて。 」


「 うん。傘ありがとう。忘れてたよ。助かった。 」


ちょうど玉山が言った時だった。


ブッブー ブッブー 


玉山のポケットから音がした。 


「 ごめんね。ちょっといい? 」


玉山はそう言って、画面を見てから電話に出た。


「 はい。 」 


距離が近いせいか、スマホから声がかすかに聞こえる。


声の様子から見て、女性の様だった。


玉山は、はじめ聞いているだけだったが、ちらちらと敦子を見始めた。


敦子はいぶかしく感じたが、黙っていた。


すると玉山が敦子にいってきた。


「 今大家の叔母さんからなんだけど、昨日の野菜やワカメのお礼に夕食をいっしょにどうって? 」


敦子は、一瞬何を言われたのかわからなくて、ぽかんとしてしまったが、言葉を理解するにつれて慌ててしまった。


「 えっ、あんなもので食事に招待してくださるなんて申し訳ないです。 」


敦子は、昨日のでろんとしたワカメとちぎった大量のレタスを思い出してそういった。


玉山も敦子の様子から、判断したのだろう。


電話で何とか断ろうとしていたが、電話を切るときには、肩を落としていた。


「 ごめんね。断り切れなかった。 」


もし玉山にしっぽがあれば、たぶん下に落ちていただろう。

そんな情けない顔をしてあやまってきたので、敦子はつい吹き出してしまった。


「 ぷっぷっぅ、 あっすみません。いいですよ。ありがとうございます。 」


敦子が笑ったせいか、玉山はほっとしたような顔になった。


「 こちらこそありがとう。じゃあ夜は、叔母さんちに行くということで。 」


「 はい、わかりました。 」


ふたり顔を見合わせて笑った。


そのあと玉山は、時間を見ていった。


「 もうお昼だね。何か食べよう。お昼は、イタリアンでいい? ピザがおいしい店があるらしいんだ。 」


「 ピザ! いいですね。 」


敦子は、ピザと聞いておなかがすいてきた。


「 じゃあ行こうか。 」


玉山は、敦子のうれしそうな様子に、そういって車を出した。



しばらく車を走らせた。


道沿いから少し入ったお店は、こじんまりとしたかわいらしいお店だった。


中に入ると、混んではいたがちょうど空いている席があり、案内してもらった。


ふたりセットのピザと飲み物を注文することにした。


敦子がメニューを見て、どのピザを頼もうか悩んでいると、玉山が言った。


「 違うピザを頼んで、半分こしよう。 」


「 いいですね。私これとこれ食べてみたいんですけど、玉山さんはどれが食べたいですか。 」


敦子が悩んでいた二品を指さすと、玉山はそれでいいよと言ってくれたのでそれにすることにした。


料理が運ばれてきた。


玉山が二つに切ってくれたのだが、切っていくときサクッサクッっとおいしそうな音がした。


2人で半分こして食べたが、おいしかった。


そのセットについているケーキもおいしくて、ケーキは帰るときに叔母さんちのお土産として買って帰ることにした。

ここでも玉山が払ってしまい、敦子はお礼を言うしかなかった。


2人は、一度部屋に戻ることにした。




それから二人で、一階に住んでいるおばさんの家に向かうことにしたのだった。

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