21 新婚さんに間違えられました
今敦子は、電車を降りて改札口に向かっている。
改札口では、すぐ玉山が目に入った。
やはりというべきか玉谷が、目立っている。
きている洋服は、ラフなシャツとパンツなのだが、これがまたすごく似合っていて、まるでモデルの様だった。
敦子だけがそう見えるのかもと、最初はそう思ったが、近づいていくうちに、玉山の周りにいる人の視線が、玉山の視線の先にいる敦子に集中している。
もちろん玉山にくぎ付けになっている人の姿もあった。
玉山が敦子にすぐ気が付いて、敦子のほうに笑顔でやってきた。
敦子は、敦子しか目に入ってないとばかりにまっすぐにやってくる玉山の姿を見て、なんだか自分が物語のヒロインになったような気がした。
敦子は、昨日買ったばかりの洋服を着てきてよかったと思ったのだった。
結局あの後部屋で連絡をして、敦子は玉山に○○駅からのせてもらうことにしたのだ。
一応最初は、遠慮したのだが、時間を言ってくれとあったので、その駅に着く時間を連絡したところ、玉山もその頃用事が終わるので、ちょうどいいということになったのだ。
「 おかえりなさい。荷物持つよ。 」
「 いえっ、大丈夫ですよ。あっ、ありがとうございます。 」
玉山が、さりげなくそう言い手を出してきた。
そうして敦子が持っている荷物を受け取る。
敦子は、遠慮しながらも玉山のさりげない気づかいにお礼を言った。
2人は、玉山がとめてあるという駐車場に歩いていった。
車を運転して、しばらくしてから玉山が言った。
「 休養できた? 」
「 あっ、はい。友人にも会えましたし、買い物にも行ってきました。ただ・・・。 」
敦子は、神社の裏の滝であった出来事を、玉山に話していいものか少しだけ悩んだ。
「 ただ? 何かあったの? 」
玉山が優しい口調で聞いてくれた。
敦子は、思わず神社の裏の滝であったこと、神社の前の湖でおこったことを話してしまった。
「 そんなことがあったんだ。 」
玉山は、最後まで口を挟まずに静かに聞いてくれた。
そうこうしているうちに車は、アパートに着いた。
車を降りてから、部屋に戻るとき玉山が言った。
「 また買い物行くんだよね。よかったら付き合うよ。そのあとで夕飯を食べに行かない? そこでさっきの事詳しく聞かせて。 」
「 じゃあ、うちで食べます? 買い物は、してきちゃいます。 」
「 いいの? じゃあ荷物置いたら、先に買い物行く? 買い物は、歩いて?車で? 」
「 いつも行くスーパーは、歩いていくので。 」
「 じゃあ僕も行くよ。荷物持ちするよ。行くときには、インターホン鳴らして。 」
いつの間にか、敦子の家で一緒に食べることになってしまった。
敦子は、人に聞かれたくない話だから、家で食べることにしたんだと自分に懸命に言い聞かせた。
じゃないと、なんだか踊りだしそうな気分になっていたのだ。
敦子は、部屋に戻り、急いで着替えて玉山の部屋のインターホンを押した。
今度は、歩いて玉山と二人で、スーパーに行った。
玉山が横でカートを押してくれる。
敦子は、頭の中で作る予定のものを思い描いて、材料を次々に買っていった。
集中していたせいか、肉売り場で真剣に肉を吟味していると、肩をたたかれた。
はっとしてみると、玉山さんが笑顔で、指をさしている。
「 奥さ~ん、奥さ~ん。ちょっとこれ味見して。 」
指さす方を見れば、試食売り場のおばさんが、こちらに爪楊枝に刺した肉料理を差し出している。
玉山がカートを押したままそちらに行くので、慌てて敦子もついていった。
そしてまず敦子のところに、爪楊枝が刺してある試食を差し出してきた。
次に玉山に試食を渡そうとしたところ、なぜかびっくりしたおばさんは、少しの間惚けていた。
「 奥さん、新婚さん? すごい人と結婚したのね~。うらやましいわ~。 」
敦子のほうを全く見ずに、玉山のほうになぜか両手で、試食を差し出していた。
玉山は、少し笑いながら、一つ試食を受け取り食べた。
おばさんは、その笑顔にやられたのか、よろっと体が傾いた。
もう一つもぜひぜひと差し出すので、玉山は、律儀に受け取り食べていた。
そのままいたら、残りの試食全部を、玉山に差し出しそうな勢いだったので、敦子はカートをさっと持ち、お礼を言ってその場を離れた。
玉山も試食のお礼を言って、その場から離れた。
おばさんが、またもやよろっとよろけていたのが、敦子の目の端に映った。
玉山は、カートを敦子から受け取りいった。
「 今、奥さんって言われちゃったね。新婚さんに見えるのかなぁ。 」
今度は、敦子がよろけることになってしまった。
いろいろあって、なにがなんだかよくわからないまま買い物を終えて、また二人でアパートに戻った。
帰りに玉山は宣言通り、荷物をすべて持ってくれた。
敦子は、遠慮したが笑顔で返されてしまった。
「 今日は、ごちそうになるんだから持つよ。夕方7時でいい? 」
敦子は、夕食を張り切って作ろうと思った。
玉山と玄関で別れて、敦子は急いで材料を冷蔵庫に入れ、今日作る準備を始めた。
そしてこの前作ったチーズケーキを解凍しておく。
料理が終わったころ、ちょうど7時になった。
インターホンが鳴る。
部屋に玉山を通して、この前のように座ってもらった。
料理を皿に盛り付け、玉山に出した。
「 今日のもおいしそうだね。ありがとう。 」
「 いえ、さあどうぞ。 」
敦子は、ご飯をよそって玉山に差し出した。
「 ありがとう。 」
玉山が早速食べ始めた。
玉山の食べる様子を見て、敦子はなぜかこの光景がしっくりくるのを感じた。
そしてこの前のように二人で、食器を洗い、デザートとして解凍しておいたチーズケーキを出した。
「 これも手作り? 」
「 あっ、はい。この前作ったものなんですけど。 」
敦子は、コーヒーを淹れ玉山に出した。
玉山は、おいしいおいしいとほめてくれた。
ゆっくりコーヒーを飲み始めたところで、敦子に聞いてきた。
敦子は、もう一度、滝や湖でのおこったことそして林から聞いた昔話のことなどいろいろ話した。
「 また水を操ることができたんだよね。 」
「 そうなんです。でも今回は、自分で操ったんじゃあなくって、水が勝手にきたんです。 」
「 不思議だね。それにその水柱だったかな。何か関係ありそうだよね。あと昔話をしてくれた同級生だったかな。また会うの? 」
「 林君の事ですか。どうでしょうね。機会があったらですね。 」
「 そうなんだ。その林君は、彼女今いないんだよね。 」
「 そうですね。でも弟が言ってたんですけど、モテるそうなので、今度帰った時には、彼女もういそうですけどね。 」
「 滝村さんは彼の事どうなの? 」
敦子は、なぜか玉山が、あの不思議な出来事より、林の事をやけに聞きたがるのが、不思議だった。
「 彼は、まだ元カノの事が、忘れられないようですし、別に何とも思ってないですよ。 」
玉山は、敦子のいった答えに満足したのか、コーヒーをゆっくり飲んでいった。
「 そうなんだ~。 」
敦子は、林より目の前にいる玉山のほうが、百倍も気になるとは言えないのであった。




