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この世界、締切よりマシだと思ったのに  作者: アンドリュー・チェン


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第五章: 見えざる盾と恐怖の色

翌朝

薄暗い台所で

母の声が聞こえた


「エルズベット」


その口調は柔らかいが

慣れ親しんだ

疲れた緊張に縁取られていた


彼女は硬貨を差し出した

私の手に触れる前から

彼女の掌で冷たくなっている金属


「市場へ

マルテンのパンを一つ」


彼女の目は私の目を捉え

その奥には

言葉にならない願いが

私が熟知している無言の叫びがあった


急いで

目立たないで


市場広場に足を踏み入れた瞬間

世界は収縮した


最初に襲ったのは匂いだった

土っぽいジャガイモの香り

鋭いタマネギの辛味

圧倒的な甘さの熟したベリー


あまりに鮮烈で

味わえる色のように感じられる匂い


他の者たちには交響曲

私には混沌とした雑音


そして

視線が始まった


路地裏の少年たちの

大胆で挑戦的な凝視ではない

これはもっと悪かった


注意の

ゆっくりと忍び寄る潮流


卵を売る女性が私を一目見て

すぐに目をそらし

口を引き結んだ


ポーションショップの傍らの二人の男が

会話を止め

私の進行を少し長く追う


ある母親は子供を引き離さず

ただ子供の肩を向き変えた

無色の娘からそっと方向を変えて


私は市場の池に落とされた石

その波紋は沈黙と

そらされた視線でできていた


マルテンの店に着いた

一人前の客がいた

髪に明るいリボンをつけた少女


マルテンは彼女と笑い

顔をくしゃくしゃさせながら

ペイストリーを手渡した

「君には

少し多めにな」


彼女はクスクス笑い

跳ねるように去って行った


彼の笑顔は

私に目が留まった瞬間に消えた


その変化はあまりに完全で

シャッターが下りるようだった


市場の喧騒は遠退き

彼の店の周りに

深遠な静寂のポケットを作り出した


「用は?」彼は平坦な声で言った


「黒パンを一つお願いします」

私は囁いた

自分の声がひどく小さく聞こえた


彼は背を向けた

その背中は広く

歓迎しない壁


彼は時間をかけた

パンを選び

紙で包む

ゆっくりと意図的な動き


沈黙は物理的な重さ

私を押しつぶす


列の次の客の視線が

背中に焼きつくのを感じた


私はカウンターの

粉だらけの指紋を見つめ

頬が火照った


彼はパンをカウンターに置いた

私は硬貨を載せた手を差し出した


彼は私に触れることなく

掌から硬貨を受け取った

その指は器用で素早い


硬貨を金箱に落とした

チリンという

決定的に聞こえる音


「じゃあ

行ってくれ」彼は呟いた

私を見ず

すでに私の肩越しに

次の

より歓迎される客を見ながら


その拒絶は

押しのけられるのと同じくらい効果的だった


私はパンを握りしめ

その温もりは今や熱のように感じられ

店から逃げ出した


数歩離れた瞬間

普通のおしゃべりが再開した


私はほんの短い

不快な中断だった

今や修正された


路地は

わずか十歩の間

避難所だった


彼らが現れる前に

ヨルンとその仲間たち

壁にもたれかかり

欠陥品を苛めるための

全ての時間があるかのように


「さて

呪われた者じゃないか」

ヨルンは壁から離れて言った

「母親の買い物か?

屋根裏に隠されているべきじゃないのか?」


通り過ぎようとしたが

そばかすの飛んだ少年が

前に立ちはだかった


「おい

真っ白さん

このパンがカビてるか

わかるのか?

それとも全部

灰色のペーストに見えるのか?」


笑い声

それは脆く

意地悪だった


熱い涙が一つ

逃げ出し

頬を伝うのを感じた


私はそれが嫌だった

傷ついたという物理的な証拠


「彼女を放っておけ」


その声は大きくはなかったが

笑い声を喉で凍りつかせる

静かな威厳を帯びていた


ロリック


彼はただそこにいた

影から現れたように


彼は手をだらりと横に下げて立っていたが

少年たちが即座に認識した

張り詰めた準備態勢が彼にはあった


彼はヴィルヘルムの親友

その瞬間

彼は紛れもなく戦士のように見えた


ヨルンの虚勢はしぼんだ

「何もしてなかったよ!」


「していた」

ロリックは揺るぎない視線で言った

「害虫のように

散れ」


彼らは散った

明かりがつけられた時のゴキブリのように

路地の裂け目に消えた


ロリックは彼らが去るのを見届けた

路地が空になるまで


それから彼は私に向き直った

私の世界では深く

落ち着いた灰色のその目は

私の顔を走査した


彼は私が籠を

死に物狂いで握りしめているのを見た

それについても触れなかった


「家に帰る最短の道は

皮なめし職人を通り過ぎる道だ」

彼は話し言葉の口調で言った

まるで私たちが

楽しい散歩中に偶然出会ったかのように

「匂いはひどいが

連れはましだ」


私は震えながらうなずいた

彼は私の傍らに歩調を合わせた

近すぎず

しかし彼の存在が盾であるほど十分に近く


私たちは沈黙して歩いた

しかしそれは市場の沈黙とは違った

これは平和だった


唯一の音は私たちの足音と

広場の遠く

無害な雑音だけ


彼は

彼らを無視しろと言わなかった

良くなるとも言わなかった


彼はただ私と共に歩いた

世界の残酷さに対する

確固たる

沈黙する防壁


一歩一歩

胃の中の恥と恐怖の結び目は

緩み始めた


私は自分のドアに着いた

慣れ親しんだ

剥がれかけた緑のペンキが

これほど歓迎的に見えたことはなかった


「ありがとう

ロリック」

私は声に少し力を込めて言った


彼は一度

しっかりとうなずいた

「ヴィルヘルムに

後で寄るって伝えてくれ」


彼は躊躇い

そして付け加えた

「顔を上げて行け

エルズベット」


それから彼は向きを変え

去って行った

その歩幅は長く

気楽だった


私はしばらくそこに立ち

自分の通りの静けさを吸い込んだ


籠の中のパンを見下ろした

それはただのパンだった


しかしそれは

それでも

視線にもかかわらず私が買い

嘲弄を通り過ぎて運び

友の保護の下で家に持ち帰ったパンだった


私はドアを押し開け

中に歩み入り

パンを台所のテーブルに

柔らかく

最終的な音を立てて置いた


終わった

そして私は家にいた


翌朝

恐怖には匂いがあった

古い灰と

研がれる金属の刺すような匂い


母は繕いのための糸が必要だった

通常は果てしなく平凡に感じられる仕事


しかし今日

織工の店までの道のりは

戦いが始まる前の

戦場を横断するように感じられた


母は歩調を速め

私を引きずった


織工の店は通常

静かな仕事場で

機織り機の柔らかなカチカチという音と

糸の優しいさらさらという音で満ちていた


今日

それは不安の

肃とした礼拝堂だった


数人の女たちが中に集まっていた

彼女たちの声は低く

切迫している


織工のロルナ夫人は

カウンターの後ろではなく

彼女たちの中に立ち

腕を胸の上でしっかりと組んでいた


「本当よ」

桶屋の妻の女が言っていた

「主人が

閉鎖前の最後の patrol から戻った

衛兵から聞いたの

『荒廃の辺境』の端の木々が

叫びに捻じ曲げられているって」


集団の中に

震えが走った


母が咳払いをした

女たちは振り向いた


共有された恐怖で大きく見開かれた彼女たちの目は

一瞬私の上をちらりと通り

私を退けた


悪魔の侵略の可能性に直面して

無色の娘は

もはや差し迫った好奇心ではなかった


「ロルナ夫人」

母はかすかな声で言った

「灰色の糸が欲しいの

繕いのために」


普通の依頼が

馬鹿げて聞こえた


ロルナ夫人はそっくりとうなずき

カウンターの後ろに移動した


彼女が糸を計っている間

話し続けた

その言葉は母に向けられていた

「閉鎖はほんの第一歩だって

言っているわ

隔離

次は

男や少年たちを

国境を強化するために

徴兵するだろう」


桶屋の妻は激しくうなずいた

「私のヨーレンはもう

古い民兵の革服を

箱から引っ張り出したの

準備しておいた方がいいって」


会話は私の周りで渦巻いた

隠された地下室

非常用袋の準備

子供たちをより北の親戚に送ることについての話


彼らは囁きで要塞を築いていた

それぞれの女が

恐ろしい推測の石を

壁にさらに一つ加える


母は糸の代金を払った

指がわずかに震えている


誰もさよならを言わなかった

私たちはただ去った

ドアのベルが

私たちが恐怖の空気に戻る一歩を踏み出すと

嘲るように陽気な音を鳴らした


その晩

不安は

厚い塵のように

私たちの家に落ち着いた


夕食は静かで

緊張したものだった


シチューは食べられたが

誰もその味を感じなかった


ヴィルヘルムは落ち着きなく

そのエネルギーは部屋の中の

通電したワイヤーのようだった


ついに

彼はもう我慢できなくなった


「南道が閉鎖された」

彼の声はテーブルには大きすぎた

「アスリーン峠で

完全に」


父はパンをゆっくり噛み

眉をひそめた

彼は実用的な男

ハンマーと鉄でできた世界の鍛冶屋だった

「雪崩だろう

先日夜の地震は鋭かった

多分

崖を崩したんだ

撤去するだろう」


しかしヴィルヘルムは首を振り

目は私を怖がらせる

厳しい興奮で輝いていた

「違う

父さん

彼らが言っているのはそうじゃない

蝋燭屋のヘムロックが

命令は黒いリボンで封をされていたって言った

黒いリボンだ」


彼は身を乗り出し

声をひそめた

劇的な口調に落とした

「そして

今日の午後

南から騎手が来た

彼は宿屋に止まらなかった

まっすぐ村長の家に行き

彼は幽霊を見たような顔をしていた」


空気は冷たくなった

母の手が喉に当たった

「何を言っているの

ヴィルヘルム?」


「魔王だって言ってるんだ」

ヴィルヘルムは

それが唯一の論理的結論であるかのように言い切った

「地震は彼の仕業だ

彼は古い結界を試している

道が閉鎖されているのは

彼が辺境に軍を集結させていて

王冠は誰にも見られたくない

あるいは彼の偵察隊を通したくないからだ」


父は嘲笑った

しかしそれは弱く

虚ろな音だった

「迷信的なナンセンスだ

王冠が道を閉鎖したのは

峡谷に落ちたからだ

彼らはすべての穴のために

布告を出す必要はない」


「ナンセンスですか?」

ヴィルヘルムは

その視線を強めて挑んだ

「なぜ他に峠全体を閉鎖する?

ただの『道路修理』の標識ではなく

完全な守備隊の封鎖だ?

『荒廃の地』の端をかすめる唯一の道

唯一だ

それは偶然じゃない」


私は彼らを見つめ

食べ物を忘れた


父の顔の葛藤を見た

合理的な男と

守る父親

夫との戦い


彼はそれを却下したかった

しかし村の噂によって注意深く植えられた疑念の種は

彼の頑健な心の中でも根を下ろしつつあった


「彼らは言っている」

ヴィルヘルムは

声を今ではかすかにして続けた

「峠の近くの空気そのものが

灰と鉄の味がするって

鳥たちが歌うのを止めたって」


母は柔らかに息をのんだ

「聖なる聖人よ

私たちをお守りください」


会話は続いた

父の張り詰めた論理と

ヴィルヘルムの恐ろしい確信の間で揺れ動いた


彼らは民兵の召集

暗黒の勢力との最後の戦争についての古い物語

私たちの村が標的になるには北すぎるかどうかについて話した


私は彼らの間に座り

何も言わなかった


私は兄の顔

勇敢で愚かな情熱で歪み

父の顔

疲れた

実用的な恐怖に刻まれた皺を見た


織工の店の女たち

噂で自分自身を強化している

そして鍛冶屋の男たち

研がれた鋼で自分自身を武装している


そして私は

冷たい明快さで悟った


魔王は兵士を一人も送る必要はない

彼はすでにここにいる


彼は鍛冶屋のハンマーの慌ただしい音の中に

織工たちの肃とした囁きの中に

そして私自身の食卓の

激しい

恐怖に満ちた沈黙の中にいる


彼はパニックの種

それは私たちの閉鎖された道と

私たちの恐怖に満ちた心の肥沃な土壌に根を下ろし

すでに私たちを窒息させている

巨大な影に成長していた


その夜遅く

眠りは

優しい潮としてではなく

突然の

静かな落下として訪れた


私の部屋の慣れ親しんだ空間は

広大な

ありえない空間に溶解した


私は

森でも虚空でもない場所に立っていた

しかし

星明かりの川が

暗く滑らかな黒曜石の床の上を

静かに流れる交差点に


一瞬前まで

荒い毛布の感触が頬にあった

次の瞬間

私は

森でも虚空でもない場所に立っていた


私の前で

液体の星明かりの川が

静かで

ありえない合流点で流れ

その光が

深遠な闇の中での唯一の照明だった


空気は

静かな音楽でブンブン音を立てていた


この交差点の中心に

あの存在が待っていた

宇宙的な光

意識ある星雲


今回は

混乱はなかった

記憶は私の魂に刻み込まれていた

湿った土と松の清々しい香り

彼の緑がかった金色の光の光景

時間よりも古いエネルギーの舞


彼は神の背後に立つ人物

鍛冶場でGペンを使うように私に言った声を思い出した


「覚えているな」

その声は

私の骨の髄を通して響き渡る振動だった


「ええ」

私は

私の霊の声を安定させて答えた

「でも

まだあなたが誰かわかりません」


応えて

周囲の光が集まった

渦巻く銀河と

太陽の誕生で織り成された

背が高く輝く姿に自分自身を引き寄せた


彼の目は二つの事象の地平面

無限の知恵と

恐ろしい深さの両方を約束する


「私は多くの名で知られている」

彼は宣言した

各音節は創造の歌の一音

「『歌の形成者』

『運命の織手』

お前たちの最も古い物語では

妖精王」


しかしこれらは mortal たちが与えた称号に過ぎない

私は宇宙の最初の息吹から

物質以前の純粋なエネルギーから生まれた


彼の規模は恐ろしかった

これは野や小川の単純な精霊などではない

これは存在の管理者だった


「なぜ私なの?」

その問いは私から割れるように出た

単純な少女からの必死の懇願

「なぜ蝋燭一つ灯せない

鍛冶屋の娘を選ぶの?

他にいるでしょ?」


彼を構成する輝く星明かりは薄れた

世界よりも古い悲しみで陰った


「お前の前に

もう一人いた」

彼は言い

ビジョンが展開した


一人の男が現れた

その心は革新と驚異の輝く炉

その創造物は息をのむような美しさのもの


そして

微妙な変化

誇り

遅効性の毒が

彼を歪めた


彼の美しい創造物は

棘と毒を成長させた

かつて光に満ちていた彼の目は

暴力的で飢えた紫色に変わった


「絶対的な力が彼を堕落させた」

王の声は

喪失の重みで重かった

「彼は世界の秩序を

尊重すべきものではなく

取って代わるべきものと見た

魔王は支配権を持ちかけて彼を誘惑した

彼はそれを受け入れた

彼は今

彼らの精鋭将軍の一人だ

創造の芸術を使って

生命をほどいていく」


恐ろしいビジョンは溶解し

星々の空気に寒気を残した


「私はお前を選んだ

エルズベット」

彼は言い

その声は

優しさに似たものに柔らかくなった

「お前の力のためではなく

お前の良さのために」


恥によって試され

しなやかさを見出された心のために

野心からではなく愛から創造する魂のために


それが私の求めるものだ

だからお前でなければならないのだ


その真実は

私の内深くに落ち着いた


これはもはや

村や私の屈辱についてのことではなかった


これは現実を跨ぐ戦争と

その中での私の役割についてだった


私は顎を上げた

新しく見いだした強さが背筋を伸ばした

「何をしなければならないの?」


「時が来れば

自ずと明らかになる

お前に与えられた道具を信じよ

お前が常に持ってきた心を信じよ」


「もっと質問があります」

私は

私の地上的な痛みの核心が表面化して

押し進めた

「何より

なぜ私は無色で生まれたの?」


彼は微笑んだ

優しく

古く

計り知れない表情

何億年もの忍耐を抱えて


「お前が準備できた時

理解するだろう」


すると

夢の雰囲気が変わった

流れる星明かりの川は

寸断したように見えた


深く

響き渡る震動が

私の足の下の非地面を通り抜けた


「聞け」

彼は警告した

「均衡が崩れつつある

災難がお前の家に向かって動いている

勇敢であれ

エルズベット

待つ時は終わった」


夢は溶解し始めた

星明かりの川は

虚空に逆流して


「警戒せよ

勇敢であれ」


夢は

消えゆく光のシャワーに粉々になった


私は息を呑んで目覚めた

真実が

第二の

戦争の太鼓の心臓のように

私の胸で鼓動していた


妖精王の警告はもはや予言ではなかった

それは約束だった


「すぐに」は今だった


そして世界の重みは

恐ろしく

胸を躍らせるほど

私の肩の上に感じられた

遂にその正体を現した謎の存在。

エルズベットに告げられた警告とは――?

次章、同じ時間、同じ場所で、明かされる。


【作者より】

いつもお読みいただき、ありがとうございます。更新時間の混乱によりご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。時間の誤計算を改め、今後は毎週金曜・日本時間20:00(午後8時) に更新を徹底いたします。引き続き、この物語をお楽しみいただければ幸いです。応援、心より感謝します。

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