第二十二章: 第一の試練.
目を開けた。
光。柔らかい。見慣れている。ここにあるはずのない、温かさ。どこか、まったく別の場所に属しているような温かさ。自分が何を見ているのか、理解するのに一瞬かかった。天井。平らだ。白い。長年の間に塗り重ねられたペンキのせいで、ところどころわずかに凸凹している。片方の隅に、かすかなひび割れが走っている。
瞬きをした。
図書館は、消えていた。冷たく、古びた静寂は……
消えていた。
代わりにあったのは:
電気の低い唸り。遠くの交通騒音。冷蔵庫のかすかなブーンという音。
胸が締め付けられた。
ゆっくりと、起き上がった。
目の前の机は散らかっていた。書類が不揃いの山に積まれ、インク壺、ペンが倒れた兵士のように散らばっている。タブレットの画面が、片側にかすかに輝いている。コーヒーは冷め、肘の近くで忘れ去られていた。
私の手は、もう動いていた。
描いていた。
ペンが指の間に収まっている。Gペンじゃない。ただの……ペン。
息が止まった。
光が、おかしかった。あるいは、正しかった。もう、わからなかった。それは、あの特有の角度から窓の外から差し込んでいた。午後遅く、おそらく。太陽は、既に街の西端に向かって滑り落ち、すべてを柔らかな琥珀色の輝きで染めていた。この狭いワンルームのアパートでさえ、そこにいる価値のある場所のように感じさせていた。
私のワンルーム。下北のあの部屋。椅子がやっと置けるだけのバルコニーと、電車の音を決して完全には遮断できない壁。この空間を知っている。この時間に、光が床に溜まる様子を。その中を、塵の微粒子がゆっくりとした星座のように漂う様子を。
私は、自分の机に座っていた。
原稿が、私の前に開かれていた。ページが、机の上に広がっている。コマと、コマの間の余白と、何ヶ月も前に書いた、あるいは今書いている、あるいはこれから書くであろう台詞。ここでは、時間が奇妙に感じられた。不在、ではない。ただ……柔らかい。輪郭がぼやけている。描きすぎて、外の世界が遠くのハミングに変わってしまった時のように。
Gペンが、私の手にあった。
それを見た。ここでは、ただのペン。金属とインクと、何年も使い続けてきた道具の、見慣れた重さ。それは、唸らなかった。輝かなかった。それは、ただの物だった。私の指の間に座り、私が描くのを待っている。
これは、正しかった。これは、普通だった。ボードの前で何時間も過ごしたせいの、手首の痛み。インクと紙と冷めたコーヒーの匂い。壁の向こうの街の、かすかな電気のハミング。車と電車と、私を除いた何百万もの人生の動き。
これを、恋しかった。
その思いは、重みもなく、切迫感もなく、浮かび上がった。ただの事実。ずっと真実だったものが、定位置に収まるように。
**「それで、漫画の表紙なんだけど」**
ハナが言っていた。
**「これ、前回よりいいと思うんだよね。それと、彼女の手の部分」**
振り向いた。
彼らが、そこにいた。机の端にハナ。手にタブレット。スタイラスが、何年も聞いてきたあのリズムで、画面を叩いている。窓際でレイアウトをめくっているノア。その隣にリョウタ。本棚にもたれかかり、腕を組み、問題を考えている時によく浮かべる、あのしかめっ面。彼らの声。彼らの名前。彼らの議論の、特有の調子。その全てが、正しかった。正確に、日常的に、心地よく、正しかった。
**「顔の前に」**
ハナは、続けた。
**「だから、私たちは彼女を認識する前に、その技法を認識する」**
**「でも、彼女はずっとこのシリーズを描いてきた」**
リョウタが言った。
**「私たちは、彼女の手を知っている」**
**「こんな風には。この表紙は、違う。彼女のペンの持ち方が変わったのは……」**
ハナが、止まり、ちらりと私を見て、そしてそらした。
**「……その後」**
タイトル。「この世界、締切よりマシだと思ったのに」
何の話をしているのか、尋ねるべきだった。どの表紙か、どの章か。どのキャラクターか。どのシーンか。
その代わりに、私は、うなずいているのに気づいた。
**「手を先に見せろ」**
二人とも、私を見た。驚いて、かもしれない。あるいは、喜んで。あるいは、その中間。
**「だから言ったじゃん」**
ハナが、笑った。
リョウタが、首を振る。
**「いつも彼女に味方する」**
**「正しい奴に味方してるだけ」**
**「昨日も、カラーパレットのことで彼女に味方した」**
**「カラーパレットの件は、彼女が正しかったからだ」**
彼らは、話し続けた。私は、聞き続けた。会話は、石の周りの水のように、私の周りを動いていた。見慣れた。予測可能な。何年もの繰り返しで滑らかに磨り減った。ハナが、押す。リョウタが、押し返す。二人とも、同じ解決策に向かって、異なる方向から、いつものように、円を描いて近づいている。
私は、今此処にいるべきだった。完全に。いつもこんな瞬間、そうだったように。彼らの間で捕らえられ、仲裁し、決定し、「これでいい、これはダメ、こっちのやり方を試そう」と言わなければならない者として。
その代わりに、私は、別のものを聞いていた。
彼らの言葉ではない。それらの間の空間。リズム。ハナの声が、まだ何かを考えている時に、文末で上がるあの言い方。リョウタが、譲歩しようとしている時に、黙り込むあの仕草。午後の光が、原稿のページの上を移り変わり、何年も前に描いたコマの縁を捉えるあの様子……
**「……何年も前?」**
私は、原稿を見下ろした。きれいな線。インクで塗られたコマ。台詞の吹き出し。私の handwriting。私のスタイル。私の物語。
胸が、再び締め付けられた。しかし、恐怖からではない。
別のものから。
**認識**。
**「……どこまででしたっけ?」**
私は、静かに尋ねた。
**「図書館のシーン」**
ノアが、ページをめくりながら言った。
**「二十一話。主人公を、何かの古代遺跡に入れたとこまで。正直、雰囲気はとてもいいんですが、まだ魔法システムが完全に理解できていない気がします」**
図書館。その言葉は、奇妙に響いた。まるで、別の場所に属しているかのように。私は、少し眉をひそめ、ページを引き寄せた。コマが、私を見返してきた。
少女。小さく。銀色の髪。青い瞳。脇にはサッチェル。ペンを持っている。
息が止まった。
**「……これは……」**
アシスタントが、私の肩越しに身を乗り出した。
**「はい、主人公。彼女のデザイン、すごく好きです。『無色』っていうコンセプト、すごくユニークですよね」**
**無色。**
その言葉は、響いた。音としてではなく……
記憶として。一瞬、何かが、頭の片隅でちらついた。石。冷たい空気。開く扉。瞬きをする。消えた。
**「先生?」**
ノアが、促した。
ゆっくりと息を吐き、無理やり焦点をページに戻した。そうだ。仕事。締め切り。それが大事なんだ。次のページをめくった。
コマは、続いていた。少女は、広大な図書館に立っていた。棚は、絶え間なく影の中へと続いている。光が、空中に浮かんでいる。アシスタントが、ページをトントンと叩いた。
**「この部分、本に触れるところ。最初は読めないのに、その後、何かの魔法を使って理解するっていうアイデア、好きです。すごく賢いですね」**
指が、紙をわずかに強く握った。
**「……魔法……」**
**「ええ、例えば元素を組み合わせるとか? まだ説明されてないけど、何かを仕掛けているように感じます」**
別のページをめくった。
コマには……
円。ペンが線を描く。空気。土。輝き。
息が止まった。
これを、知っている。書いたからじゃない。なぜなら……
一瞬の閃き。風が肌を撫でる。古代の何かの重み。声……
強く瞬きをした。イメージが、安定した。インク。紙。きれいな線。
**「……これ、もう全部描いたんですか?」**
私は、呟いた。
アシスタントたちは、顔を見合わせた。
**「えっと……はい?」**
ノアが言った。
**「今週ずっと、この編に取り組んでますよ」**
今週ずっと。もちろん。それで、なるほど。すべてが、納得できた。ゆっくりと息を吐き、自分が知っているリズムに自分を固定した。ペン。紙。締め切り。現実。もう一枚、ページをめくった。
コマは、より密度を増し、より詳細になっていた。主人公が、巨大な本の前に立っている。
いや……
**魔道書**。
ノアが、再び身を乗り出した。今度は、興奮して。
**「この部分、すごく面白いです。彼女がそれに触れた時、すぐに場面が切り替わるんですけど。これ、どんでん返しが起こる場所ですか?」**
どんでん返し。その言葉は、間違っているように感じられた。軽すぎる。私は、コマを凝視した。私のキャラクターの手が、表紙の上で宙に浮いている。指が、まさに触れようとしている。胸の奥で、何かが捻れた。
**「……次は、何が起こるんですか?」**
私は、静かに尋ねた。
ハナが、瞬きした。
**「私に言われても。書いてるのは先生でしょ」**
間。
そして、笑い声。
**「まさか、自分のプロットを忘れたんじゃないでしょうね」**
私は、笑わなかった。視線は、ページに戻っていた。少女に。前に伸ばす手に。
**私の手**に。
いや。
それは、正しくなかった。
奇妙な不安が、胃の腑に沈んだ。後ろのページをめくった。前の章。市場。村。小さな家。女。男。少年。
ページは、美しかった。注意深く描かれていた。感情的に構成されていた。温かさの場面。苦闘。孤独。
ノアが、指さした。
**「このシーン、父親が襲撃で傷つくところ。すごく響きました。感情が、とても強かったです」**
指が、ページの上で凍りついた。コマには、描かれていた。地面に倒れる男。火。叫ぶ子供。息が止まった。
一瞬……
ほんの一瞬……
煙の匂いがした。熱を感じた。聞こえた……
声。
**「……エルスベス……」**
心臓が、飛び跳ねた。
手の中のページが、間違っているように感じられた。薄すぎる。静かすぎる。あまりに……
**制御されすぎている**。
長くコマを凝視した。何かが、おかしかった。完璧に見えた。完璧すぎた。線は、きれいだ。構図は、バランスが取れている。感情は……
**正しい**。
しかし……
**「……これは……」**
眉をひそめた。
リョウタが、首をかしげた。
**「ん?」**
私は、少し首を振った。
**「いや、ただ……」**
もう一度、ページを見た。そのシーンを。父親を。火を。すべてが、あるべき場所に、正確にある。それなのに……
それは、まるで、ガラス越しに何かを見ているように感じられた。遠く。安全。閉じ込められている。
胸が、締め付けられた。
**「違う」**
私は、静かに言った。
ハナが、瞬きした。
**「え?」**
原稿を握る手に、力が込もる。目は、コマからコマへと移動する。あらゆる瞬間。あらゆる感情。あらゆる記憶……
**縮小されている**。**構造化されている**。読みやすいものに、組織化されている。きれいなものに。管理可能なものに。
ゆっくりと、静かな気づきが、私を覆った。
**「……これは、私の物語じゃない」**
部屋が、静止したように見えた。
**「え?」**
ノアが尋ねた。
私は、再び首を振った。今度は、より強く。
**「これは、ただ……」**
言葉を探した。声は、次第に確かになっていく。
**「これは、ただ、私が書いたであろうものだ」**
顔を上げた。彼らを見た。部屋を見た。とても見慣れたこの生活を見た。それなのに……
胸の奥の何かが、それを拒絶した。
**「……でも、私は、これ以上を生きてきた」**
沈黙。アシスタントたちは、反応しなかった。動かなかった。冷蔵庫のハミングが、途切れた。部屋の光が、ちらついた。
一度。
二度。
ゆっくりと、立ち上がった。椅子が、床を擦る音がした。突然、壊れやすい静けさの中で、その音は鋭すぎた。
もう一度、原稿に視線を戻した。ページの少女が、私を見返してきた。
静止している。
完璧。
不完全。
**「……あなたは、何かを欠いている」**
私は、ささやいた。
手が、わずかに震えた。
**「私が決して描けなかったものを」**
空気が、変わった。部屋の輪郭が、ぼやけ始めた。アシスタントたちは、動きの途中で凍りついた。手の中のページ……
**ひび割れた。**
細い線が、砕けたガラスのように、インクを貫いて走った。そして、また一本。また一本。
幻影が、砕けた。
消えるのではない。
**壊れる**のだ。
コマが、割れる。
光が、屈折する。
音が、崩壊し、静寂へと落ちる。
そして、私は……
その**間**の空間に、一人、立っていた。
エルスベスは幻術を打ち破ったようだ。
次に何が起こるのか...
次回、同じ時間に、同じ場所で。




