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迫り来る地響きに臆さず足を前へと踏みだし、ドラゴンゾンビへと駆け寄って行く。
ドラゴンゾンビはまるで虫でも薙ぎはらうかのように大きく尻尾を振って俺のことを弾き飛ばそうとしてきた。
「リープステップ」
振るわれた尻尾を跳躍スキルでかわし、落下にあわせてドラゴンゾンビをきりつける。
「相変わらず固いな……!」
だが目立った傷はつかず、ドラゴンゾンビの体力を表す頭上の体力バーも微動だにしていない。
この程度で有効打は与えられない事は十分痛感してきたため、慌てず一旦距離をとる。
ドラゴンゾンビは竜の成れの果てで、アンデッド系のモンスターと竜系モンスターの特徴を併せ持つ。
そもそも竜系モンスターは最前線のダンジョンやオープンエリアに出現する、リンクコネクト内では最強のモンスター系統だ。
そんな竜系の特徴と、これまた強力なモンスターの系統であるアンデッド系モンスターの特徴を併せ持つドラゴンゾンビは、ものすごく強い。
と、俺も最初は思っていた。
実際のところ、戦いを重ねてむしろ普通の竜種よりも弱い事がわかっている。
朽ちた羽根では飛ぶ事もできず、耐久力もふつうの竜種に比べればはるかに劣る。
アンデッド系の特徴も、むしろ弱点が多くなっているだけであり、火属性や聖属性の魔法がききやすくなっていた。
そこは少人数用ダンジョン、ちゃんと調整されているのだろう。
ただそうはいっても強大なボスであることに変わりはなく、ブレスが直撃すれば一撃アウトだし、その巨体から繰り出される攻撃はかすっただけでも致命傷になりかねない。
「エンチャントファイア」
事前の戦いで火が弱点であることはわかっているため、火属性の付与スキルを武器に使う。
燃え盛る炎をまとった剣を構え、ドラゴンゾンビの前足へと切りかかった。
遠距離から魔法スキルをうちまくっている方が安全に攻撃できるが、あいにく俺は近接スキルしか取得していない。
俺のプレイスタイルとして、近接攻撃特化を貫いているからだ。
いままでとったスキルは身体強化系、武器強化系、そして近接スキル。
近づいて攻撃することしかできない完全な脳筋キャラというやつだ。
煩わしそうに前足を振り払い、俺のことを吹き飛ばそうとドラゴンゾンビがもがく。
それをギリギリのところでかわしながら、執拗に前足だけを狙い続ける。
ドラゴンゾンビは翼が使えず、後ろ足も体全体を支えるほどの力が残っていないためか、トカゲのように地面を這うことしかできない。
だから、4本の足をどれか一つでも使えなくしてしまえば、こいつはそこから動けなくなる。
これがなんども挑んで覚えた、一つの攻略方法だ。
「エンチャントショックウェーブ」
なんども切り刻まれ、火にあぶられ、ドラゴンゾンビの前足はズタボロになっていく。
頃合いを見て、もともと腐って防御力が落ちた肉に付与スキルの効果を纏った剣を突き刺した。
刺さると同時に俺の剣からは衝撃波が放たれ、ドラゴンゾンビの前足を内側から突き破る。
「グオォォ……」
前足を再起不能にされ、ドラゴンゾンビは低いうめき声をあげながらその体をずしりと崩す。
「よっし……ぐっ!」
体制を崩したことで生じた一瞬の心の緩みにつけこむように、その隙をついてドラゴンゾンビが残った方の足で俺を殴り飛ばした。
壁までたたきつけられ、部屋の中に轟音が鳴り響く。
「くっ……そ……!」
とっさにガードしたものの、スキルの発動まではできなかったため大きく体力を削られてしまった。
ステータスを確認するとすでに体力の表示は半分を切っていて、注意を表す黄色に染まっている。
「まだだっ……!」
もちろん回復スキルはもっていないので、そのままの体力でドラゴンゾンビへ立ち向かう。
相手ももはや動くことはできず、体力も半分ちかくまで削れている。
お互いボロボロだが、勝機はまだあるはずだ。
「ソードエンハンス、ウェポンブースト、エンチャントホーリーレイ」
強化スキルを重ね掛けし、一気に勝負に出る。
すでに前足は使えずこちらの攻撃を待ち構えるようになったドラゴンゾンビに、真っ向から突っ込んでいく。
もちろんただで見ていてくれるはずもなく、動く方の前足を押し出して俺を吹き飛ばそうとしてくる。
その攻撃を跳躍スキルでよけ、がら空きの背中へと渾身の一撃を叩き込んだ。
背中に巨大な裂傷を受け、ドラゴンゾンビは絶叫をあげて地面へと倒れ込む。
「やったか!?」
待望の勝利を期待し、着地してドラゴンゾンビへ視線を移した俺の目に映ったのは、紛れもない絶望だった。
ドラゴンゾンビの体力は危険域を示す赤色を表示しているものの、まだ倒れてはいない。
そして、その口からは火の粉が溢れブレスの準備が整っていることを示していた。
「やっべ……」
回避しようとするも間に合わず、もろにブレスの直撃を受けてしまう。
「ぐふっ……」
爆音と爆風に包まれながら、俺の意識は真っ暗闇に落ちていった。
「……今日も勝てなかった」
死亡したことで自動的に街へと送り戻された俺は何度目かの敗北に小さくため息をつく。
今回ばかりは行けそうだと思ったのだがやはりそう簡単には倒れてくれないようだ。
時間を確認するとすでに日付は変わっている。
夕飯も食べずにずっとゲームをしていたことに我ながらあきれつつも、明日の学校を考えそろそろやめようとログアウトボタンに手を伸ばした。
そこでふと、フレンドリストの文字が目に入る。
一応、クラスメイトと別れる際にフレンド登録をしたことを思い出し、まだ誰かやっているのか気になってリストを開いてみた。
案の定というかリストは、そのほとんどがオフラインを表す灰色の文字で溢れている。
まぁ普通はこんな時間までやっていないだろう、平日の真っ只中だし。
でもだからこそ、その中で唯一オンラインを示しているチユ、雨森のキャラクター名はとても目立っていた。




