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1-2

 俺はどうやら自分の事を甘く見ていたらしい。

 まさかここまで人と話すことが難しいとは。


「どうしてこうなった……」


 学校が終わり家に帰ってきた俺は、VR機器を前にして項垂れていた。

 あの後、ろくに考えもせず断ろうと決めた俺だったが、そもそもぼっちである俺が雨森に声をかけるということがどれだけ難易度が高いかということを見誤っていた。

 雨森はその容姿や性格から男女問わずクラスの人気者だ。

 もちろん、その周りには常に誰かがいる。

 そんなところに、一対一でもろくに話すことできない俺が声をかけにいけるだろうか。

 

 そんなことは考えるまでもなく、不可能。

 

 寝不足で思考力の低下した俺はそんな簡単なことにすら気が付かなかったのだ。

 それでも、ちゃんと断ろうと努力はした。

 あっ、とかえっ、とかホラーゲームの敵役かよと言いたくなるような声をしぼりだすも、まぁそんな声が友達と楽しそうに話している彼女に気が付かれるはずもなく。

 そんな様子を見ていたクラスの他の女子に気持ち悪がられただけだった。

 

 結局、学校が終わるまで雨森に声をかけることはできず、こうして家に帰ってきてしまった。


「どうしようかなぁ……。あの集まりに参加したくはないけど、これで約束無視なんかしたらそれこそ俺の立場がなぁ」

 

 自分自身重度のゲーマーだという自覚はしているけれど、まだ学校に通わなくなるほどではない。

 でももしこれで今以上に自分の立場が危うくなろうものなら、そろそろ本当に仮想世界の住人になりかねない。

 リンクコネクトの世界は楽しいし。


「くそう、せっかくの正式サービス開始日だってのにどうしてこんなどうでもいいことで悩まなきゃいけないんだ」

 

 大きくため息をついて愚痴るが、もちろん答えてくれる人は誰もいない。

 ここでぼーっとしていても仕方ないとVR機器の電源をつけ、頭に装着する。


「ん、メール?」


 VR機器は自分の携帯端末とも連携しているので、メニュー画面でメールなんかを見ることもできる。

 もっとも俺にとどくメールなんて皆無なのでそんな機能気にしなたこともなかったが。

 だからこそ、珍しく受信を主張するメールボックスをつい好奇心で開いてしまった。

 

『18:00から初心者の街にある噴水前で待ち合わせることになってるから。ぶっちは許さないからね』

 

 その文面と、差出人に書かれている千優という文字を見て、もう一度大きくため息をついた。

 こうまで言われてしまってはもう逃げられないだろう。

 どうせあいつらのことだ、すぐに飽きるに違いないし、もしかしたら今日だけかもしれない。

 

 そう覚悟を決めて、リンクコネクトを起動する。


 瞬間、目の前が暗闇と、星空のような輝きに包まれた。

 座っている感覚は消え、まるで宙へ浮いているかのような浮遊感が全身を包み込む。

 すでに何度か経験しているとはいえ、いまだにこの感覚には慣れない。

 

 目の前に表示されたゲームスタートという表示パネルに指で触れると、暗闇に光が満ちていく。

 全てが真っ白になった後、徐々にリンクコネクトの世界が目の前に映し出されていった。


「最近ずっとリンクコネクトやってたからか、こっちに来た方が帰ってきた、て感じがするな」


 すでに見慣れたログイン地点をみて、不思議と安心感に包まれる。

 それだけこの世界に馴染んできているということなのだろう。


 見渡せば、本物と区別がつかないような建物が、ログイン地点である広間を中心に放射線状に立ち並び、美しい街をかたどっている。

 雑居ビルの立ち並ぶ現実とはかけ離れた風景に、ここが仮想世界なのだという実感が湧く。 

 街行く人は皆決して現実では見ないような、映画にでも出てくるような格好をし、剣や杖、弓など今まであったMMORPGではお馴染みの装備をしている。

 その姿も、仮想世界だという実感に拍車をかけていた。


 リンクコネクトは、VRMMOの試金石ということで、あまり特徴的なシステムを導入していない。

 あくまでシステムとしてVRをメインの売りにしており、ゲーム性そのものについては既存のMMORPGを参考にし、なるべく万人受けするようにと作られていた。

 そのシステムはゲーム初心者でもわかりやすいよう簡潔に作られていて、わかりやすいステータス画面、スキルを育てていけば強くなれるという単純な育成方法、そして、戦う時はスキル名を口にすればいいだけという単純な戦闘システムとなっている。

 ただ、一つ珍しい点としてはよくあるレベル制というものが完全排除されていて、モンスターを倒すことでスキルポイントを手にいれることができ、それを用いてスキルを強化していくという点だ。

 これは、運営がなるべく長い間、この仮想世界を自由に楽しんでもらえればということでそういうシステムになったそうだ。


 「待ち合わせまでにはまだ時間があるけど、狩りしに行くには足りないなぁ」


 現在時刻は17時半。

 あと30分しかないのでは、ろくに外に出ることもできないだろう。


 「仕方ない、先に行って待ってるか」


 現実世界だったら、俺はなるべく集合時間ギリギリに着くようにしている。

 みんなが仲良く喋っている中、一人黙って立っているのは精神的に辛いものがあるからだ。

 けれど、ここはリンクコネクトの中。

 この世界でならば、やることはたくさんある。

 せっかく誘ってもらったのだし、たまには早めに行ってみるのもいいかもしれない。

 ついさっき浮かれたせいで後悔したというのに、こりずにそんなことを考えている自分に、いかんいかんと首を振る。

 ただまぁ、やることもないので結局待ち合わせ場所である噴水前まで行くことにした。

 もしかしたら雨森がすでにきているかもしれないし。

 

 と、雨森のことを考えてふと違和感を感じる。

 そういえば雨森は、なんで俺のメールアドレスを知っていたんだろう?

 


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