最終話 期末テスト終了 高史、烈學館行き回避なるか?
翌日午前十時半頃、夙英高校一年六組の教室。
「やっとテスト終わったぁ! これで思う存分遊べるぜ。あとは授業昼までやし、もう気分は冬休みやーっ」
最後の科目、数学Aのテストが終わった後、光哉は高史の席へ振り向き、陽気な声で話しかけてくる。
「百位、超えれるかなぁ」
高史は不安な気持ちでいっぱいだった。数学Aは思ったよりもあまり出来なかったのだ。
「たかしぃ、後は結果を待つだけじゃんか」
光哉は高史のポンッと肩を叩き、勇気付けようとしてくれた。
※ ※ ※
「高史くん、見て、見てーっ! 数学と理科、すごく良い点取れたよーっ。先生にも褒められたーっ」
「わたしも点数上がりました」
その日の夕方、高史は山際宅に足を踏み入れるや否や、麻恵と葉奈子が玄関に駆け寄ってきた。これまでに返却された答案用紙を自信満々に見せ付ける。今日は他の塾生達もすでに全員揃っていた。
「……本当に、ずいぶん上がったね。すごいよ」
高史はかなり驚いていた。
「葉奈ちゃんも麻恵も、自己最高得点だって」
佐登子さんも少し驚いていた様子。麻恵の取得した数学の点数は84点、理科は79点だったのだ。その他の科目についても、中間テストの点数よりも少し上がっていた。
葉奈子の取得した点数は国語92点、数学97点、理科99点、社会93点、そして英語は91点。全て九〇点以上、もちろん平均点以上だった。副教科も全部平均点を上回っていた。
「わたしの予想した以上の出来でした。全教科九割越えは初です」
葉奈子は満面の笑み。とっても嬉しそうだった。
「タカシっち、アタシも算数と社会科で初めて八〇越えれたぜ」
「あたしも久し振りに百点取れたよ、算数と国語で」
芽衣と久実も、単元別テストを見せにくる。
「おめでとう、蓬莱さん、上河内さん」
高史は祝福の言葉を述べてあげた。
「ワタシも、苦手の算数で久し振りに百点が取れました」
桃香も照れくさそうにしながらも、見せに来てくれた。
「おめでとう、茶屋さん」
再度、高史から祝福の言葉。
「私がこんなに良い点取れたのも、高史くんの分かりやすい学習指導のおかげだよ」
「タカシっち、サンキュー。担任よりも遥かに分かりやすかったぜ」
麻恵と芽衣が手を握り締めて来た。
「いや、僕の力では決して、二人ともよく頑張っていましたし、佐登子さんの指導の方が……」
高史は照れくさそうに謙遜する。
「いえいえ、高史ちゃんが一緒だったことで、みんなのやる気を引き出すことが出来たと思うの。ワタクシだけの力では、芽衣ちゃんの成績を上げることは無理だったもの。芽衣ちゃんの成績アップに一番貢献したのは、高史ちゃんよ」
佐登子さんも謙遜した。
「高史くんは、テストどうだった?」
「中間の時よりは、手ごたえがあったよ。主要科目では七割五分くらい取れたから」
麻恵の質問に、高史は自信を持って答える。
今日は授業を行わず、みんなで教室の大掃除をしたのであった。
※
翌週木曜日。帰りのホームルーム開始直後。
「では、個人成績表を返却しますね」
担任の酒本先生がこう告げた瞬間、
(ついに来たか!)
高史は今までに体験したことのないくらい心拍数が上がった。
「呼ばれたら取りに来てね。安藤くん」
テストの答案と同じように出席番号順だった。次々と名前が呼ばれて行き、
「瀬戸山くん」
いよいよ高史の番。
「はっ、はい」
緊張の一瞬。
(百位、超えててくれ)
高史は受け取ると、一呼吸置いてから順位を確認してみる。
「……やっ、やったぁーっ!」
自分の総合得点順位を知った瞬間、高史の顔は瞬く間に綻んだ。彼の学年順位は、副教科を除けば前回の一四八位から、七六位まで大幅にアップしていた。副教科で足を引っ張ってしまい、総合では九一位であったがかなりの健闘だ。
高史の目は、ちょっぴり涙で潤んでいた。
「瀬戸山君、よっぽど嬉しかったのね」
酒本先生はそんな彼を見て優しく微笑む。
「やったな、たかし」
光哉だけでなく、
「おめでとうございます」
「おめでとう高史くん。これであのアウシュビッツみたいな烈學館行かなくて済むね」
進と碧も彼の側に駆け寄って来てくれ祝福してくれた。
これにて高史は、塾行きと雑誌・マンガ類を捨てられることを回避することが出来た。さらには山際舎のボランティア講師を続けていけることになったわけだ。
「中学時代は美術の実技問題のせいで学年トップの座が危うかったが、今回は余裕であ~る」
個人成績表を眺め、進は満足顔で呟く。彼の総合得点一一〇〇点満点中一〇八六点。今回も学年トップだった。
「本当に一科目だけすすむに勝ててよかったぜ」
光哉は、情報の科学だけは満点だった。アニメーションに関する知識が多かったのが幸いしたのだ。
「他の教科は皆、悪いんでありましょう?」
進は得意げな表情で問う。
「もっちろーん。さらに順位下がってもうたぜ。秋の新番組のせいやな。たかしはなんでそんなに急激に点数上がったんだよ?」
光哉は苦笑いする。他の教科は全部平均点を下回り、学年順位は二八三位であった。
「塾の先生をしたおかげかな。小中学校の内容を復習したら、高校の内容も結構簡単に理解出来るようになったし。あとは、烈學館行きとマンガ類捨てられないように、本気出したってものあるかな」
高史は爽やかな笑顔で嬉しそうに伝える。
「まあ、たかしはずっと学年平均より下な俺と違って、元々成績良かったからな。俺も冬休みは頑張らんと。冬休み明けの課題テストでは百位以内を目指すぜ」
「口だけにならないようにね♪」
進は得意顔で忠告しておいた。
男子三人がこんな会話をしているうち、残りの男子の分が配り終わり、女子の分が返却されていく。
(前より上がってる。すごく嬉しい)
受け取った瞬間、碧は満面の笑みを浮かべた。九八四点で学年一三位。中間テストの時より二つアップ。家庭科で満点を取っていた。大好きな保育分野だったこともあり、楽しみながら問題が解けたらしい。中学時代は一〇番以内に入るか入らないかの成績だった碧。一学年の人数が増え、周りの学力水準も上がったこの高校でもいつも一五位前後とそれほど順位を落とすことなく済んでいるのだ。
「母さぁーん、これ、見てくれよ」
「どうしたの? そんなに興奮して」
高史は家に帰りつくとすぐに、個人成績表をリビングでお昼のバラエティ番組を眺めていた母に見せ付けた。
「百位以内に、入れたんだ」
「あらぁ、すごいじゃない高史、碧ちゃんの答案カンニングしたの?」
高史の予想以上の高順位に、母は驚き顔で尋ねる。
「してないって。っていうか、出来るわけないだろ。僕の努力、素直に認めてよ」
「はいはい。ひょっとして、今回は一二〇人くらいしか参加しなかったんじゃないの?」
母はにやりと笑う。
「そんなこと無いって。いつも通りだよ。何人中の順位かも載ってるだろ」
高史はとても機嫌良さそうだった。
☆
それから数日後の帰りのホームルームのあと、三者面談が始まる。終業式の日まで数日に渡ってクラスメート全員に行われるのだ。高史は初日の午後一時半から、碧は三時から組まれてあった。
「瀬戸山君、期末テストよく頑張ったね。この調子でもっと順位を上げていけば、理系クラスでもじゅうぶんついていけるよ」
「そうですか」
酒本先生からこう告げられると、高史は緊張が解れ表情が綻ぶ。
「よかったね、高史」
母もとても喜んでいた。
「瀬戸山くんは、大学は国公立志望かな?」
「はい。まあ、一応」
「それなら今のままだとまだちょっと厳しいよ。国公立の場合センター試験で五教科七科目必要だからね。三学期は今よりもっと良い成績が取れるように、正月三が日は休んでもいいけど、それ以外の日はめっちゃ頑張らないとダメよ。一日最低五時間は勉強しなさい」
酒本先生は笑顔で告げる。
「えーっ、そんなにぃ? まだ一年生なのに」
高史は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「受験勉強は、一年生の頃からの地道な積み重ねが大事だからね」
酒本先生は笑顔で忠告する。
「高史、分かった?」
母に肩をポンッと叩かれた。
「いっ、一応」
高史は沈んだ声で答える。
「瀬戸山くん、頑張ってね。冬休み明けの課題テスト、期待してるわ!」
酒本先生は優しく微笑みかけエールを送ってくれた。
これにて三者面談は終わり、高史と母は教室をあとにする。
「それにしても高史、塾生になるんじゃなくて、塾の先生になって、本当に一気に成績上がったわね。母さんはまさかあんなに上手くいくとは思わなかったわ」
「まあ、僕も日々コツコツ努力したからね」
「よく言うわ。碧ちゃんも面倒見てくれたからでしょ。でも高史、塾に〝生徒として〟行かなくても大丈夫? 母さんが小中学生の頃通わされた思い出の烈學館、行かせてあげたいなぁ。冬期講習だけは参加した方がいいんじゃない?」
「大丈夫だって、あんなとこ行かなくても」
廊下を歩きながら、高史は母と楽しげに会話を弾ませる。
☆
『あの、高史くん、理系クラスに行けた?』
その日の夕方、高史の携帯に碧から電話がかかって来た。
「うん。僕は大丈夫だったよ」
『よかったねー高史くん、わたしも理系クラスに進むとことにしたよ』
「えっ! 碧ちゃんも理系なの!? でも、希望調査、文系で出してたよね?」
予想外の報告に、高史はかなり驚いた。
『そうなんだけど、わたし、被服学や栄養学の方にも興味があって。そのためには化学や生物をもっと詳しく勉強した方がいいかな、とも思って。それと、理系クラスは多くの科目が勉強出来るから進路の幅を広げ易いよって酒本先生からも三者面談で勧められて、変更したの』
「そっ、そうなんだ」
『二クラスだけだから、また高史くんと同じクラスになれる可能性は高いね』
「そっ、そうだね。じゃあ僕、そろそろ、切るね」
『うん。高史くん、また明日ね』
こうして高史は電話を切った。彼の表情に、少し笑みが浮かんでいた。
光哉は、最終日の午前十一時から三者面談が組まれてあった。一人通常一五分で済むところを、彼は三〇分取られていた。




