第092話 集中の世界
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「大丈夫か凛。いくら気を紛らしていても本番が近付くと怖くなるよな。」
「陽太くん、私は大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫。」
「それ大丈夫じゃない時に言う奴でしょ。」
「華ちゃんまで。うーん、実は言うとまだ不安かも。」
負けても明日死ぬ訳じゃない。
だけど、ここまで繋いで来た事を考えるとやはり責任を感じるだろう。
最近の彼女は、自分の実力に悩んでいた。
あの時は焦らなくても良いと諭したが、彼女にとって今回のイベントはチャンスでもある。
マイクが入った時のノイズ音が聞こえた。
今から最後の勝負について説明が入る。
それは、二人も理解したらしく静かに耳を傾け放送を待っていた。
「それではー、いよいよ最後の勝負となりました。笑っても泣いてもこれで最終ですよー!」
悪気はないのだろうけど、プレッシャーを掛け過ぎだろ。
最後の種目に出る生徒はただでさえ心臓バクバクなのに、そのまま失神したらどうするつもりなんだよ。
「ここで非常に重要なお知らせがあります。その為にまず現在の順位を発表します。」
確かに最後の前に自分達の順位がどこなのか知る事で立ち回りは大きく変わるからな。
それと同時に他の部活には緊張感のある瞬間だ。
悪いが恋愛支援部は恐らく上位にランクインしているが、他の部活は分からない。
一位・恋愛支援部
二位・サッカー部
三位・水泳部
三位・映像制作部
五位・鉄道研究部
「これよりも下位の部活動は今回の勝負で上位を取ったとしても一位を取る事が出来ない為参加が出来ません!」
確かに重要なお知らせだ。
当たり前だが、一位を取らないと賞金は貰えない。
勝負に参加しても意味が無いと邪魔をしてくる奴らもいるだろう。
特に俺等の部活を狙って。
学校側としてもそれは好ましく無いだろうから、配慮して上位だけ参加に決めたのかもな。
そんな学校側の想いとは裏腹に抗議する一年生が大勢現れる。
上級生は知っていたかも知れないが、一年生はここで始めて聞かされたのだから怒るのも無理ない。
先輩達が全力では止めに入る事でなんとか大事にはならなかったけど。
「それでは、気を取り直して最後の勝負を発表します。最後のゲームはー!」
今までに無かったドラムロールが聞こえて来る。
最後だから演出だけは派手だな。
盛り上がるかどうかは別の話だけど。
賞金が貰えないと決まった部活は声を出す気力もないようだ。
「大富豪!」
「・・・大富豪?トランプの?」
「ん?最後なのに、めっちゃ普通のゲームだなって?それ甘ちゃんですよ!このゲームは運と頭脳の両方を使うゲームですので、最終勝負にピッタリ!」
言いたい事は分かる。
運動部や文化部に関わらず、平等に優勝者を決めるのであれば持って来いのゲームだ。
それにただのトランプのゲームだと侮ってはいけない。
駆け引きや勝負のタイミングの見極め、消費されたカードの記憶など、突き詰めれば際限無くやれる事がある。
こんなに大富豪を押しているのは、決して陽キャのノリに憧れて大富豪のアプリをダンロードしたとかではない。
・・・いや、俺の記憶違いだったかも。
もしかしたら、一〜四週間程度はしていたかも知れないな。
「では、大富豪のルールを説明します。ローカルルールとかが多いゲームなので、聞き間違えの無いように注意してくださいねー。」
有効なルールをまとめると八切り、スペ三返し、階段、禁止上がり、イレブンバック、革命。
他にも入れたいルールもあっただろうけど、なるべくシンプルなルールに設定してこれになったはずだ。
「大富豪。行ける、ウチは一人じゃ無い。ウチは一人じゃ無い。」
小声で呟く凛を見て大丈夫かと声を掛けたくなるが、それが余計なプレッシャーになると思うので控える。
それにそう何度も励ます物じゃ無いからな。
「皆んなで円陣を組みましょう。普通最初にやるものだけど、最後の気合い入れって事で。」
意外な提案をする凛だったが、みんな快く受け入れる。
重要な事を任せるのだから、それくらいは叶えてやるのが必然。
「さてさて、ここは僕が部長として掛け声を担当させてもらおうかな。」
「待ってください、ここはウチにやらせてください。」
「おっ、いいよ。やる気のある者が担当するべきだし。」
「皆、ウチ勝ちますよ絶対に。だから、応援してください。
その方が頑張れるので。じゃあ、行きます。優勝するぞー!」
「「「「おぉーー!!!」」」」
心が一つになった瞬間、元気を取り戻して歩き始める。
後ろ姿も決してオドオドとはしていない。
「それでは、一ゲーム目を始めます。計五ゲームの中で一番多くポイントが取れるよう頑張ってくださいね。テーブルの方へ移動してください。」
五回で決着か。
大富豪って、意外とあっという間なので全ての結果が出るのも早そうだ。
「可愛い女の子はっけーん!超ラッキーじゃん!」
「まずは、ペアになってないカードの処理を考えて・・・」
「ねぇー可愛い君!俺と一緒にペア組んで勝ち上がらない?」
「黙ってください。貴方とお話ししている程、時間はないので。」
「こっちが下手に出たら調子乗りやがって。キモいんだよ。」
「一、ペアを組むのはメリットが少ない。二、誰もが集中してる時間に話し掛ける程、周りが見えていない。三、女子生徒に気持ち悪いと言う。これ以上に、断る理由必要ですか?」
「チッ。」
わざわざ公衆の面前で話すのもアホ丸出しだな。
女を見ると見境が無くなるようであるなら、一度我慢を覚える練習をした方が良い。
今回は、偶々凛がキッパリと断ったから良かったものを、何も言えずにいたら被害者が生まれる所だったぞ。
最終戦に出るならその部活の顔として出ているという自覚を持って行動すべきだ。
さもなくば部活の品格を落とすだけ。
「トランプをお配りします。」
この瞬間が一番緊張する。
手札の交換がない一巡目は、その人の単純な引きを必要だ。
トランプの枚数は全部で五四枚。
それを五人で分けるとなると、一人が持つ最初の枚数は十から十一枚。
ここからペアが発生する確率を考えると相当低い。
「来い、ペアカード。」
応援している生徒達には誰が何を持っているかが分かるようなシステムが採用されている。
ディーラー兼審判役の人が、確認してそれを集計してモニターに映すと言う非常にアナログな方法だけど。
「これは、やばいかもね。」
手札にペアは少なく、数字の高いカードも一・二枚。
階段や八切りで誤魔化したとしても勝利までの道のりは遠い。
全力で考え込む姿を見るだけなのが、心苦しく感じる。
「まずは低め処理してっと。」
発表された順位が低い部活から時計回りになるらしい。
鉄道研究部から始まるので、凛の番は最後。
不利に不利が重なって状況は最悪と言えるだろう。
しかし、凛ならここで一位を取ってくれる。
根拠は無いがそう信じている。
手札は凛の番に回るでに二のスペードが出されてしまい、流されてしまった。
自分の番が来るまでに流れるのはラッキーだ。
小さい数字が回って来る可能性が高いから。
スタートは三のクラブだった。
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