第088話 応援する人は輝いている
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「知らなかった。糸井くん、そんな趣味があったなんて。」
「違う違う。気になるなら、七瀬くんが着てくれても良いよ?」
「着るわけないでしょ。そんなの着たら注目の的よ。」
「そうすることによって宣伝にもなるんだから良いじゃないか。」
「それなら余計に私じゃダメよ。もっと可愛い子が沢山いるのに。」
凛の肩を持って前に出す。
本来であれば褒められていて嬉しいはずだけど、あれを着させられるのでなら複雑な気持ちだろう。
「いえいえいえ、ウチなんて全然ですよ。」
「えぇー!みんな着ないんですか?それなら私が来ますよ。可愛いからこの服!」
「おぉー!ハイラ先生。この部活に一番貢献するのは貴方でしたか。」
俺も興味がある訳じゃないのだけど、ハイラ先生が着たらそれは話題性抜群だろ。
新聞部に撮られて明日の一面は決まりだ。
そして何より本人が乗り気のようで。
既に服を受け取って着替えに行ってしまった。
まさか、本気で着て来たりしないよな。
数分後、嫌な予感は的中してしまいチアガールのユニフォームに着替えたハイラ先生が出て来た。
何やってるんだよ、元スーパースターなんだろ。
この状況に他の生徒が黙っているはずも無く、大勢が恋愛支援部の方へ集まる。
喜ぶのは、男だけかと思ってが案外女子も混ざっているようだ。
それもそのはず、誰もが羨むようなスタイルとチアのユニフォームがマッチしていて破壊力が凄まじい。
男子生徒の数名は、鼻血を出して倒れている。
ここまで人集りが出来るのは、本人としても予想していなかったらしく慌てている様子。
本来は部活動対抗戦がメインだったはずなのに、こっちの方がメインになってしまいそうな勢いだ。
頼みの綱である放送部員も双眼鏡を使って、こっちの様子を確認している。
それで良いのかよアンタらは。
「ちょっと・・・恥ずかしいですよ。」
「「「うおぉーーーー!!!」」」
恥じらう姿に野朗共は大歓喜。
鼻の下が伸び切ってし待っている奴らが殆どだ。
穢れのない純粋無垢な感じが良いのかもな。
「陽太くん、見過ぎだよ。」
強制的に別の方向を向かされる。
凛ってこんなに力強かったかと思うほど強引にな。
もう見てないって言うのに力を込められたら首が折れてしまうだろ。
「ギッ・・ブ。」
辛うじて出た呻き声が届いたのか、力が緩められる。
苦しかった状況から、一気に空気が入り込んでむせ返ってしまう。
危うく三途の川の場所を知ってしまうところだった。
「で、どうするんですかあれは。本人が乗り気なら止めようがないですけど、止めないと事態が治らないですよ。」
「いやー、良いんじゃないかなー。僕としては良いものが見れてる訳だし。」
「一時の欲望は・・・」
俺は背後から近付くただならぬオーラに圧倒され、その場から離れる。
今から起こることを予想するのは容易だな。
「言いたい事は分かるよ佐倉くん。身を滅ぼすと言いたいのだろ?でも、だね。」
アイラ先生の方を見て話しているので、近寄る人に気付かない糸井先輩。
残念ながら、俺はもうそこにいませんよ。
彼が少しでも痛まないように祈ろう。
「いーとーいーくん?見惚れるのは結構だけど、さっきどうにかしましょうね。じゃないと私がどうにかなるかも。」
「な、な、七瀬くん?どして、そんなに怒っているんだい。これは立派な作戦だよ!」
「どこにそんな要素が含まれているのかしっかり説明してもらおうかしら。」
本当に作戦があるなら俺も聞きたい。
まぁ、十中八九嘘だと思うけど。
少しばかりの可能性を信じてみようと思う。
「見てみてよあそこにいる、ガラの悪い集団を。彼等は卓球部。とは言っても、名ばかりな集団だけどね。」
「なんで、彼等は部活に入ってるのよ。」
「部活が目的じゃないさ。部室を溜まり場にする為に入部している。」
「で、何の関係が。」
「偶々、あの不良達が生徒をいじめているのを見たんだ。だから、ちょっとした仕掛けをしておいた。その為に、他の人の目を盗んむ役が必要だったのさ。」
そういう事だったのか。
どんな仕掛けをしているのかは分からないが、糸井先輩の事だから全てが解決する様な作戦に違いない。
それでも、チアガールのユニフォームをさせたのは個人的な趣味だろう。
そこに気付かれないように少しずつ話を逸さなければ。
手助けというよりは、これ以上七瀬先輩を怒らせてはいけないという危険信号で俺もフォローに入る。
古東赤点事件の二の舞になってしまわぬように。
「仕掛けが成功した場合、彼等はどうなるか教えて貰えないんですか?」
「彼等は退学するのさ。」
俺はその言葉を聞いて驚く。
いや、驚くなんて単純な言葉では言い表せないか。
勿論、彼等は悪であるのを前提として考える。
それでも人を退学にする事を躊躇うのが普通の人間。
しかし、彼には何の躊躇いもない。
ただ、そこにあるのは冷たく残る瞳だけ。
糸井先輩の何がこの目にさせるのか。
俺はまだ知らなかった。
「そう、目的があったのだとしたらいいわ。」
「悪いけど、見過ごす訳にはいかないからね。」
「仕掛けは終わったんですか?」
「今、終わったって連絡が来た所だよ。」
携帯を一目してから答える。
もしかすると何かが始まるのかも知れない。
「現在、部活動対抗戦とは全く関係のない事が行われているようですが、速やかにやめるようお願いします。」
放送部がようやく止めに入った。
先生達の指示なのだろうけど、今の今まで気付かなかったのか。
それとも、協力者が何かしたのか。
「それとハイラ先生は支給『おい、オメーら万引きしてこいよ。』
『む、無理ですよ。』
『チッ。アイツら逃げやがった。明日、ただじゃ済まさねーからな。』
スピーカーから流れ出したのは、録音された音声。
声の主は言わなくても分かる。
どんな細工をしたのか分からないけれど、全校生徒の前で晒されていれば学校側として黙っては入れない。
「誰のイタズラだ。すぐに辞めさせない。」
『学校?あぁ、ちょろいちょろい。俺が何してるかなんて分かってるけど、自分達が面倒事にしたくないから見て見ぬフリしてんだよ。』
どちらも分かっているんだ。
なるべくしてなった事情と言う事を。
それでも悲惨な目に遭う生徒がいるのは、何故か。
理由は単純で人はどう足掻いても他人という領域を出ないからだ。
一番可愛いのは自分であって他人じゃない。
覆る事のない絶対条件だ。
「今回の部活動対抗戦は一時中止。次の試合は三十分後とする。教師は全員運営テントへ。」
当然の対応だな。
どちらかと言えば、この状況でもイベントが続く事の方が異常だ。
意地でもイベントは優先なんだな。
ハイラ先生もこのアナウンスが聞こえて、慌てて着替えに行く。
それに伴い、人混みを解散。
全てが糸井先輩の計算の上なのか。
「これで彼等は救われますか。」
俺は気に掛ける事は出来ても直接手を差し伸べる事は出来なかった。
出来なかったと言うのは、狡い表現かもな。
しなかったと言うのが正しい。
「もし、救われなかったのなら救われるまで何度でも。」
少し見えた糸井先輩の信念は到底真似出来るようなものではなかった。
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