第033話 感謝を噛み締める
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「これ、きっと君に喜んで貰えると思うんだけど。」
自信満々に、鞄から綺麗に包装までしてあるプレゼントを取り出す。
大きさ的にはオルゴールだけではなく、他の物もはいっていそうだ。
確実に喜んで貰えるものとは別に自分で選んだのかもしれない。
「開けても良いですか?」
「もちろん、その為に買ったんだから。」
奥さんは、包装紙さえも大切なプレゼントの一つとして、綺麗にテープを剥がした。
中からは二つの箱が現れる。
二つもある事に驚きを覚えた様子ながらも、すぐに切り替えてどちらから開けようかと悩んでいる。
プレゼントする側は、中身を見て喜んで貰えるまで不安だという事を理解しているから、早く開けてあげたいのだろう。
それでも迷って決められないらしく、最終的には運に任せて選ぶことに。
結局選ばれたのは、小さなブラウンの木箱に入ったプレゼント。
木箱の時点でオシャレな雰囲気を感じ取れる。
俺達も佐藤先生が、もう一つのプレゼントに何を選んだのか知らない。
さて、中身は何だったのか。
「わぁーオルゴールだ!嬉しいーー!欲しいんだけど、自分で買おうか迷うからさぁ。聴いても良い?」
「あぁ、勿論だよ。」
オルゴールから流れてくるのは、打ち合わせ通りカノンだ。
この音楽を聴くと奥さんは驚いている。
まさか、自分の思い出の曲が入ってるとは思いもしなかったはず。
佐藤先生はその表情を見て満足そうだ。
あり得ない話だが、もしもう一つのプレゼントが微妙な反応だったとしても成功したと言える事ができるからな。
「ちゃんと私が喜ぶように色々考えてこの曲にしてくれたのよね。」
「ちょっとだけ生徒に力を借りてしまったけど、君の事を思って選んだよ。」
「ありがとう。一日一回は必ず聴くことにするわ。」
「そうしてくれるとプレゼントした側としても選んだ甲斐があるよ。」
「もう一つも開けてしまいますね。」
そう言って、ラッピングが施された箱を開ける。
先程のが俺達と選んだプレゼントだったので、こっちが正真正銘佐藤先生が一人で選んだプレゼントということだ。
どんなプレゼントを選んだのか期待したいところ。
「・・・これって。」
奥さんの反応が明らか鈍い。
まさか失敗だったのか。
特殊な過ぎるプレゼントでなければ、大抵の物は喜んでくれるはず。
余計に何を選んだのか気になる。
「ふふ、あははは!」
と思ったが奥さんはいきなり笑い出した。
「そんなに面白かったかい?僕が選んだバンダナ。色々使い道があると思って選んだけど。」
「違うんですよ。ほら、これ。」
奥さんも鞄の中から何かを取り出している。
「これ、貴方へのプレゼント。開けてみて。」
「分かった。」
プレゼントを貰った嬉しさと笑いの正体が気になる気持ちで一杯だろう。
恐る恐る包みを開ける。
そして、中身を確認した途端に佐藤先生も笑ってしまう。
「そうか、そうだったのか。ぷふふはは!」
「まさか、全く一緒の物を用意してるなんてね。記念日にこんな偶然ある?」
「センスも似て来ているのかもね。・・・そうか、お揃いか。大事にしないとな。」
どうやら同じ物だったから思わず笑ってしまったようだ。
二人は嬉しそうにバンダナを見つめている。
プレゼントが同じように、二人の思いがいつまでも同じ気持ちであることを切に願う。
「まさか、自分でもプレゼントを用意してるなんて。」
「自分だけで選んだプレゼントも用意したんだろう。プレゼントなんて何個あっても悪い気はしないからな。」
「アタシ達、考える必要あったのか?佐藤先生のプレゼントだけでもかなり喜んでるみたいだ。」
「良いんじゃないか?結果良ければ全て良しということで。」
「それもそうか。」
本来の目的は十分に達成したことだしな。
さて、佐藤夫妻を眺めながらの夜ご飯は色々な意味でお腹いっぱいになった。
それは夫妻も同じようで、デザートを食べ終わりお会計へ行こうとしている。
別に後をつける訳ではないが、それに合わせて店を出た。
「美味しかったし、楽しかった。プレゼントも貰えたし。」
「この後はどうしようか。」
「うーん、本当は買い物をまたするのが良いかも知れないけど、どうせなら家に帰ってお酒でも飲まない?」
「お酒か。教員を始めたから全然飲んでなかったけど、偶には良いかもね。」
どうやら、家に帰ることになったらしい。
外で楽しく遊ぶのも記念日の過ごし方の一つだが、家で飲み明かすのも悪くないだろう。
そうと決まったのであれば俺達が介入出来るのはここまで。
後は正真正銘の二人きりの時間になる。
「今回は本当にありがとう。君達のおかげで妻をこんなにも喜ばせる事が出来たよ。」
「お困りならばお助けするのが僕達の役目ですから。それが教師だろと生徒だろうと。」
「素晴らしい考えだよ。君達がいるなら藍連高校も安泰だろうね。」
「そうであるように、尽力いたします。それでは、今日は失礼致します。また何かありましたらご相談ください。」.
「本当に本当にありがとう。」
教師と生徒という関係性ではなく、一人の相談者として深く頭を下げる佐藤先生。
その感謝が心に染み渡り、穏やかな気持ちにさせる。
何度でも味わいたい感情だ。
帰り道は余韻に浸るようため静かだった。
横を通る車や信号機が点滅する音など耳に入らないぐらい静かだ。
あの感謝は決して俺だけに向けられた言葉ではないが、それと同時に俺にも向けられた言葉でもある。
なんの活躍も、なんのフォローも出来なかった俺に。
三回の相談を経て得られた物は何か。
目に見えなくても確実に手に入れた物があると信じたい。
家までもう少しという所で、ポケットの中に入れていた携帯が鳴った。
短い通知音からメッセージだという事が分かる。
確認すると差出人は神崎からだ。
普段はメッセージなんかを送り合う仲ではないから珍しい。
「えーっと、どれどれ。要件はなんだ?・・・あ、やばいかも。」
忘れていたでは済まされない事態が起ころうとしている。
メールの最初の一文は、俺の土曜日の予定が空いているか確認する所から始まる。
そして、次の文は本当に俺の家に来ても良いのかという質問。
最後は、楽しみに待ってるねという逃げ道を完全に塞ぐ言葉で終わっている。
「えーと、どしたもんかなー。」
「おかえりー!って、何ぶつぶつ言ってんのお兄ちゃん。」
「悪いな、今一大事だから構ってやらないんだ。」
「ふーん、お兄ちゃんもついに人気者か。あっ、そういえば絢音お姉ちゃんが明日来るらしいね、勉強しに。」
「なんで知ってるんだよ。」
「なんでってそれは私にも連絡来たから。」
土曜日は家に梨乃もいるだろうけど、わざわざ連絡する必要はないだろー。
・・・いや、本当はしてくれて助かる。
だって、何も言わずに当日来られた方が怪しさ倍増するからな。
「って、なんで来ること決定してるんだ?俺返信したないぞ。」
「えっ!?どうせ、予定ないんだし良いでしょ?」
勝手に決めつけないで欲しい。
あれとかそれとか・・・いや、特にはないけど。
決まってしまったことは仕方ない。
諦めて明日に臨むしか俺の辿る道は残されていなかった。
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