第029話 バッドでグッドなタイミング
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「早速ですが、昨日の続きから話を始めましょう。」
「昨日決まったのはプレゼントの内容くらいで、後は七瀬先輩に任せてありますよね。」
大半の事は任せきりになってしまっているが、俺の判断では勝手に動けないので部長の指示に従うしかない。
一人に任せる負担が大きい気もするが、不思議と七瀬先輩ならこなしてくれるのではないかと思う。
それは一個人としての感想ではなく、ここにいる誰もがそう感じとっているのだ。
「プレゼントについてなんですけど。最後に出たオルゴールにする場合、奥さんが好きな曲を選ぶのが無難かと思います。」
「好きな曲かぁ。長く一緒にいると色んな曲を好きと言っていたからねー。パッと思い付くような曲がないんだよ。」
「共通で好きなのとかもですか?」
「そうだねー。」
腕組みをしてじっくりと考える素振りを見せる。
考えても考えても佐藤先生の口から続きの言葉が出ない。
こればっかりは俺達が考えてどうにかなるという訳でもないからな。
直接奥さんから話を聞ければ確実だが、このタイミングで下手に質問すれば勘付かれてサプライズが台無しになる可能性が高い。
佐藤先生は隠し事が上手なタイプにも見えないし。
「じゃあ、直接聞けば良いんじゃない?」
俺が内心で消した選択肢を華が挙げる。
誰もが一度は思い付くという事だ。
「それは無理だろ。このタイミングで聞くのは不自然だ。」
「いや、多少強引だけど怪しまれずに聞ける方法があるよ。」
強引なのに怪しまれない方法があるか?
実現出来る案なのか半信半疑だが、大人しく聞こう。
俺の考えが浅いだけで、発想を変えれば可能性があるのかもしれないからな。
「佐藤先生、部活の顧問されてましたっけ?」
「いや、僕は何もしてないよ。みんな任されてるけど、僕は歳が歳だからね。そこも考慮してくれてるんだと思うよ。」
「部活の顧問はされていないと。それなら、普通に教え子という線で行きましょうか。幸いなことにパッと見ただけでは学年と違いに気付かないですから。」
「ごめんごめん、全く話の内容が分からないんだけど。今から何が始まるのかな?」
詳しく話さないまま進めようとするので、佐藤先生が止めに入る。
糸井先輩はその言葉を待っていたかのように、佐藤先生へ体を向けたて説明を続ける。
「教え子が奥さんに会いたいと言っていると伝えれば良いんですよ。そうすれば、ただ佐藤先生の奥さんに興味を持った生徒がいると思うだけですから。」
「そんなに上手くいくかな?」
「大丈夫ですよ。自分の旦那が生徒から興味を持ってもらえている。人気があるんだと思えば、悪い気はしないですから。」
理屈として納得出来るか。
先生の家族に会いたがる生徒は少ない気もするが、人気者ということにしておけば有り得ない話ではなくなる。
もしも、佐藤先生が家で職場の話をしないのであれば、生徒から学校での佐藤先生の様子も聞き出せる。
そう考えてくれたら、会ってくれる可能性も高い。
つまりは、賞賛のある賭けということになるな。
「早速、電話をしてみてください。何にかあったら僕が電話を代わりますので。」
「えっ、本当かい?き、君が言うならそうしてみるか。」
言われた通り、スーツの内ポケットから携帯取り出して電話を掛けるようとしている。
しかし、本当に上手くいくか疑っているらしく、躊躇っているのが傍から見ても分かる。
痛いほどその気持ちは分かるが、ここは全てを任せてもらいたい。
十分の九の確率で成功するはずだから。
「もしもし、そう僕だけど。うんうん、まだ勤務中なんだけどさ。ちょっとお願いがあって。そう、お願い。生徒達に君のことを話したらどうしても会ってみたいって言ってるんだよ。」
話の切り出しは順調な様子。
電話を掛けた以上は、変に言葉を詰まらせるよりはっきりと言った方が自然だからな。
その後も会話は続いているようだが、途中一度も表情が険しくなることはなかった。
恐らく、電話越しの奥さんが快諾してくれたのだろう。
「アタシの案、良かっただろ陽太。」
隣に座っていた華が成功を確信して、小声で話し掛けて来た。
別に競い合っていた訳でもないのだが、ちょっとだけ悔しい気持ちになる。
案だけなら俺も思い付いていたのに、何故口に出さなかったんだ。
今度からボソッとでも良いから口に出してみるか。
「今度は俺が良い案出してやるからな。」
今出せる精一杯の言葉で返事をした。
そんなやり取りを俺達がしている中で、佐藤先生の電話が終わったようだ。
結果は聞かなくとも了承が出たのが分かる。
だって、電話の最後の方は声が明るくなっていたからな。
「なんか、君達が会いたいらしいって言ったらすごい喜んでたよ。親御さんさえ良ければ料理を作っちゃうって。」
「よし、そうと決まれば行きましょうか。あ、ご飯食べる事は親御さんに連絡しておくようにね。」
「恋愛支援部の皆んな、本当に何から何までありがとう。」
「先生、それは成功してから言う物ですよ。」
「そうだよね。よし、僕もなるべく情報を引き出せるように頑張るぞ。」
両手で目一杯のガッツポーズを作る佐藤先生。
本人の気合いも十分だな。
早速、部室を出ようとした時ノックが聞こえる。
こんな時間帯に相談者が来るのは珍しい。
それに今日は特別相談の予約が入ってなかったはずだ。
誰だと思いながら、ここにいる全員が開かれる扉を見ている。
「あのー、ここって恋愛支援部で合ってますか?」
恐る恐る入る生徒。
よくよく見なくても見覚えのある奴だな。
「あ、華ちゃん、陽太さん。」
俺達に気付いて合っていることに気付いたのだろう。
小さく手を振っている。
華がそれに手を振り返す。
俺も振り返すべきだろうかと考えていると、糸井先輩が凛に話し掛けていた。
「二人の知り合いかい?何か相談でもありましたか?」
「いえ、入部希望で来ました!一年B組星海凛です!」
勢い良く手に持っていた入部届の紙を前へ突き出す。
渡し方がラブレターみたいになってるぞ。
「えーっとごめんね。勘違いしてみたいだけど、僕顧問じゃないんだよ。」
この場にいる先生は佐藤先生のみなので、勘違いする気持ちは分からないでもない。
恥ずかしくて顔を真っ赤にする凛。
今にもこの場から逃げ出してしまいそうだ。
そこは流石糸井先輩と言った所か、透かさず入部届を受け取ってフォローに入る。
「星海くんも体験としてついて来てもらおう。相談者である佐藤先生の奥さんと雑談をするんだ。詳しくことは移動中に説明するよ。」
入部して十秒ぐらいで手伝いを始めさせられる凛。
華が近くへ行って話しをしているので問題はないだろう。
何かあったら、既に面識のある俺と華でサポートするしな。
それに最初の相談としては、事件性のないハートフルな物なので初心者にもおすすめだ。
「ごめんね、僕のせいでこんなことになってしまって。」
「あ、いえいえ。ウチこそタイミングが悪かった見たいで。」
「しかしながら、君も良い部活を選んだね。この部活なら自分にとって大きな成長に繋がると思うよ。」
「ウチもそんな気がしてこの部活を選びました。」
さて、凛には申し訳ないが話もこれくらいにして、佐藤先生宅に向うか。
今からどんな料理が・・・どんな話が聞けるか楽しみだ。
全く持って料理目当てとかではないからな。
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