第028話 かつて賑わいを見せた街
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木枯市に着くと人はほとんど歩いていなかった。
見かけても買い物をせるのではなく、さっさと通り過ぎてしまう。
こんな現場を佐藤先生に見せるのは心が痛むな。
「そうか、前に来た時よりも遥かに閉まったいるな。あそこには、文房具やあったのに。ここでは確か印鑑を売っていたはず。」
時の流れが残酷にも思い出を風化させていく。
いつまでも形を保っていられないのは、生きている誰もが知っている事だ。
しかし、心のどこかではずっと変わらぬ景色を望む。
発展と共にもたらす景色の変化は、利便性と引き換えに変え難いものを奪って行ったのだ。
佐藤先生の顔はショックを受けているようには見えない。
それが強がりなのか、俺達に気を遣ってのことなのかは分からない。
分かるのは、前の景色が見られれば先生も奥さんも喜んでくれるということ。
「おっ、あそこはコロッケの美味しい精肉店じゃないか。」
どうやら、少ない店の中でも覚えのある所が残っていたらしい。
この商店街の現状で尚も撤退しないということは多少の儲けがあるのだろうか。
店の外観は、いかにも古くからやっていますと言わんばかりの看板が立てられていた。
中を覗くと背中を丸めて仕込みをしているおじいさんが一人。
「こんにちは。今お時間大丈夫ですか?」
「おぉー、お客さんかい。しかも、こんなに大勢で。珍しいこともあるもんだね。」
久しぶりに人を見たのか嬉しそうに受け答えをしていただける。
「ここの商店街のことなんですけど。今ある店舗ってどれくらいか分かりますか。」
「確か十もあるか、ないか。もうほとんどやってないだろうね。昔は、休みの日になると人で溢れ返ってたんだけどさ。こんな風にまともに人も通られないんじゃ商売にならないからね。」
「そう考えるとここのお店が続いているのは凄いことですね。」
「意地だよ、意地。俺も老い先長くないんだけど、先代達の為にも死ぬならここでって決めてんだ。」
冗談そうに言ってはいるが覚悟は本当に決まっているだろう。
しかし、彼はもう高齢者だ。
今でも包丁を握れるのが不思議なくらい健康だけど、突然具合が悪くなることだって多いはず。
そうなれば、続けていられるかどうかも。
「コロッケ六個ください。私食べてみたいです!」
話が途切れたタイミングでハイラ先生がコロッケを注文する。
注文出来るタイミングをずっと狙っていたのだろうか。
「コロッケ人数分ね。ちょっと時間もらうよ。」
「え?コロッケならそこにあるじゃないですか。」
「冷めちまってるよ、これは。食べるなら出来立てじゃなきゃ。」
わざわざ俺達の為に出来立てを用意してくれるのか。
ハイラ先生だけでなく、この場にいる誰もが楽しみにしている。
精肉店のコロッケって、ドラマやアニメでは見たことがあるけど実際に足を運んで食べたことはなかった。
ちょっと憧れていた光景が目の前に広がっているのだ。
「はい、コロッケ人数分ね。合計で四八〇円ね。」
「えっ?すごくお安いですね。」
「うちはずっとこの価格でやってんだ。今になって俺が変えるわけにもいかないよ。」
一つ八十円で売っていれば、まともに利益だって生まれないはずだ。
それも覚悟の上で、お客さんの為に販売するとは。
まだここへ来て十数分くらいだが、このお店がいつまで残っていて欲しいと強く思い始めた。
「いただきまーす!」
一斉にかぶり付く。
すると、食べた瞬間から美味さを感じる。
「んー!美味しい!」
「これだけ美味しいのに八十円なんて安すぎますよ!」
「私、ここのコロッケのファンになりました。」
次々にコロッケを褒め称えた。
俺も何個も買いたいと思うぐらい美味かったと思う。
ジャガイモと肉が入っているコロッケなのだが、ジャガイモに肉の旨みが染み込んでいる。
それでも溢れた肉汁と共に口の中へ広がっていくのだ。
「ありがとうございました!絶対また来ますね!」
「いつでも待ってるよ!」
精肉店のおじいさんに見送られながら、次に入れそうな店を探す。
その間にもサプライズの話し合いは始める。
「ここで計画通り進めるなる飲食店が必須ですよね。」
「それだけじゃ足りないよ。その前に店を回るなら沢山ないと。」
色々考えるうちにここでは不可能ではないかという結論がちらほらと。
思い出というのは大事なことだけど、現実的な話をすれば喜んでもらえるほど昔の形を残していない。
であるならば、行きたい所を来ておいて巡る方が喜んでもらえるだろう。
「君達の提案はすごい嬉しいけど、多分難しいようだね。」
「そうですね。こうも閉まってる店が多ければどうしようもないかと。」
「ちょっと待ってもらって良いですか?」
待ったを掛けたのは、七瀬先輩。
糸井先輩とはまた違う部分で頼りになる先輩だ。
その先輩が待ったを掛けたということは何か策があるということ。
期待して七瀬先輩の口から出る言葉を待った。
「一日だけならどうにか出来るかも知れないです。」
「どうやって?何か考えがあるのかい?」
「絶対に成功させると約束するので、プレゼント選びに専念してください。」
生徒からここまで強く成功させると言われたら、任せてみたくなるのも仕方ない。
佐藤先生は言われた通り、七瀬先輩に任せることにした。
「私はこっちのことで色々進めますので、今日は失礼します。」
電話を掛けながらどこかへ行ってしまった。
まだ高校生なのに、どの人脈に電話をしているのだろうか。
ちょっと盗み聞きしてみたかったが、下手をすれば消されてしまう可能性があるのでやめておこう。
「なんだか彼女もすごい子だね。任せてみたくなったよ。」
「七瀬くんがどうにかすると言ったのであちらは任せて良いと思いますよ。」
「信頼しているんだね彼女を。」
「えぇ、彼女とこの部活を続けて三年目になりますから。」
互いに信頼している糸井先輩と七瀬先輩。
この相棒のような関係が今までの相談を解決へと導いてきたのだろう。
俺と華はまだ相棒と呼べるほど仲が深まってないし、互いのこともあまり知らない。
でも、いずれあの二人のような存在になれたとするなら大きな成長と言えるのかもな。
「さて、ここはみんなでプレゼントの案を出していこうか。挙手制とかにする?」
「あ、僕から補足が。妻のプレゼントとして金属のアクセサリー系は控えて欲しいんだよ。彼女金属アレルギーでね。」
金属を控えればアクセサリーも選択肢に入るだろうけど、最善の案かと言えば疑問が残る。
女心とか関係なく普段からプレゼントをする機会がないから思い浮かばないな。
「はい!ここはやっぱり服とかどうですか!」
最初の挙手はまさかのハイラ先生。
それに服をプレゼントか。
気持ちが籠もっていれば何でも良いのだろうが、服は好みが分かれやすいからな。
「服とまでは行かなくても、スカーフとかの身に付けられ物は良いかも知れませんね。」
糸井先輩が上手くまとめてくれる。
ここは失敗を恐れずに案を出してみるか。
雑貨が好きって言っていたな。
ハズレの少ない雑貨か。
「・・・オルゴール。この間見たオルゴールはどうだろ?」
「オルゴールか。それなら妻の趣味にも合いそうだ。」
「意外とセンスあるかもね佐倉くん。」
華が楽器屋に連れって行ってくれたから思い付いた案だけど、高評価をもらえて内心ガッツポーズをする。
次々と内容が決まっていくが、もう辺りが暗くなっている。
また話し合いは後日ということになり、ハイラ先生が車で送ってくれた。
それにしても七瀬先輩の今後の動向も気になる。
明日にでも学校で聞いてみることにしよう。
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