3、テンプレメイド
「2人組になって部屋へと入ってくれ。後に1部屋1人メイドを送る」
ほとぼりが冷めるまでは実に20分ほどだった。
当然俺は拓人と共に部屋に案内される。
光輝は他の友達と組んでいた。
「ねえ、どうしようか」
「さあな。でも、匿ってはくれんだろ。それに甘えるしかない」
「そっか。仕方ないね」
拓人はベッドに、俺は机の椅子に座って、そんな言葉を交わす。
すると、扉からノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けて入ってきたのは、紫のショートカットの美少女メイドだった。
俺は目を疑う。なんでこんな美人さんが落ちこぼれの部屋に?
だが、彼女はそれを見透かしたように高い声で言った。
「部屋の配役はメイド長が決めるのです。皆さんは勇者様達と関係を持ちたいでしょうし、私は皆さんに嫌われているので」
なるほどどうりで。
ただ1つ、聞きたい事がある。
「もしかして、貴族さん?」
メイドさんは目を見開き、固まっている。
「いや、歩き方とかなんか固まってるし、動作の1つ1つが決まってるというか……」
はい、適当です。理由はただ1つ、テンプレだから!
「半分当たりです。元貴族で、父の影響で奴隷に堕とされました。それに、王都の城の従者は大抵が下位貴族ですよ」
ちょっとした罪悪感に陥る。テンプレだからって軽い気持ちで聞いていいもんじゃないな。学習しよう。
「そっか。なんか失礼なこと聞いちゃったね」
「いえ、問題ありませんよ」
「敬語、要らないよ。拓人もいいよね?」
「ん? ああ、できるだけ仲良くしたいしね」
「ですが、いいのですか?」
「いいのいいの。嫌われもの同士、仲良くしようよ」
「ふぅ……ありがとう。私はアスタルテ。むしろこの部屋で良かったわね」
そう言ってアスタルテはメイドの正装であるカチューシャを外した。
出ていたおでこが隠れ、目をも隠しそうな前髪が下がる。
「ねえアスタルテ、もしかしてかなりの実力者だったり?」
拓人が新たな疑惑を浮上させる。
「ああ、体つきでわかる? 一応貴族だったけど、辺境だったからね。よく魔物とか狩ってたのよ」
おお。俺なんかより全然洞察力あるじゃん拓人。
「多分その辺の冒険者とか騎士団よりは強いわよ。団長は分からないけど」
凄いな。なんでメイドなんかやってるんですかねぇ?
「一応名乗っておこうか。俺は茅瀬大陸。商人だけどよろしくな」
「そういえばまだだったっけ。僕は威払拓人。よろしく」
そうやって簡単な自己紹介を終えると、拓人が溜め息混じりに言った。
「ねえ、何かすることあるのかな?」
確かさっきの人は休んでいろと言っていたし、初日から何かをすることもないだろう。
「多分ないと思うぞ。疲れただろうし、寝ておけよ」
「ああ、そうさせてもらおうかな。実はもう倒れそう」
それもそうだ。
訳もわからず勇者として異世界に来たと思ったら最弱とまで言われたのだ。
予想していた俺でも傷ついているのだから、拓人にとってはかなりの物だろう。
「なあアスタルテ、この辺りで見晴らしのいいとこないか?」
「ん? まあ、エアーズキャッスルかしら。ダンジョンだけど、上っても中に入らなければ魔物はいないから大丈夫よ。屋上から出れるわ」
「そっか。少し、散歩してくる」
-・-・-・-・-・-・-
「圭一先生、何してんすか?」
俺は、エアーズキャッスルと呼ばれるダンジョンに来た。
地面から大樹が捻れるようにして上へと伸び、その上に大きな城が乗っている。それがエアーズキャッスルというダンジョンだ。王城の屋上にある黄色い光に触れたら、ここに上れた。
大樹の上に辿り着いて真っ先に目についたのは、なぜか王に謁見する辺りで姿を消した圭一先生だった。恐らく居ないことに気づいたのは俺の他ほんの数人だと思う。
別に捜す気はなく、少し気を晴らしたかったからここに来ただけだったのだが、先生の声は俺を称賛するものだった。
「よく分かったな」
「いや、気を晴らしに見晴らしのいいところ聞いて来たら偶然見つけただけっすよ。先生、結構初めの方からいなかったですよね? どうしたんすか?」
「なんか胡散臭かったから出てきただけさ」
先生は苦笑いでそう言った。
「俺は城にはいない。ちょっと異世界ってモンを楽しんでみる。また会う時を楽しみにしてるぜ。あいつらの言う神の国とやらかもしれんな」
先生のよくわからない冗談に、微笑しながら応える。
「だとしたらそれは俺じゃないっすね」
「ああ、そういやお前と威払くんは非戦だったか。それじゃあこれから苦労をするであろう君たちにサービスをあげよう」
すると先生がガラスでできた瓶を俺に投げてきた。
「なんすか? これ」
「その辺で拾った毒草だ。触れるだけで毒が回るから注意しろよ」
「なんかそれ、礼が言いにくいっすね」
なんでそんな事を知っているのかと不思議にも思ったが、鑑定か何かのスキルがあるのだろうと勝手に納得する。
「それと、これは俺の不在に気付いた褒美だ」
先生は右手で俺の頭を掴んだ。
「どういうこと?」そう言おうと思ったがなぜか声が出ない。
「じゃあな。それと…………
あんな奴らで辿り着けると思うな」
突然激しい頭痛が走った。
「うう、うゎあああああああああああ!!」
悶え、苦しみ、俺は地面に転がり暴れる。
「う、うう、うぇ?」
頭痛が収まり、俺が顔を上げる頃には圭一先生は居なくなっていた。




