3章―2
はじめましての方、はじめまして。
以前もご覧いただいていた方、お久しぶりです。
2年ぶりにようやく続きをアップすることができました。
後半50行ほどの内容がなかなか書けず、気がつけば同じ年だったはずの主人公が年下に(泣)
現実は残酷でございます。
しかし、その残酷な現実も創作の中なら自由。という訳で、ようやくのお披露目です。
楽しんでいただければ幸いです。
「あっ。」
右の肩辺りから変な声が聞こえた。
わずかに首を巡らせ確認する。
直後に『スミマセン』と謝って、見上げてくる。
「前の人のかかと、踏んじゃった。」
「この人混みじゃぁな。」
歩幅が合わないと前の人は蹴るし、後ろから蹴られるし。
1月1日、家から少し離れた大きめの神社は、予想通りの混雑ぶりだった。
朝、叶多が目を覚ますと、懐に寄り添うように寝息を立てる紫づ花がいた。
昨日の午前中は、出勤して半日とはいえ肉体労働をして、そのまま急いで新幹線に乗って上京して、叶多と合流して買い物して蕎麦茹でて片付けて。
疲れていたんだろう。日付が変わって順番にシャワーを浴びて、叶多が出てきた時には寝落ちしていた。
テーブルに突っ伏してるカノジョを見た瞬間に、つい舌打ちが出る。
「マジかよ・・・。」
確かに眠そうではあったけど、もう少しいちゃいちゃ出来ると思っていたのに。
「紫づ花。寝ちゃうの?」
肩を揺すると、ビクリと肩を揺らした紫づ花が顔を起こした。
「・・・ぁ、ごめんなさい、寝てた。」
掌で目をこすり懸命に自身を起こそうとする。
その健気な仕草にほんの少し野生が目覚めるのと、心が痛むのはどちらが大きいのだろうと。
短くない時間を葛藤した叶多は、横座りしたままの紫づ花の背中から抱きしめた。
「今日は午前中働いてきてすぐこっち来て疲れてるよね。もう寝よっか。」
「ん〜、すごく眠くて・・・。でも、いいの?」
相手の様子を窺う言葉に、下半身が密着しないように少し離す。
「本当は色々したいけどさ、途中で寝られても困るしね。」
大丈夫、と言いながら立たせる。
ベッドに横たわるのを手伝ってあげると、一瞬だけ手をぎゅっと握ってまたすぐに寝息を立て始めた。
しっかりパジャマ持参とか。ドライヤーまで持ってきてるとか。
しっかりしすぎているのは知っているけど、その人の少し緩んだ姿を見られるのは、単純に嬉しい。
そういえば一週間前のクリスマスデートでは寝顔を見られなかった。
リビングからの微かな灯りに浮かぶ寝顔を見つめる。
そっと頬をつつくと、ふにふにっと笑う。
起きる気配はない。
叶多は諦めて、寝る準備をした。
翌朝、目覚めた紫づ花は恐縮していた。
それでも目覚めた時に一人じゃないのがとても幸せで。
緩んだ叶多が唇を近付けるとおずおずと目を閉じる。
やはりこの恥じらいは良い。
満足して紫づ花を抱きしめる。キュッと叶多のパジャマの脇腹の辺りを握っていた紫づ花が、プハッと肩口に顔を出した。
「お餅はいくつ食べます?」
その真っ赤な餅のような頬に頬をくっつけてモチモチとしながら、2つ、と答えた。
「いてっ」
後ろから飛んできたお賽銭が見事に後頭部に当たり、思わず声を上げる。
もう少しでお賽銭箱の前なのだが、せっかちな人がすでに投げているようだ。さっきからパチパチ頭に当たる。
「そういえば前に読んだマンガにこういうシーンありましたね。コートのフードとか、天パで膨らんだ髪の中に小銭がいっぱい入ってるの。」
そう言って、叶多のコートのフードを探り、数枚の小銭を見せる。
「これも一緒に届けてあげないと。」
そして一番前にたどり着いた叶多が一万円札を出すのを見て、紫づ花がストップをかけた。
「お賽銭は、金額じゃなくて音を立てることが重要なので、硬貨の方がいいんですって。」
「え?そうなの?金額高い方がいいと思ってた。」
「たしか、音を立てて、神様に気付いてもらうんだったかな?あと、穴の空いた硬貨がいいとか。理由は忘れちゃったけど。」
見通しがいいとか?首を傾げる姿はやはり幼い。
ふたりで礼をして柏手を打ち、願い事をして、頭を下げる。
そして紫づ花の手を引いて横に流れ、ようやく混雑を突破した。
「あ~、なんだか空気が新鮮。」
思わず深呼吸を繰り返す叶多を真似て、紫づ花もラジオ体操の〆のような深呼吸を繰り返す。
― この大切な人とずっといっしょにいられますように。
神様に願ったのはその一点。
紫づ花は何を願ったんだろう。でも、尋ねたとしても・・・
「え〜、内緒デス。」
やっぱり。
はにかんだ笑顔でそう言われると余計気になるものだ。
「なんでいいじゃん教えてよ。」
肩でウリウリとすると、『だめです』『教えません』とか言いながら対抗するようにウリウリしてきた。
しばらく、そんな風にふざけ合う。
「さて、小腹がすいたな。」
屋台が出ていたはずと首を巡らせると、おみくじが目に入った。
「そうだ、おみくじひこうか。」
またもや列に並び順番を待つ。
その間もずっと手を握っていられるのだから、待ち時間なんて苦にならない。
そんな自分、初めて知ったと、紫づ花は考える。
紫づ花は並ぶのが好きじゃない。
どうしても欲しいものとか順番取りが必要なときには並ぶけれど、基本的に列や人混みは避ける傾向にある。
でも、今はこの列から列に渡り歩くような状況も楽しいと感じる。
手袋越しに繋いでいる手が温かい。むしろ熱いくらいに脈打っている。
見上げれば好きな人の横顔。そしてすぐにこちらを振り向いて笑顔を見せてくれる。
あんなに渇望していた、自分だけに向けられる笑顔を。
画面の中からじゃない、匂いを感じるこの距離で。
今朝は叶多の香水をつけさせてもらった。
香水はその人の体臭に混ざってそれぞれオリジナルの香りに変わっていく。それがどうなるのか試してみたかった。
自分より叶多の匂いを感じてドキドキする。
蒸れているのか緊張の手汗なのかわからないけど、もう手袋は外せない。
― この人と一緒にいられるように頑張りますので、どうかお力添えをお願いします。
いつかテレビで見たお願いの仕方で祈る。
神様はただ願うだけの人の願いを叶えるわけではなく、実現しようと努力する人の手伝いを少しだけしてくれるのだとか。神様は忙しい。
意外と早く列が消化され2人が引いたおみくじは、叶多が中吉、紫づ花が末吉だった。
「ん、ん〜?長年の課題が解決する?恋愛運は・・・辛抱の時・・・。おぉう・・・」
微妙な声を出している叶多の隣で、紫づ花も眉間にシワを寄せて首を傾げる。
「末吉・・・。吉より1つ上でしたっけ?でもあんまり良くはないんだ。」
丁寧にたたみ直して、財布にしまう。
「あれ?持って帰るの?紐に結ばない?」
すでにたくさんのおみくじが結ばれている紐を叶多が指差すが、彼女は首を振った。
「一緒に来た・・・記念だし・・・」
恥ずかしそうに小さな声で告げられる気持ち。浮かれてるのは自分だけじゃなかったと確認して『それもそうだ』と財布にしまう。
「よし、なんか食べよう。なにがいいかな?」
すっと差し出される左手に、ちゃんと右手を出して手を繋ぐ。
まだぎこちなさは取れない。それでも握手にならなくなった。それだけで今日の収穫だ。
二人でぶらぶらと出店を見比べていると、叶多にとって聞き覚えのある声がした。
「でさ、その時その先輩ってば」
「え?」
振り返った瞬間、その声の主もこちらを向いた。
「あれ?叶多さん?」
「おいなんだよ、メグメグじゃん。」
嬉しそうに頭半分くらい背の低い青年の肩を叩く。
『痛い痛い』と逃げる隣では背の高い青年がにこやかに見つめていた。
「叶多さんってこの近くだったっけ?家。」
「いや、電車で来たよ。一番近くの大きなとこだからさ。お前こそ、この近く?」
「そうだよ。散歩するような距離。」
そこで、メグメグと呼ばれた青年が少し不思議そうな表情で紫づ花を見た。
「あれ?ほしざ」
「おわぁメグル!!髪にゴミついてるぞぉ!!」
その言葉を不自然に遮り、その首をロックして強引に紫づ花から離れる。
「いいか、彼女は今のカノジョで星崎るりじゃないからな。変なこと言うなよ?」
顔を寄せて囁くと、メグルが目を白黒させながら自分を抱える腕をタップした。
「ど、どおりで顔が違うと思った。一緒に仕事したことあったから見たことあったんだけど。」
取り残された紫づ花と青年の連れが、顔を見合わせて苦笑いをしている。
しばらくボソボソしゃべっていた叶多が、メグルを捕まえたままようやく戻ってきた。
「こいつは神山廻。まだ高校生なんだけど、すでに結構仕事してるんだよ。」
紫づ花が『あ!』と声を上げた。
「お名前聞いたことあります。ジュニアアーサーシリーズの主演の吹き替えをやられてますよね。」
一番有名なファンタジー映画の名前を出す。
「そ、そうです。ハジメマシテ。」
廻がなぜか片言のような発音でギクシャクと会釈をする。
「この人は、俺のカノジョ。」
嬉しそうに紹介されて、廻も連れの青年を『学校の友達。』と紹介した。
彼が人の好さそうな笑顔で頭を下げる。
「一応今年受験生だからね。願掛けに来た。」
「え?オマエ進学すんの?もう仕事してるのに?」
「ううん。僕はいいんだけどこっち。こいつにとっては安全圏だけど、一応ね。」
「廻はさ、事務所の後輩なんだけど、俺がファウで当たっちゃったから二番煎じにされてんの。」
部屋に帰って暖房のスイッチを入れながら叶多が話している。
紫づ花は買って来た夕ごはんのビニール袋をテーブルに置きながらそれを聞いていた。
廻達としばらくふらふら歩いた後、そのまま歩いて帰る二人と電車に乗る叶多達は別れた。
少し混雑している電車の中で、手すりドンをしてドア隅に紫づ花を閉じ込める。
傍目にはおじさんが若い子に手を出しているように見えるが、さすがに紫づ花は未成年には見えないからそこはクリア出来ているはずだ。もちろん紫づ花の手は叶多のコートの裾を握っているのでセクハラにも見えないはずだ。
それから最寄り駅に降りて、元旦から開いているスーパーで食事を買い込んだ。
「さっきの福引で当ったドリンク剤、冷蔵庫入れておきますね。」
福引一回分の券をもらってガラガラを回したところ、D賞が当った。残念賞のポケットティッシュの一つ上だ。
「特賞は北海道ペア旅行か。紫づ花は飛行機平気?」
三が日は福引キャンペーンらしい。もらったチラシに目を通してみる。
「私は飛行機乗った事ないです。家族旅行も修学旅行も本州の中のみで。」
「そうなの?沖縄とか行かなかった?」
「高校の修学旅行は広島と京都でした。」
気が付くと言葉が戻ってしまっている。昼くらいまではもう少し慣れた話し方だったのに、と少し残念だ。
「叶多さんは飛行機苦手ですよね。仕事で仕方なく乗ってるみたいだけど。」
「ああ。できれば乗りたくないね。大寒波の時のフライトなんてホント生きた心地しなかった。」
思い出したのか、ブルブルと震える様子に朗らかな笑い声が響く。
「ああでも、紫づ花が行きたいとこあるんだったらいくらでも一緒に行くよ。」
買ってきたものをあらかた片付けて、やかんを火にかける紫づ花の横でインスタントコーヒーを調合する。
その手元を覗き込んでから視線を上に向けた。
「ん~、イタリア行ってみたい。」
「え、イタリア!?急に海外?」
「昔から唯一行きたいとこなんですけど、でもその前にパスポート取らなきゃ。」
自然と寄り添う距離で、なんということもない会話をして笑顔で向かい合う。
なんでもない時間がたまらなく愛しくて、叶多はそっと紫づ花を抱き寄せた。
いつでもその横にいるのは自分でありたいと、強く願って。
急いでシャワーを浴びた叶多がリビングに戻る。
紫づ花はスマホをいじっていた。
頭をタオルでガシガシと拭きながらその横に座る。
許可なく覗き込んだりしない。スマホは究極のプライベートだから。
もちろん自分は見られて困ることはないけど、恥ずかしいことはある。
主にフォトアルバムに。
紫づ花が顔をあげた。少し辛そうな表情にドキッとする。
「ど、どうかしたの?」
「あ、今静紅ちゃんからチャトル来てて。なんだかカレシと別れちゃったみたい。」
「え。あの友達、カレシいたの?」
初対面で壁ドンをされた記憶が甦る。
紫づ花を大切にしているいい友達なのはわかっているけど、第一印象が少し怖かったことは内緒だ。
そんなカレシの複雑な心境には気付かず、心配そうにスマホを見つめる。
「半年くらい前からなんかビミョーっていうのは聞いてて。別にDVがあるとかじゃないけど、飽きたって言うのかな?静紅ちゃん、はっきりしてる人だから。」
ああそうね、と相づちを打つ。
良かった、切ない顔は自分関連のせいじゃない。
気付かれないようにほっとする。
そしてさりげなく腰に手を回す。
「それにしても、一月一日に別れなくてもいいのに。」
「なんだか今日の初詣デートが決め手だったみたいです。もういいやって感じで。」
そうはならないように気を付けようと、叶多は密かに決心する。
突然紫づ花の顔が上がってどこかを見つめた。
その唐突さに驚いた叶多が覗き込んだその視線はなぜか虚ろだ。
「え、どうした?」
不安になって問いかける叶多に振り向く動作もどこかぎこちない。
突然その瞳が潤みだす。
それに気づいた紫づ花は慌てて顔を隠す。
しかし叶多にはしっかりその涙が見えた。
ビックリして焦って慌てふためいてとりあえずその頭を抱き締める。
頭を抱えられたままその腕を叶多の背中に回す。スマホを持っていない方の手がパジャマの生地を掴んでー
紫づ花がしゃくりあげた。
叶多の頭が真っ白になる。いや、なぜとどうしてとどうしたらとどうしようがグルグル脳内で高速回転して、全く色を成さない。
ただ抱き締めたその髪をすくように撫でていると、なんとなくしがみつく力が強くなる気がした。
それは多分、この涙が叶多のせいじゃないと伝えている気がして、それでも渦巻くどす黒い不安を呑み込む。
紫づ花が少し顔を動かす。それに合わせて、腕の力を少し弛める。
「何かあったの?」
出来る限り優しい声で尋ねると、フルッと紫づ花の肩が震えた。
「あ、ご、ごめんなさい・・・。今日が一日で明日のお昼には帰らなきゃいけないこと思い出して、なんだか・・・寂しくて・・・」
思わず叶多の喉が鳴る。
そんなかわいいこと言われたら、昨日我慢した分暴走しそうになる。
叶多は必死に『落ち着け~落ち着け~』と自分にいいきかせた。
「えっと、仕事は何日からだっけ?」
「4日です。なので明後日1日だけお休みできますけど・・・」
紫づ花が下を向いた。
「仕事が・・・辛くて・・・よけいに帰りたくない・・・。」
ギュッと叶多の袖に顔を押し付ける。
そっと頭を撫でる。洗いたての髪から自分と同じ匂いがする。
紫づ花がゆっくりと語りだした。
体を壊してしまったこと。それによって仕事を制限させてもらってること。
だから、嫌われてしまったこと・・・
『もちろん仲良くしてくれる人もいるし、みんなどこかしら痛いのを我慢しているから、言いたくなるのも当然なんですけどね』とわざわざフォローを入れる。
自分に悪意を向ける人くらい悪し様に言ったって良いのに、と叶多は苦笑いする。
「転職とかは?」
「いなかは職種が少ないですからね。高卒の独身のおばさんなんてなかなか収入になりません。」
そう言われてみれば、紫づ花も叶多も子供がそこそこ大きくなっているような年頃だ。“母親達”の中にいるというのも肩身が狭いのだろう。
「そっか・・・」
他に言葉が見つからず、とりあえず理解することしかできないのが情けない。
だからせめて抱き締める腕の位置を変えて、紫づ花の首筋に顔を埋める。
叶多にとって紫づ花の存在は、とても癒しになっているし力になっている。
紫づ花にとって自分はどうだろう。少しは力になれているのだろうか。
カノジョの苦しみを癒してあげられないオトコが、どれだけ支えになれるのだろうか。
胸の痛みを悟られないように、そっと顔を離す。
同時に、押し付けていた腕から顔をあげた紫づ花がはにかむように笑った。
チャイムが工場内に響き渡る。
一斉に包丁が置かれる音。そして身の回りを簡単に片付け始める。
紫づ花も大きく息を吐いて、首を回した。
ものすごく集中できた。
10時の休憩以降、一度も時計に目が行かなかった。
確認してみると、今までの自己ベストに並ぶペースだ。
一日のノルマに近付けるかもしれない。腰痛を抱えるようになってなかなかペースが上げられなかったのでとても嬉しい。
「やっとお昼だね。お腹すいた~」
仲の良い人に声をかけられ、おしゃべりしながらロッカーにお弁当を持ちに行く。
あんなに辛かった仕事始めなのに全然辛くない。
それはきっと脳の中にも心の中にも叶多がいるお陰だ。
大切な人がいる。大好きな人がいる。
そしてその人も自分を大切にしてくれる。きっと好きだと思ってくれている。
そんな実感が、ようやく紫づ花に湧いた。
じっくり思い出せば脂汗が出るほど濃厚な時間を過ごして、今はとても落ち着いている。
誰にも見えないようにそっとスマホを取り出しチャトルを開く。
やはり起きたであろう時間にメッセージが来てる。
[おはよー\(^o^)/今日から仕事だね。もう仕事始まってるのかな?頑張ってね(^3^)/~☆俺は一人でシチュエーションドラマの収録だよ。ダミヘを紫づ花だと思って頑張る(^^)b]
そして、寝癖で髪が逆立っている添付写真に思わず吹き出した。
いかがでしたでしょうか。
話を忘れてしまったという方、私もそうです(笑)一緒に前を振り返りましょう(汗)
こう、ね。ごちゃごちゃになってきますね(泣)
それでは今度はなるべく近いうちにお会いできたらと思います。
ありがとうございました。




