一輪 シード学園
「人がいっぱいだねっ!」
「きちんと前を見て歩いて下さい。…あっ!もう、見ているだけでハラハラします。」
今日はシード学園初登校の日、つまり入学式です。まだ10歳という幼いわたしと一緒に入学した、魔力は少ないながらも大人に勝るほどの格闘センスに長けている幼馴染みのシャガ。
いつでも元気いっぱいの彼女は、歩きながら後ろを向いてその可愛らしい笑顔を見せました。
しかし、わたしは彼女がいつ人にぶつかるかと心配でなりません。
「ネメシアは心配しすぎなんだよぅ、大丈夫に決まってるじゃんっ!……おおっとっ」
言ったそばからこれなんですから。本当に彼女大丈夫なんでしょうか?
ふと一つの心配が頭をよぎります。
「シャガ、まさかとは思いますが、ちゃんと学園に何をしに来たのか解っているんですか?」
「もーう、わかってるよぅ。ネメシアってば心配しすぎっ!」
イマイチ信用できませんが、彼女もわたしと同じく10歳。これくらいは誰でも理解できているはずです。
そう信じま…
「ねー、そういえば皆あたしたちより大きい人ばっかだねー。なんでだろ?」
「・・・。」
やっぱり心配です。どうして彼女とクラスが離れてしまったのでしょうか!いえ、魔力の量などの関係とは解っていますが。
あー、もう!多分彼女のことですから、自分の興味のあるところだけ覚えたか、忘れてしまっているかのどちらかでしょう。えぇ、産まれた頃からの付き合いですからね、それくらい理解しています。
けど、もう少しわたしの心配を減らしてくださると助かるのですが……
まあ、今後の成長に期待しましょう。学園に入学できたんですから頭は悪くはないはずなのですから。
「はぁ、シャガ。周りがわたしたちよりも年上なのは、この学園の入学できる年齢は10歳以上であり、普通はそれまでに下準備として基礎を教わり学園へ入学するため……だったはずですよ。」
「へえ、じゃああたしたちは珍しいんだね!」
「……ええ、まあ、そうですね。まだ10歳ですし。」
そこで彼女の興味は周りへと移り、会話は終了しました。そして、よく耳にするようになった言葉がちらほら聞こえ、そちらに思考を移しました。
『神に愛された年』 この世界で遺伝として受け継ぐのは顔付きやしぐさ、性格、魔法属性のみで魔力の量や髪、瞳の色は遺伝しません。また、人間の多くは魔力がとても弱いのです。
しかし、今年で10歳になる世代に二人、3つ下に一人現れたそうです。
本来『国宝級』とまで呼ばれる魔力を持つ者は、何十年、何百年に一人といわれています。それが一度に三人も現れたのです。そう呼ばれるのも、なんらおかしくはないのかも知れません。
わたしがその内の一人であるというのは、なかなか実感が持てずにいますが。
「ネメシア、どうしたの?早くいこうよ!」
「そうですね。行きましょうか。」
少しの不安と未知なるものへの期待に胸を膨らませ、新たな一歩を踏み出しました。
入学式が終わったのですが、どうしてこんなにも眠くなってしまうのでしょうか?まるで、魔法にでもかけられたかのようです。
………いえ、違いますよ?決して学園長様のお話がとても長く、子守唄のように聞こえたなんて言い訳はしませんよ?えぇ、お話もきちんと聞いていましたし。………本当ですよ?嘘ではありませんからね?!
………さて、これからお世話になる教室。さすがに上級魔力保持者のクラスだけあって、人数は他のクラスに比べてかなり少ないですね………。講師らしい人はおりませんし、他の皆さんは思い思いに友人や初対面でも人見知りをしない方がお話をしてらっしゃいます。
シャガとわたしは別クラス。知っている人がいないというのは意外にも不安になるものですね。どうにも落ち着きません。こうなるなら何か夢中になれるもの、例えば本などを持ってこれば良かったです。
「……なあ。」
「ひゃっ!ご、ごめんなさい!!」
「?どうして謝るんだ?」
いきなり話しかけられ、つい反射的に謝罪する。
声のした方へ顔を向けると、前髪を三つ編みにし後ろへ流し、長いブルーグレイの髪をゆるく結えた女の子が凛と立っていました。
「いえ、驚いて反射的に…。すみません、何かご用でしょうか?」
「ああ、いや。用…と言うほどでもないのだが、君は私と同年のように思えたのでね。」
どうやら彼女は初対面でも人見知りをしない方のようです。
「私はジンジャー。10歳だ、気軽にジンジャーとでも呼んでくれ。」
「はい、わたしはネメシア。10歳です。わたしも気軽にネメシアとお呼びください。」
「ああ、よろしく頼むネメシア。………ちなみに敬語は。」
「もう癖なのでお気になさらず。こちらこそ、よろしくお願いします、ジンジャー。」
言葉使いは男性的ですが、気さくでお優しい方のようです。どこかまだ固いわたしを気遣ってか、ゆっくりと優しい表情で話し手に回ってくださっています。うう、わざわざ申し訳ありません。ありがとうございます、ジンジャー。
「おー。初日から仲の良い友人をつくるのは良いが、そろそろ席についてくれな。」
!?いつの間に入って来ていたのでしょうか?教卓の前に立つ男性の言葉を聞いて適当な席に着きます。
「新入生、入学おめでとう。新入生以外でもう知ってるやつもいると思うが、自己紹介する。俺の名前はコモンセージ。次の進級試験までお前たちのクラス担任となった。よろしく頼む。」
私たちの担任、コモンセージ先生は薄緑の髪をぼさぼさにのばし、長い前髪をピンで少し止めただけ。そこからチラッと見える目は鋭くどこか冷たい印象があります。しかし、話声は優しく、少し気だるげでギャップのある人でした。
「式中に学園長が話をしたが覚えているか?この学園は他の学校と違い、進学は全て試験に合格しなければならない。故に、このクラスにいることが2回目、3回目だという者もいるということだ。さらに、入学する年齢や国籍もばらばら。最低でも1年は共に勉強する仲間だ。皆で協力し、勉強鍛錬すること。」
コモンセージ先生は、入学式での学園長様のお話や、この学園での注意事項などを確認した後、各寮の食堂へ移動するように言うとさっさと解散させてしまった。
「ネメシア!君は月の寮と陽の寮、どちらなんだ?」
この学園は全寮制であり、在学している生徒も多いため、男性寮、女性寮共に月と陽の二つの寮に分けられています。
「ジンジャー、わたしは陽の寮ですよ。」
「私も陽の寮なんだ。よければ、一緒に行かないか?」
まだ学園内を覚えていないわたしには嬉しい誘いでした。
「よろこんで!」
さてと、どのようなところなのでしょうか。とても楽しみです。