???話「続いていくもの」
高校生になった堀田と君野は、相変わらず2人だけの世界を楽しんでいた。
桜谷が別の高校へ進学した時は寂しかった。
それでも彼女の決意を知り、2人はその背中を押した。
疎遠だが、今では桜谷も大切な友人の1人。
君野には、彼女と付き合っていた記憶などもうない。
……とはいえ。
相変わらず俺にメッセージアプリの連絡先を許可してもらえない。
なんでだよ……!
高校2年の春。
「ぶわっくしょん!!」
堀田の盛大なくしゃみが部屋に響いた。
「大丈夫?」
君野が心配そうに顔を覗き込む。
「お前の部屋、ハウスダストがひどいんだよ……。俺、花粉症なんだ」
休日。
貸した本を返してもらおうと君野の部屋へ来たものの、「なくした」の一言で捜索が始まり、気づけば朝から部屋中をひっくり返す大掃除になっていた。
「堀田くん〜」
「こら! 甘えてないで探せ!」
君野は最近、以前にも増して甘えん坊になった。
今も後ろから棚を漁る俺の背中にくっつき、棒スナックをポリポリ食べている。
……くそ。
可愛いなッッ!
足先から、たんぽぽみたいに跳ねる髪まで可愛い。
「うえっくしゅ!!」
その瞬間、舞い上がった埃で堀田の鼻が完全にやられた。
「はぁ……息できねぇ」
それを聞いた君野が視界の前に現れて
こちらをじっと見つめる。
「鼻詰まってるの?」
「ああ……」
そう答えた途端、君野は両手で堀田の鼻をつまみ、左右へゆらゆら揺らし始めた。
「何してんだ?」
「こうしたら通るかなって」
「……」
体温が上がる。
こんなこと1つで、まだ心臓が忙しい。
「どう?」
「まあまあ」
鼻声で答えると、君野は今度はティッシュを1枚取り、鼻先へ少し出た鼻水を優しく拭いた。
「鼻って血流が良くなると通るよね」
「スクワットでもするか」
「それじゃ、また埃が舞っちゃうよ」
少し考え込んでから、君野は真顔で言った。
「僕とキスしてみる?」
「は!?」
……こいつ。
無意識にあざとい!
たまらねぇ…!
「ほら、緊張したり、ドキドキしたりすればいいんじゃないかなーって思ったんだ」
「そんな都合よくできるか」
「堀田くんはしたくないの?」
「いや…」
キスをしたら、俺を忘れる呪いは終わってない。
忘れるたび、新しい恋が始まる。
それが少し寂しくて。
でも、そのたびに新鮮で。
悪くない。
「そんな見つめるなよ」
「僕は心配なの」
この関係を続けるのは簡単じゃない。
明日には誰かへ心を向けるかもしれない。
そう思うたび、不安になる。
でも。
忘却が、君野の愛そのもの。
桜谷はそう言っていた。
「鼻、通った」
「えー……」
君野が残念そうに唇を尖らせる。
「君野」
「なに?」
振り向いた、その瞬間だった。
堀田は君野の顎へ手を添え、静かに口づけた。
驚いたように目を丸くした君野は、すぐに力を抜き、堀田へ身を預ける。
明日、俺を忘れてもいい。
その時は、また新しい恋を始めればいい。
俺は君野を信じてる。
君野も、俺を信じてくれている。
唇が離れる。
君野は頬を真っ赤に染めたまま、じっとこちらを見つめていた。
毎回同じように照れて。
毎回違うように愛しく見える。
その空気に耐えきれなくなった堀田は、不意に君野へ飛びついた。
「うわっ!」
ぐしゃぐしゃになるまで髪をかき回す。
「やめてよ!もう!」
静電気で広がった髪に困りながら、君野は笑う。
そのまま髪を堀田の顔へ押しつけた。
「くらえ!ビリビリ!」
「うおっ!」
2人は顔を見合わせる。
そして、
「ははは!」
「えへへ!」
春の日差しが差し込む部屋で、いつまでも笑い声だけが響いていた。
To Be Continued...
続編『君2』https://ncode.syosetu.com/n6103ml/【完結済】




