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「女みたい」と笑われた僕ですが、美少女VTuberとして配信したら毎日が楽しくなりました。  作者: 双葉アリア


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2話 人生で一番最悪な命令

挿絵(By みてみん)


校長先生の長い話を聞き終え、ようやく教室へ戻ってきた。


内容は……正直、ほとんど覚えていない。


後ろから何度も靴先で背中を小突かれ、前の男子はわざと後ろへ下がってくる。


校長先生の話なんて、頭に入るはずがなかった。


教室へ戻る途中も、心臓は嫌なくらい早く脈を打っている。


――まだ何も始まっていない。


それなのに、足は鉛のように重かった。


やがて目の前には自分の教室が見えてくる。


教室の中では、一足早く戻ってきたクラスメイトたちが夏休みの思い出話に花を咲かせていた。


「お前、どこいってきたんだ?」


「俺? 家でダラダラしてただけよ」


「俺はなー! ハワイ行ってきた!」


「ちょっ、マジかよ!」


「写真見せろよ!」


教室のあちこちで笑い声が上がる。


その輪に入ることもできずに教室の入り口で立ち尽くす。


「オトコオンナ邪魔だよ!!」


次の瞬間、背中に衝撃が走った。


「お前容赦ねーな」


「邪魔なものは邪魔なんだからしかたねーだろ」


バランスを崩した僕は、数歩よろめき、そのまま教卓の前で膝をついた。


「いたっ……」


さっきまで賑やかだった教室から、一瞬で笑い声が消えた。


一斉にクラスメイトの視線が僕へ向けられる。


その視線は、背中に受けた痛みよりも苦しかった。


「ちょっと男子!?」


明日香さんが立ち上がる。


「今千尋ちゃんを蹴ったよね!!」


「だから?」


「大丈夫? 千尋ちゃん」


クラスの女子が次々と僕の前へ立つ。


気づけば、教室は男子と女子にはっきりと分かれていた。


僕は、その境界線の真ん中に立たされていた。


「最低!!」


「うるせー!」


「お、おい……もうやめろって。」


「触らないでよ!!」


「ぼ……僕は大丈夫だから……」


誰も僕の声なんて聞いていなかった。


女子と男子の言い争いは、ますます激しくなっていく。


「や……やめて……」


そのか細い声は、言い争う男子と女子の声にかき消される。


「うるせぇって言ってんだろ!」


「千尋ちゃんに謝りなさいよ!」


教室の空気は張り詰め、誰も引こうとしない。


その時だった。


「お前たち、何を騒いでいる!」


教室の入り口から鋭い声が響く。


担任の先生だった。


一瞬で教室が静まり返る。


「……誰が説明してくれる?」


先生の視線が教室をゆっくりと見渡し、最後に床へ膝をついたままの僕で止まった。


「白石、大丈夫か?」


「ぼ、僕は……大丈夫です」


反射的にそう答えてしまう。


本当は全然大丈夫なんかじゃない。


でも、これ以上騒ぎを大きくしたくなかった。


「大丈夫なわけないでしょ!」


明日香さんが先生へ向き直る。


「先生! 今、この人たちが千尋ちゃんを蹴ったんです!」


「違ぇよ。」


男子の一人が鼻で笑う。


「ちょっとぶつかっただけっす。」


「そうそう。勝手に転んだだけだから。」


その言葉に、教室の空気が再び張り詰める。


先生は何も言わず、僕へ視線を向けた。


「白石。本当か?」


教室中の視線が、再び僕へ集まる。


胸が締め付けられる。


もし本当のことを言えば、またみんなが言い争う。


もし嘘をつけば、明日香さんたちの気持ちを踏みにじることになる。


「僕は……」


喉まで出かかった言葉は、最後まで声にならなかった。


「白石。本当のことを言いなさい」


先生は僕をじっと見つめる。


だが、何度勇気を振り絞っても声は出ない。


明日香さんと、僕の背中を蹴った男子たちが鋭くにらみ合っている。


「他に見ていたやつはいないのか?」


教室に重い沈黙が流れた。


さっきまで笑い合っていたクラスメイトたちは、誰一人として口を開こうとしない。


視線をそらす者。


机に目を落とす者。


見て見ぬふりを決め込む者。


誰もが、この空気に巻き込まれたくないのだ。


「……私、見ました」


静まり返った教室に、小さな声が響く。


一人の女子生徒が、おずおずと手を挙げた。


「白石くんが教室に入ってきたとき……後ろから蹴ってました」


その一言をきっかけに、張り詰めていた空気が少しずつ動き始める。


「私も見た」


「私も」


女子たちが次々と声を上げる。


一方、男子たちは気まずそうに顔を見合わせた。


「……はぁ? 何言ってんだよ」


さっきまで余裕そうだった男子たちの表情から、少しずつ笑みが消えていく。


「……またお前たちか」


先生は深くため息をついた。


その声には怒鳴りつけるような強さはない。


だからこそ、教室はしんと静まり返っていた。


「放課後、生徒指導室へ来なさい」


「はぁ?」


「返事は」


「……はい」


不満そうに返事をした男子たちは、舌打ちをしながら自分の席へ戻っていく。


先生はそんな彼らを一瞥すると、今度は僕の方へ歩み寄ってきた。


「白石、大丈夫か」


「……はい」


反射的に頷いてしまう。


本当は痛い。


怖い。


苦しい。


それでも、「大丈夫です」と答えることだけは、もう癖になってしまっていた。


先生はそんな僕をしばらく見つめ、小さく息を吐く。


「あとで保健室へ行きなさい。一応、先生にも話は通しておく」


「……はい」


短く返事をすると、先生は教室全体を見渡した。


「ホームルームを始める。全員、席に着け」


その一言で、張り詰めていた空気が少しだけ動き出す。


誰も口を開かないまま、それぞれが自分の席へ戻っていく。


けれど――


さっきまで教室に響いていた夏休みの楽しそうな笑い声は、もうどこにもなかった。


ーー放課後


ホームルームが終わると同時に、教室は一気に騒がしくなった。


「じゃあまたなー!」


「カラオケ行こうぜ!」


さっきまでの気まずい雰囲気から一転ーー


放課後特有のどこか浮足立った空気で溢れる。


「白石と、お前たち。生徒指導室へ行くぞ。」


「……はい」


「千尋ちゃん、校門で待ってるね」


「……うん」


僕たちは教室を出て生徒指導室へと向かう。


やがて生徒指導室の前で先生が立ち止まる。


コンコン。


「失礼します」


中から「どうぞ」という声が聞こえた。


「入りなさい」


先生がドアを開け、続くように僕たちも中へ入る。


全員が入ったことを確認すると、ドアを閉め、椅子へ座るよう促した。


生徒指導の先生は、男子たちの顔を順番に見渡し、深くため息をつく。


沈黙。


「お前たちは一体何度注意すればわかるんだ?」


「……すんません」


「俺に謝ってどうする。」


教室よりも重い沈黙が部屋を包む。


「謝る相手が違うだろ。」


「……チッ。」


「白石。」


先生が静かに僕の名前を呼ぶ。


「お前は、この謝罪を受け入れるか?」


その言葉に僕はドキッとする。


許したくはない。


でも、男子からは睨みつけるように僕に視線を送る。


男子たちの視線が痛い。


何が正しくて、何が間違っているんだろう。


頭の中で、同じ問いだけが何度も繰り返される。


「……早く言えよ。」


「黙りなさい!」


先生は男子を鋭く睨みつける。


部屋の空気が、一瞬で凍りついた。


「この際だから、はっきり言っておく。」


生徒指導の先生は、男子たち一人ひとりを見渡した。


「お前たちのやっていることは、もう見過ごせるレベルじゃない。」


「学校として協議を行い、正式に処分を決定する。」


「処分が決まるまで、自宅謹慎を命じる。」


男子たちの表情がみるみる青ざめていく。


先生はなおも続けた。


「そして、これだけは覚えておけ。」


「次に同様の行為が確認された場合は、退学処分を検討する。」


「これは脅しじゃない。学校としての正式な方針だ。」


「以上だ。」


誰一人として口を開かなかった。


重苦しい沈黙だけが、生徒指導室を支配していた。


「帰っていい。」


先生のその一言で、僕たちは静かに席を立った。


生徒指導室を出ても、誰一人として口を開かない。


重苦しい空気のまま廊下を歩き、人通りの少ない階段の踊り場まで来た、その時だった。


「おい。」


低い声と同時に腕を強く引かれる。


気づけば壁際まで追い詰められ、胸倉を乱暴につかまれた。


「テメェのせいで、俺たち処分されることになったじゃねぇか!!」


男子の顔が目の前まで迫る。


怒りで歪んだその表情に、思わず息をのむ。


「ぼ、僕は……」


「先生の前でいい子ぶりやがって。」


「ち、違っ……」


「違わねぇよ。」


リーダーは鼻で笑うと、不意に何かを思いついたように口元を歪めた。


「……そうだ。いいこと思いついた。」


胸倉から手を離し、にやりと笑う。


「お前さ、そんなに女みてぇな顔してるんだから、VTuberでもやれよ。」


周囲の男子たちが一斉に笑い出す。


「それいいじゃん!」


「どうせバ美肉ってやつなら余裕だろ?」


「稼げるらしいしな。」


リーダーは僕を見下ろしながら、笑みを深くした。


「そこで稼いだ金、全部俺たちに持ってこい。」


「な……なんで……」


「決まってんだろ! 今回の罰だ!」


「でも……そんなお金……」


「あ゛ぁ?」


リーダーの表情から笑みが消える。


「できねぇなんて言わせねぇぞ。」


胸ぐらをもう一度つかまれ、壁へ押しつけられる。


「一週間。」


「……え?」


「一週間以内に始めろ。」


頭の中が真っ白になる。


VTuberの配信を何度か見たことはある。


だがどうやって始めればいいのか分からない。


「できなかったら――」


リーダーは口元をゆっくりとつり上げた。


「次は、今日みたいじゃ済まさねぇ。」


僕の背筋を冷たいものが走る。


「分かったな?」


「…………」


返事なんてできなかった。


できるはずがなかった。


「返事は?」


震える唇を必死に動かす。


「……は、はい……」


その一言を聞くと、リーダーは満足そうに笑った。


「お前の初配信、楽しみにしてるよ。」


そう言って男子たちは笑いながら去っていく。


一人取り残された僕は、その場から動くことができなかった。


VTuberになれ。


一週間以内に。


稼いだ金を持ってこい。


そんなこと、できるわけがない。


だけど──


やらなければ、


また地獄が始まる。


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