表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後宮の亀仙女 -怪異解決簿-  完全記憶能力をもつ主人公が、宮廷内の謎や事件を解決します  作者: 秋名はる
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/36

第十九話 書庫の窃盗事件‐解決編‐


翌日から、翠玄や礼部の官吏たちは、書庫を訪れる者たちに聞こえるように、模造書の噂を流布していった。繰り返し盗まれた書籍に関する偽の情報を流布することで、犯人にその情報を聞かせる作戦だった。


そんなことを続けていたある時、かの噂を耳にしたある男がこんなことを言い出した。


「書庫内で窃盗があったとは驚きでしたね。しかし運よく改訂予定だったとは運がよい」


男は何気ない素振りで胡相に尋ねた。


「ところで、改訂版は旧版と一体どこがどう異なっていたのですか」


「それは儂にもわからぬのだよ。

改訂を担当した者によれば、中身が全体的に少しずつ変わっているということだ」


確かに、男は手にしていた改訂版の故宮示意図を見ているが、それは一見、盗まれた旧版と変わったところはないように見える。


「確実に言えるのは、もとの故宮示意図では使い物にならない。

致命的な誤りがあるのは確かだ」


胡相は真顔で続けた。


「まあ、それを確かめるには、旧版の故宮示意図を持ってきて見比べるしかないがね」


男はそれ以上は聞かなかったが、そのまま去っていく胡相を邪な目で見ていたことに気づく者はいなかった。

________________________________________


数日後、男は再び書庫に現れた。

男は懐にあの日盗んだ故宮示意図の旧版を忍ばせていた。そして密かに、改訂版の示意図が格納されている書棚の方へとやってくる。


そして、あたりに人影がないのを確認すると、おもむろに懐から旧版の故宮示意図を出してきて、改訂版の故宮示意図とすり替えようとした。


その時──。


「お待ちください」


物陰から密かに様子を窺っていた翠玄が飛び出してきた。


「それは、盗まれた旧版の故宮示意図ですね。どうしてあなたがそれを?」


決定的な瞬間を抑えられ、男は青ざめた。


「ち、違う……これは……」


「言い訳は無用です」

翠玄は冷静に続けた。


「あなたは数日前、改訂版について胡相様に尋ねたそうですね。実はその話を聞いてあなたをずっと監視していたのです。

そして今日、わざわざ旧版を持ってすり替えに来た。言い逃れはできませんよ。」


言われた男は、流石に観念したように肩を落とした。


「……クソッ。改訂版がちょうど出てくるなんて変だと思ったんだ。

中身を見てみても、俺が盗んだ旧版と見分けがつかない」


「それもそのはずです」

翠玄は得意げに言った。


「私は記憶を呼び起こして、故宮示意図の内容を完全に再現しました。最初から一つも異なるところなんてなかったのですよ」


「なんだと……」

男は愕然とした。


「私の記憶力を侮ってはいけません」


「_全ては囮だったというわけか。」


男は悔しそうに呟いた。


「このまま息を潜めていることも考えたが、情報がふるいと知ったら黙ってはいられなかった。新しい方を再び盗み出すしかなくなった」


それこそが翠玄が目論んだことだった。彼女は微笑んだ。


「わざわざもとの故宮示意図を持ってきていただき、ありがとうございます。

このまま外部に内容が流出したら、それこそ取り返しがつきませんから」


________________________________________

後日、胡相からことの顛末を聞かされた。


男は昔からこの書庫に通う官吏の一人であった。読書済みのまじめな人柄であったが、一方でギャンブル癖があり、借金を背負っていて金に困っていた。


ある時、書棚から故宮示意図を見つけ出す。それをみて、宮廷内の宝物庫から金品を盗み出す計画を立てたのだという。人気のない時間帯に書庫にやってきて、密かに故宮示意図を持ち出した。それから腕のいい窃盗団を雇って、見取り図に書かれた情報を頼りに強盗に押し入ってもらう算段だった。


「まったく、愚かなことをするものがいるようだ。」


胡相は嘆息した。


「本当にそうですね。」


「だが、お前のおかげで、大事になる前に解決できた。礼を言うぞ、翠玄」


「いえ、書庫の本を守るのは、当然のことです

 礼部の方々の大志を無下にし、国の公共物を盗み出そうとするものがいるなんて許せませんから。」


書籍に並々ならぬ熱意がある。翠玄は微笑んだ。


「それに、私の記憶力がこうして役に立ってよかったです」


「確かに、あの難解な故宮示意図を、まさか一寸も違わず複写するとは恐れ入ったわ。」


後で確認したことだが、模写した故宮示意図は確かに、原本と寸分たがわぬ出来だったという。


「盗み出さずとも、私のように本人の記憶の中にしまい込んでしまえば、このようなことにはならなかったのです。独り占めしようとするから_。」


「はは、なかなかおまえのようには行かぬよ。」


男はあの後、刑部の役人に連れられて、めでたく逮捕されたという。


翠玄は書棚を見上げた。


(この書庫の本たちを、これからも守っていかなければ)


そう心に誓いながら、翠玄は再び読書に戻っていった。


翠玄の記憶力を用いた窃盗事件解決でしたが、如何だったでしょうか…?

少しでも気に入っていただけましたら、⭐︎評価・ブクマなどお待ちしております

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ