第十三話 覗き見
書庫からの帰りがけ。後宮の宮へ戻ろうと歩いていると、視界の向こうに見覚えのある人影が目に入った。
「あれは、摂政様?」
よく目を凝らせば、視界の先に摂政・徠迦が誰かと話し込んでいるのが見えた。翠玄は興味に駆られ、物陰に隠れてその様子を盗み見た。
「殿下、お妃様から言付かって、件の書付をお渡しに参りました。どうか、お気持ちをお受け取りいただけないでしょうか」
それを聞いて、翠玄はピンときた。
この侍女は玻璃宮に住まう徳妃・梨耀様付きの侍女だった。炊事番をしていた時に一度だけ訪れた玻璃宮にて、この侍女を見かけたことがあった。
「困るな~。このようなことを陛下がお知りになったら、私の身も危ないのだが」
そう言いながら、摂政様は侍女から押し付けられた手紙を渋々受け取る。
「ご迷惑なのは百も承知です。ですが、梨耀様のお気持ちは変わりません。いつでもお待ちしていると、伝えるよう申しつかりました」
「……この件は内密にしておこう。
では、私は公務が忙しいのでこれで」
そう言って、摂政様はその場を去ってしまった。
(翠玄は見た~!!)
後宮内での怪しい出来事の数々は、炊事番をしていた時にも時たま目にしていた。しかしやはり、内部に入れば入るほど、こういった艶めかしい色恋沙汰の数々を目にすることは増えていくのだろう。
あの男、噂には聞いていたがこうも多くの妃たちを虜にしているなんて、なんて抜け目ない─。
と翠玄が一人物陰から頷いていると、不意に背後から肩を叩かれた。
「で、殿下!?」
振り向けば背後には摂政その人が立っていた。
「こんなところで盗み見か?
よい趣味とは言えないな」
摂政さまは腕を組んで、翠玄のことを睨みつける。
「自分のことを棚に上げて私のことを咎められるのは、なんだか心外です」
「……聞いていたのか?」
「_はい、大体は」
摂政様はため息をついた。
「言っておくが、私は彼女たちを焚きつけたつもりはないぞ。
私は親愛なる義兄陛下を裏切るつもりはない」
「_殿下も大変なのですね」
「他人事だな」
翠玄の動じない態度に、摂政様は苦笑した。
「ところで、宮の生活には慣れたか?」
「はい、おかげさまで。
殿下のおかげでこのところ退屈しません」
今日のこのいかがわしいやり取りや、先日雀玲が遭遇した妨害事件など、後宮には火種となる事件や噂話で溢れている。
「まったく、程々にな」
摂政様は苦笑しながら続けた。
「そうだ、落ち着いたらまたお前に仕事を依頼しようと思っていたのだ。近々また宮を訪ねるから、お前も心づもりをしておくように」
(ええ~、またですか……?)
翠玄は心の中で嘆いたが、摂政様は素知らぬ顔で去っていってしまった。
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