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‐後宮の亀仙女‐ "完全記憶力"を持つ下働きが、若き攝政さまに見込まれて後宮で怪異事件解決する!  作者: 秋名はる
第一章

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第十三話 覗き見

書庫からの帰りがけ。後宮の宮へ戻ろうと歩いていると、視界の向こうに見覚えのある人影が目に入った。


「あれは……摂政様?」


よく目を凝らせば、視界の先に摂政・徠迦が誰かと話し込んでいるのが見えた。翠玄は興味に駆られ、物陰に隠れてその様子を盗み見た。


「殿下、お妃様から言付かって、件の書付をお渡しに参りました。どうか、お気持ちをお受け取りいただけないでしょうか」


それを聞いて、翠玄はピンときた。


この侍女は玻璃宮に住まう徳妃・梨耀様付きの侍女だった。炊事番をしていた時に一度だけ訪れた玻璃宮にて、この侍女を見かけたことがあった。


(でも、どうして梨耀妃付きの侍女が、接触さまに手紙なんかを?)


翠玄が訝しんで見守っていると、侍女の相手をしている摂政様もまた対応に困っているようだった。


「そういわれても困るな、このようなことを陛下がお知りになったら、私の身も危ないのだが」


そう言いながら、摂政様は侍女から押し付けられた手紙を渋々受け取る。


「ご迷惑なのは百も承知です。ですが、梨耀様のお気持ちは変わりません。いつでもお待ちしていると、伝えるよう申しつかりました」


「……この件は内密にしておこう。では、私は公務が忙しいのでこれで」


そう言って、摂政様はその場を去ってしまった。



(翠玄は見た!!)


翠玄はその場で思わず目を見張る。


後宮内での怪しい出来事の数々は、炊事番をしていた時にも時たま目にしていた。しかしやはり、内部に入れば入るほど、こういった艶めかしい色恋沙汰の数々を目にすることは増えていくのだろう。


あの男、噂には聞いていたがこうも多くの妃たちを虜にしているなんて、抜け目ないーー。


と、翠玄が一人物陰から頷いていると、不意に背後から肩を叩かれた。


「で、殿下!?」


振り向けば背後には摂政その人が立っていた。

翠玄は思わず飛び退いた。


「こんなところで盗み見か? 全く、よい趣味とは言えないな」


摂政さまは腕を組んで、翠玄のことを睨みつける。

しかし、翠玄は食い下がった。


「ご自分のことを棚に上げて私のことを咎められるのは、なんだか心外です」


「……聞いていたのか?」


「ーーはい、大体は」


摂政様はため息をついた。


「言っておくが、私は彼女たちを焚きつけたつもりはないぞ。私は親愛なる義兄陛下を裏切るつもりはない」


「そうでしたか。ーー殿下も大変なのですね」


「他人事だな」


翠玄の動じない態度に、摂政様は苦笑した。


このような事は、宮廷内では日常茶飯事である。

しかし、翠玄はあまり他人の色恋沙汰には興味がない。炊事係として働いていた時に、周囲が噂話に花を咲かせていた時も聞き流していた。



「ところで、宮の生活には慣れたか?」


話題を変えようと、摂政さまがこちらに向き直る。


「はい、おかげさまで。殿下のおかげでこのところ退屈しません」


今日のこのいかがわしいやり取りや、先日雀玲が遭遇した妨害事件など、後宮には火種となる事件や噂話で溢れている。


「そうか。順調である事はよいが、程々にな」


摂政様は苦笑しながら続けた。


「そうだ、落ち着いたらまたお前に仕事を依頼しようと思っていたのだ。近々また宮を訪ねるから、お前も心づもりをしておくように」



(ええ~、またですか……?)



翠玄は心の中で嘆いたが、摂政様は素知らぬ顔で去っていってしまった。


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