三十五話 ハーキースの過去
あれから俺たちは街を観光しつつ宿屋へと向かっていた。
やはりどの竜人を見ても、ハーキースのような顔が人間タイプの竜人はいない。何か特別な理由があるのだろうか。
周りを見ながら歩いていると、奥の商店でハーキースに似たタイプの竜人が買い物をしているのが見えた。
紫の尻尾に薄い布切れで上裸の女性と赤い尻尾の小さな女の子の竜人だ。きっとクラレイとマルコリーだろう。
「ちょっと! 少しくらい安くしてくれてもいいじゃないの」
「そーだそーだ! 安くしろー!」
何やら商店で揉めているようだ。店主は困った顔でNo2とNo3の対応をしている。
「どうしましたか?」
「ん? あなたたち人間? 今このお野菜を値切ってたのよ。高いと思わない?」
「そーだそーだ! 高い! 安くしてほしい!」
「もうこれ以上安くできないよ~。ほんとクラレイとマルコリーコンビには敵わないよ」
No2とNo3ともあろう者がこんなにケチなの!? いやまぁそこにランクとかは関係ないか……なんか思ってたのと違うなぁ。
二人は俺たちが居てもお構いなしに値下げ交渉に張り切っている。
「まぁまぁ、じゃあここが僕が出しますよ。今度ここのトーナメントに出るんです。なので挨拶代わりに」
「あら、いい子じゃない。あなたもトーナメントに出るの? 気をつけなさいよ、舐めてたら死ぬわよ」
「そーだそーだ! 人間は弱い!」
俺の横でヨミヤがまた額の血管をビキビキと浮き上がらせている。頼む耐えてくれ。
「はは、頑張ります」
「それはそうと、お野菜を買ってくださったお礼をしなくてはなりませんね。よければわたくしたちの家によっていってはどうかしら? お料理をふるまってあげるわよ」
「そーだそーだ! 泊まってけ!」
「本当ですか、今ちょうど宿屋を探していたところなんです。助かります」
願ってもない提案だ。人には優しくしてみるものだ。クラレイとマルコリーの情報も気になることだし、お邪魔することにしよう。
提案を喜んで受け入れた俺たちは再びハーキースの城へと戻ってきた。
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「ん? お前たちなんでクラレイと一緒にいるんだ」
「先ほど商店街でお野菜を買ってくださったのよ。とても優しい方よ」
「そーだそーだ! 優しいぞ!」
「そうか、悪いな。そう言えばお前たち泊まるところもないだろう。せっかくだしゆっくりしていけ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
俺たちはハーキースの道場に泊まる権利を得た。
その後クラレイとマルコリーは買ってきた野菜で料理をはじめ、なんとも美味しそうな鍋が完成した。
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「「「いただきまーす!」」」
俺たちは道場のど真ん中で鍋を囲み食事をとっていた。暖かい鍋が疲れた体に染みわたる。
ハーキースは俺たちがここに来た理由を二人に話したようだ。
「そうだったのですね、それで私たちに協力を。それにしてもゴードンを負かしたというのは信じられませんわ」
「そーだそーだ! ゴードンは強い!」
やはり俺たちがゴードンを倒したことは信じられないらしい。なんでだ、もっと筋トレとかしてガタイを良くした方がいいのだろうか。
「ハーキース一家は皆さま顔が人間の様ですが、何か理由があるのでしょうか」
するとヨミヤが突然切り出した。とにかく話を変えたくて仕方がないようだ。
「おぉいきなりだな。そうだな、これには訳がある。俺たちは人間と竜人の間に生まれた。だからこうしてハーフになっている。マルコリーは俺たちの子だから同じ容姿だな」
「そうだったんですか」
危うく俺は親がどうなったのかを聞きそうになってしまった。喉元まで出かけていた言葉を飲み込む。
「ん-? 俺たちの親の関係が気になるような顔をしているな。特別に話してやろう。これは父さんから聞いた話だが、昔お前たちのような人間の女が俺たちの街にやってきたらしい。そいつがたいそう強かったらしくてな、俺の父さんといい勝負をしたんだ。その女も強き者を探して旅をしていたらしく、俺の父さんを気に入って番になったんだと。そして生まれてきたのが俺とクラレイだ」
……ん? ということはハーキースとクラレイは兄妹ということだよな? 兄弟で子供作ったの!?
俺とヨミヤはその事実がわかると驚きを隠せなかった。
「おい、お前たちが驚くのはわかってる。人間は兄妹だと番にならないんだろう? でも竜人は違う。別に兄妹とかそういうのは関係ない。強き遺伝子を残すのに効率がいい方法を選ぶだけだ」
「そうですか、少し驚きました。でも確かにそれが一番いいのかもしれませんね」
でも強い遺伝子を残すのにはそれが一番いいだろう。効率だけを考えればそうなる。
ということはマルコリーはかなり強いのではないだろうか、まだ子供だがこれが成長したらとんでもないことになりそうだ。
今は無邪気に鍋をつついているが、なんだか恐ろしく見えてきた。
「お父様は戦死したと聞きましたが」
ヨミヤはそう切り出した。
おいおいお前最初に言ったこと忘れてるだろ! 俺たちからは切り出さないって言ったろ!
ここに来て頭の血管が半分くらい無くなってしまったんではなかろうか。
「そんなことまで聞いたのか!? ゴードンのやつ、口が軽いな」
「はは、すみません……」
ハーキースは笑ってくれていた。地雷ではないようだ。俺はほっと胸を撫でおろしつつヨミヤに肘打ちをした。
「父さんは番になった後、子供を作った。その後に魔王軍がこの街に攻めてきた。憤怒の魔王だ。父さんはそいつと戦い戦死した。だが憤怒の魔王にもかなりの痛手を負わせられたから何とか撃退はできたらしい。そして母さんは俺とクラレイを生んだあと死んじまった。お前の言う憤怒の魔王というのはそれくらい強い奴だ」
この竜人のトップを殺すほどの強さ……それが遥か昔だということを考えると、今はもっと強大な力を持っていてもおかしくはないだろう。末恐ろしい。
「まさか憤怒の魔王がお父様を……思っていたよりも強い相手かもしれませんね」
「そのようだね。シャギーを見てちょっと気が抜けてたかもしれないね」
「ん? 今シャギーと言ったか? シャギーって確か、魔王の一人だろう」
まずい、口を滑らせてしまった。
ハーキースは持っていた茶碗をおき、こちらを見ている。
「はい。楽観の魔王シャギーは僕たちと同盟を結んでいます」
「おいおいまじかよ!? 二人とも聞いたか! こいつら魔王と同盟だってよ!」
「凄いですわね、もしかしたらあなたより強いんではなくって?」
「そーだそーだ! 父ちゃん負けるぞ!」
「なんだと!?」
ハーキース一家は俺がシャギーと同盟を結んだということを伝えると、途端に盛り上がり始めた。
この街ではシャギーの名前を出すのは好印象だったのだろうか。
「はは、すまんすまん。お前たち本当に見た目以上なんだな。舐めていて悪い。無礼を許してくれ」
「いえいえそんな」
「となると本当にトーナメントが楽しみだな。お前たちの戦いを期待しているぞ」
俺たちはその後も談笑をしながら鍋をつつき、楽しいひと時が流れた。
ようやく僕たちの力量が認められたのか、最初の頃よりもだいぶ物腰が柔らかくなった。
それを見てヨミヤも少し怒りが収まったのか、笑顔が戻っている。
鍋を食べた後俺たちは客室に案内され、風呂にも入り一休みすることが出来た。




