010 琥珀石の行方
――琥珀石がないぞ……大変だ……
――もしかしてお前か……お前の仕業なのか?
――どうなんだ、小羽!
――この〈異端者〉、化け物め!
ふと彼らの声が頭の奥で響きだす。
あの日、広場で恐怖の色を見せる村人達は疑いの目でこちらを見ていた。
「琥珀石が無くなったとは何という事だ……皆、大変じゃ、大変じゃぁあああああ!」
「もしかして最近起こり始めたあの高熱もそのせいなの……?」
「何て事だ。これは一大事だぞ、どうすればいい!」
「神主は何をやっていた! ちゃんと倉庫の鍵は確認していたんだろうな!」
「すみません。していたんですが数日開けたすきにその鍵が壊されてしまいまして……」
「もういい。それより先にその事に気づいたのはその〈異端者〉というじゃないか!」
「怪しい……全部お前の仕業じゃないだろうな!」
誰かが漏らしたその発声をきっかけに村人達は口を開き、その不穏な雰囲気は連鎖していった。やがて父親も疑わし気に問いかけた。
「大体なぜあの時お前が倉庫にいたんだ、小羽……」
「それは、だって……」
祭りの準備の時、倉庫へと向かう前後の行動を思い出そうとしていたが考える間もなく侮蔑の表情を向けて母親は問い詰めてくる。
「お前は庭の掃除を任されていたはずだろう? 何でお前があんな場所にいたのよ!」
――答えろ、小羽。
――答えろ、〈異端者〉。
――答えろ、この泥棒!
言葉の雲行きが怪しくなる。悪い方向へと進んでいく。
「この異常事態はお前の仕業だろ? お前が虫にそうさせているんじゃないのか?」
「お前が全て悪いんだろ。さっさと白状しろ、この〈異端者〉め!」
「違います、私じゃありません。私は琥珀石を持ち出してはいませんし村人達を襲うような事もしていません。信じてください」
そう訴えても決して信じてはくれなかった。それは逆に村人達の疑心を加速させていく。
「嘘を言うな!」
「本当です……」
何か言うほど事態は悪くなる。誰も彼女の言う事なんか聞き入れてくれない。誰も〈異端者〉なんかの言葉は聞かない。決めつけた様な本音を理不尽に見境なく吐きだしていた。
そんな中、村で一番高齢のお婆さんが場違いな歓喜の声音でこう言い出した。
「いやこれは呪いじゃ。この村に伝わる〈虫使い〉の、〈異端者〉の呪いなのじゃぁああ!」
「呪い……?」
「村で毎年行うあの儀祭は本来、哀れに生贄として殺されたという〈異端者〉の怒りを抑える為に行われたというぞ!」
「それじゃあ、その言い伝えの〈異端者〉がこの現象を起こしているとでもいうのか?」
「そんなまさかぁ……」
「ありえないわよ、そんな事……」
自分が虫達と心を通わせる現象は認めつつ同じ超常の呪いは信じない。それではまるで〈呪い〉を、自分を犯人にする事で違うと思い込もうとしているだけじゃないのかと小羽は思う。きっと実感が湧かないのだろう。自分が虫達と会話する時の神秘的で自然なこの感覚は彼らには理解できない様に、彼らの自分への恐怖心が私には分からない様に……
周りを伺うと若い大人達や青年達は呪いやら言い伝えと聞き、否定的な面持ちで周りの表情を確認し合う中、ざわめきを断ち切る様にある人物が声を漏らした。
「小羽でしょ!」
そっけなくそう一言、発したのは小羽の一番下の姉だった。
「どうせ、小羽が犯人よね……?」
「そうに決まっているわよ!」
続いて長女も次女も妹の仕業に過ぎないと言い出す。
「だよなぁ! 呪いなんてありえねぇ。これはその小羽が一人でやっている事じゃねえのかよ。それともあれか? 言い伝えの〈異端者〉の仕業てか?」
きりっとした上がり眉が特徴の彼は小羽へと指を突き立てていた。
「小羽は〈異端者〉の生まれ変わりかなんかで恨みを返しにきたと? なんてな。あはは。ありえねぇありえねぇわな、そんな事。みんな呪いなんて本気にするなよ、バカらしい!」
おどけた様な彼の言葉にお婆さんは途端に激しく高揚を示した。
「まさにその通りなのじゃあああ!!」
「おわっ!」
若者は一瞬驚きその後、呆気にとられた様子でお婆さん方を見た。
「え……?」
「夜ノ月琥珀のその虫は少女の帰りを待っている。主の帰りを待っている……と、村に伝わるその歌の中で虫は少女の帰りを待っているとされている。その事からわしや先代たちお前たちの先祖は昔からずっと思ってきた。少女は再び蘇りこの地へ帰ってくるのだと……そして……」
静まり返る人々にじろりと見渡してからお婆さんは告げた。
「少女は亡くなる寸前にこう言ったそうなのじゃ。『私は、再びこの地へ帰るだろう。いつか必ず……』と! そして何百年と時が経ちその〈異端者〉は帰ってきた。その小羽という娘がまさに彼女の生まれ変わりなのじゃああああああ!」
「待てって、そんなのただの言い伝えだろ! 決めつけてんじゃないよ、婆さん!」
「では現にその少女の事をどう説明をする?」
「それは……」
「彼女は紛れもなく普通とは違う。お前さんが一番その事を分かっているだろう、宮の神主よ」
「あぁ、えーっと……」
問われた父親は何も言えずそのうち、しびれを切らした様に近くの木の根っこの部分に腰を下ろしていた厳つい顔のお爺さんが立ち上がり怒りを露にして前の方に出た。
「おら達もずっと見てきたぁ、この〈異端者〉が虫達とつるみ森へと消えていく姿を……この女がおらの婆さんにあんな事をしたんだぁ、そうにぃ違いねぇ! 皆もそう思うだろう?」
「そ、そうだ、そうだ!」
「そうだよな!」
「こいつが、この〈異端者〉が犯人なんだ! それしかありえないだろう!」
ギロっと周りを見渡す彼と目があった者がとっさに賛同し曖昧な感情を含んで声を荒げる。それに合わせ小羽を悪者にしようという意識が全体の意思であるかの様にまとまっていく。そんな人々の責め立てる視線に小羽は今までになく恐怖した。
「わ、私は虫達にそんな事をさせていません。それに……私が虫達を操っているというよりも私は彼らと対等に寄り添っているんです。仲間なんです。あなた達には分からない事かもしれませんが私はただ、彼らと静かに……」
「何を生意気なぁ……この嘘つき女め! どうせ日ごろの腹いせに虫に村人を襲わせたんだろろ、そうなんだろう? その証拠に倒れた者は皆お前に冷たくあたっていたなぁ!」
「そんな……」
私にちゃんと接してくれる者など誰もいない。もしお爺さんの言う通り私に冷たくした者が襲われたというのならきっと殆どの人が倒れる事になるだろう。このお爺さんも……
「なんだ、その目は……」
小羽はただ悲しく虚しくお爺さんに視線を向けていた。ただ本当の事を答えた。
「私は違います。何も知りません」
私は何もしていない。彼らと関わらない。今までもこれからも、ずっと……
「こ、このぉ!」
「きゃあ!」
「ちょっと、祖父ちゃん!」
腕を強く掴まれた時、彼は祖父の行動に驚いた様子でとっさに声を上げるが、そのお爺さんは気にせずこちらを睨みこう告げたのだ。
「この〈異端者〉を閉じ込めろ、自由にするな! これ以上村人を被害に合わせない為にもこいつを小屋に閉じ込めろ! 皆で監視するんだ、分かったな!」
「ちょっと待ってください。離して……」
話はおかしな方向へと回っていく。自分の意思、皆の意思に関係がなくただ悪い方へと……
「うるさい、動くな! お前が虫を使って外へ逃げ出さないかしっかりと見張らせる。お前さんもみんなも、それがいいだろぉ? こいつがいるだけでみんな生きにくいんだ」
父と村人と顔を合わせ納得させようとするお爺さんが映っていた。
「皆この女が怖いだろぉ? 恐ろしいだろぉ? 不思議な力で虫を操り、何かをしでかすのではと日々怯えていただろ? んで、野放しにしておいた結果がこれだぁ。何人かの村人達が謎の奇病にかかった。この村の厄となるこの娘をこれ以上は野放しにできぬ!」
「それは、まあ……」
村人達はお互いに理解しきれない他者の意思に乗せられ勢いが増し平穏とは遠ざかっていく。この違和感に気づきつつも戸惑いながらも、その〈皆の意思〉というものに従ってしまうのだ。
「そう、だな。それがいい……なぁ?」
「え、ああ……そうだな」
「それが、いいわよ。そうして頂戴」
次々と賛成の声が上がり、どうする事も出来ず小羽は諦めた様に流れていく声や視界に映る人々の表情や感情などをぼんやりと見ていた。やがてつんざく雑音もおさまり……
「皆はそう言っている。親であるお前さんはどうする?」
「ああ、分かった……小羽を好きに、してください」
父は弱弱しくそう声を発し、その姿を見て小羽は胸の奥か膨れ上がる悲壮感を、絶望を……やはり嘆く事も出来ず仕方ないと押し込めるしかなかった。もう諦めるしかなかったのだ。
「お父さん……」
こうして小羽は罪人が入れられる様な鉄柵が並んだ小屋に閉じ込められた。
「みんな開けて! 私は知らない! 琥珀石を盗んでいない! 信じて!」
何度もそう訴えるが誰も小羽に構う事はなかった。むしろ嫌悪を含んだ目で小羽を睨んでいた。また蔑むように笑っている者もいた。
「誰か……」
助けて、助けて……虫たち……
皆から嫌われ悪口を言われるよりもこのまま自分がどうなってしまうのかという不安や恐怖が襲い、小羽はそれが一番辛いと感じていた。村人達の表情や声を思い出し、自分の死を薄暗い古びた個室の中で連想したからだ。その度に彼女は虫達に会いたいと、彼らとの日常を思い返していた。すると少しだけ心が落ち着いたのだ――
夕食後、食器を片付けている母親と姉達の姿や一階の廊下で父と明日の予定について話している雪野達の声が聞こえていた。その間、小羽は誰にも気づかれない様に裕子の部屋を訪れた。
「ちょっといい? 裕子姉さん」
「小羽……何よ、あんたと話す事なんてこれぽっちもないんだけど?」
騒動が起きた時からずっと気になっている事があった。
「一つだけ聞かせて」
「何をよ」
「琥珀石はどこにあるの?」
「……何の事よ。私は知らないわよ」
「そんなはずはないわ」
「あんた、私を疑っているの?」
そう呟いた姉に小羽は戸惑いつつも……ある疑問を無視する事ができなかった。
「ええ……」
それはこの事態が起こる直前の出来事、琥珀石が無くなった時から抱いた一つの疑問。
小屋に閉じ込められてからしばらくして現れた彼の言葉から気づかされた事……
「おい、お前が琥珀石を盗んだのか? 倒れた村人達の件とかも……」
聞きなれた言葉に小羽はうんざりし弱弱しい声音で返した。
「私じゃない。私は何も知らない……」
地に目を落とし彼の顔を見ようとしない小羽の発言や態度が気に入らなかったのか、彼は鉄格子を両手の拳で叩きつけた。それに小羽も反射的に彼の方に顔を向ける。
「じゃあ、聞くがお前じゃなかったら誰が琥珀石を盗んだというんだ!」
どこか棘がある言い方の彼に小羽は溢れてくる様々な記憶や感情を抑えて、ただ答えた。
「本当に知らない……私は父が倉庫に集まるよう呼んでいると言われたからそこにいたの。そして偶然みんなより先にそこにいただけよ。篤志くん」
「本当か、嘘じゃないよな? お前が一人勝手にそこに行った。そうじゃないのか?」
「そんな事は……」
「ならそれをお前に言った奴は誰だ。父親が呼んでる、そうお前に伝えた奴は!」
問われ小羽は記憶を辿る。それを自分に言ったのは……
「裕子姉さん……」
「ん? どうした?」
「いえ……何でもないわ」
「で、誰がお前に言ったんだ?」
「覚えていません。忘れました……」
「ふん……言わないのかよ……」
そう言って若者はどこか不満そうに顔を強張らせて去っていった。
小羽は一人残されてもう一度思い返した。家族とは別に一人で階段の履き掃除をしている時、裕子が言っていた言葉を……
「小羽。父さんが呼んでいるからそれ片づけて西倉庫に行きな」
「西倉庫に? また、どうして……」
「いいから急ぎな! みんな集まるようあんたにも言えって頼まれたんだよ!」
当たりが強い姉に小羽は余計な事は言わず従った。
「分かったわ。裕子姉さん……すぐに行くわ」
こうして結局その場所には人影がなく、鍵のない倉庫を見てもまだ何も気づいていない自分の前に家族が集まり今の状態へと行きついてしまった。
いくら何も分からず身動きが取れない状態であっても、このままではいけない……そう思う。
「このままでは村の人達に被害がでるわ」
「うるさいわね。知ないって言ってるでしょ!」
「私は別に姉さんを訴えるつもりはないの。ただこの事態を落ち着かせたいだけ……あの日の裕子姉さんの発言は明らかにおかしかった。まるで私をあの場所におびき出そうとしていたように思えた。どうして琥珀石を盗んだりしたの?」
瞬間、裕子はうっとうしそうな顔を見せ黙り込む。
「裕子姉さん!」
「もうしつこいわね。あんなもの裏の草村に捨てたわよ!」
「捨てたの……?」
「もうこれでいいでしょ!」
裕子は小羽を押しのける様にして部屋を出て行き彼女を追った先に雪野達がいた。どうやら二階へと戻るところだった様で階段に足を乗せる雪野の姿がある。
「小羽さん、お姉さんと何かあったんですか?」
「いえ、ちょっと……」
心配そうにそう聞いてくる花月に小羽は戸惑いながら、姉が琥珀石を盗んだ者だという事はいえなくていろいろ不思議がられない様に落ち着いて発した。
「気にしないでください。少し確かめたい事があっただけです」
「そうですか?」
「はい」
頷いてから小羽は改まって雪野達に伝えた。
「皆さん、今日はありがとうございます。昼まで自分がこの家に戻れるとは思いませんでした。今はあなた方のおかげで恐怖はなくなりました。本当に感謝しています」
「いえいえ。今、あなたがそう思えたのなら我々も良かったと思います」
「小羽さん、まだ何か困っている事があったら何でも言ってください」
「俺もできる事は力になるからね」
「はい。ありがとうございます、皆さん」
「あ、こんな場所でなんですが、明日の予定についてさらりと……明日はとりあえず琥珀石を探しが優先ですね。それがなくては小羽さんのこれからが心配になりますからね」
「はい」
「しかし見つけるまでに手間がかかりそうです。この土地に不慣れな私達には少しは大変な作業です。ですがまあ私の能力にかかれば明日中には琥珀石はぶじ見つかる事でしょう」
「あの皆さん、そんな考え込まないでも大丈夫ですよ。明日状況を見て動きましょう。私も虫達に聞いてみますので頼りにしていてください」
「分かりました。それは心強いですね。実は【虫】達についての情報も何かあるかもしれないと、あなたに【虫】達の通訳を頼もうと思っていました」
「はい、任せてください。私もそれくらいはしないと皆さんに申し訳ないです」
「それでは小羽さんも琥珀石探し、明日一緒にお願いします」
「はい、分かりました」
小羽はそう返した後その場を去り雪野達が二階へと上がっていく気配を感じながら、電気がついていない廊下に端で止まり、しばらく考える様に俯いていた。
あの時、凍える様な一人の空間の中で考えていた。何でこうなってしまったのかと……
小羽は一瞬、〈裕子姉さんのせい〉とも考えたが首を振る。
そうじゃない、そういう事ではないのだ。根本的に何かがおかしい……
それはこの村の風習――本当にあったか分からない〈異端者〉、〈虫使い〉の言い伝えを儀祭として今も信仰されそれを皆の都合よく曖昧に解釈する状況。それがまずおかしい。
それはこの村の人達――伝説や言い伝えの少女を信じ、それでいて矛盾に信じていない。私を恐れて言われるがまま閉じ込めた、あの人達もおかしい。
それは家族――子供を信じず私を引き渡した両親も妹を嫌う姉達もみんなおかしい。
そして、それは私――
「私が、おかしい……私も……一体私は、なに……?」
小羽は顔をうずめて沈み込んだ。
あのお婆さんが言った通り普通とは明らかに違う、自分という存在。【虫】達と心を通じ合わせる事が出来るこの不思議な力。村人達から〈異端者〉と呼ばれる理由。
最初から自分が見てきた世界はとてもおかしな事だらけなのだ。そんなおかしな所でおかしな事件が起こってしまった。それらをどうにか出来るはずもなく、またどうすればいいのかも分からない事なのだ。私だけでなくみんな……
こんな悲しすぎる現実に小羽はもうどうしたらいいのか分からなかった。分からなくなった。望みはただ村人に関わらず、ただ……
「虫と静かに過ごしていればいいと思っていた。ずっと……なのに……どうして、なの?」
他には何も望んでいないのに……もう自分の中で全ての望みはどうせ叶わないと、とっくの昔に諦めているのに……なんでこんな風になってしまうのか……
「どうして……こんな事に? いつも、どうして……」
そこでふと、いつも何度も自分を中心に騒ぎが起こり身近な人が不愉快そうな顔で自分を見るのは全て自分のせい、自分の存在のせいでこうなっているのだと思った。
「自分さえ生まれてこなければ……」
そんな考えがと共に家族や友達の笑顔が消えた過去の光景を断片的に思い出した。
もう戻ってはこない彼らとの温かな日々や関係に小羽は諦めるしかないのだと振り返ったらいけないのだと、もう終わっているのだと……希望は持つな、忘れろと自分に言い聞かせた。
もう絶望するしかなかった。それはきっと、ずっと気づかないふりをしていた感情だった。気づけば流れて出ていた涙は止まる事なく小羽はただいつも通り、時間が過ぎこの辛い気持ちを飲み込んでしまえるよう耐えられる様にと願うのだ。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫……きっと……大丈夫、よ……」
深夜に上る欠け気味の月は少しずつ満月へと向かっている。その月の光を疲れ果てた表情でぼんやりと見つめながら次第に小羽は眠りについた。
その後、じんわりと冷え込みながら時間が過ぎていき眠りの中で小羽は鍵が開く音を聞いた。誰がそうしたのかは分からなかったが、ふと目を開けると扉は僅かに開いていた。
「鍵が開いている……」
不思議に思いながらも小羽は、夜には見張りがいない事が分かり今しかないと小屋から抜け出したのだった。逃げた森の中、虫達と再会し彼らと共のある場所へと向かった。そこには崩れかけた小さな祠があり人が一人はいれる程の隙間があった。それは小羽の秘密の隠れ家で、ふらつきながら腰かける彼女に虫達が体の周りを覆い彼女の寒さを和らげようとした。
「もしかしてあなた達が私を助けてくれたの? 小屋の鍵を開けて……え、違う?」
虫達は静かに囁いた。さやさやと、さやさやと――
「それじゃあ、いったい誰が……」
疑問はや不安は尽きる事はなかったがそれを飲み込んでそっと瞳を閉じた。そして翌日、暗闇の中に一筋の光が差し込んだ様な気持ちで、落ちていた手紙に希望を託したのだ。
これを受け取ったあなたは今、何らかの悩みを抱えている事でしょう。
――この世界には普通の人には理解しがたい不思議な【物】達がいる。また不思議な力を持った【者】がいる。そして時おり奇妙な事が起こるのだ。問題が起こりうるのだ――この言葉であなたがその意味について理解したかは分かりませんが、これだけは伝えておきます。私達はあなたの味方です。もしあなたが助けを求めるのならば手紙にその悩みを書いてください。必ず我々はあなたを助けます。
〖国公認秘密組織、[JHSA]より〗




