第二十五話 「六月十四日まで」
『来なければ全部終わる』
その文字を、あなたは何度も見返していた。
教室にはもう誰もいない。
夕陽だけが差し込んでいる。
机の上に置かれた紙。
六月十四日。
午後六時。
約束の場所。
そして。
来なければ全部終わる。
それは脅しなのか。
警告なのか。
それとも――。
萌自身への最後通告なのか。
窓の外を見る。
グラウンドでは運動部が練習している。
笑い声も聞こえる。
平和な放課後。
なのに。
自分だけが別の世界にいるみたいだった。
スマートフォンを取り出す。
知らない番号とのトーク画面。
あなたは迷わず打ち込んだ。
『六月十四日に何がある』
送信。
既読。
数秒。
返信。
『知らない方がいい』
思わず舌打ちしそうになる。
毎回それだ。
肝心なことは教えない。
なのに。
妙なところだけ知っている。
さらにメッセージが届く。
『でも』
『知ることになる』
胸騒ぎがした。
嫌な予感。
六月七日の前日にも似た感覚だった。
『その日は君も来るから』
あなたは画面を見つめる。
返信しようとする。
だが。
その前に相手からもう一通届いた。
『前回も来た』
呼吸が止まる。
前回。
またその言葉だ。
『どういう意味だ』
すぐ送る。
既読。
返信。
『思い出せない?』
『かわいそうに』
そこで会話は終わった。
既読も付かない。
何度送っても反応しない。
前回。
前回。
前回。
頭の中でその言葉が反響する。
自分が知らない前回。
それがあるというのか。
帰宅後。
机へ座る。
ノートを開く。
今までの出来事を整理する。
六月七日。
萌の死。
ループ。
黒いパーカー。
倉庫街。
知らない番号。
そして六月十四日。
ふと。
あることに気付く。
六月七日については鮮明に覚えている。
雨。
交差点。
救急車。
萌の最後の言葉。
全部。
なのに。
六月四日より前の記憶が妙に曖昧だった。
「まさか……」
思わず呟く。
もし。
本当にもし。
六月七日より前にもループしていたとしたら。
自分が忘れているだけで。
その瞬間。
頭の奥が痛んだ。
ズキッ。
鋭い痛み。
思わず額を押さえる。
そして。
一瞬だけ。
光景が見えた。
雨の夜。
倉庫街。
誰かの叫び声。
蒼井萌。
そして。
自分。
だが。
次の瞬間には消えていた。
夢みたいに。
幻みたいに。
呼吸を整える。
今のは何だった。
記憶か。
それとも想像か。
分からない。
だが一つだけ確信した。
六月十四日は初めてじゃない。
どこかで。
自分はあの日を知っている。
翌朝。
六月十二日。
教室へ入る。
窓際を見る。
萌はまだ来ていなかった。
珍しい。
時計を見る。
始業五分前。
四分前。
三分前。
二分前。
一分前。
そしてチャイムが鳴る。
それでも。
萌は来なかった。
教室がざわつく。
担任も不思議そうな顔をしている。
遅刻。
萌が遅刻することなんて今までなかった。
その時だった。
あなたのスマートフォンが震える。
知らない番号。
画面を見る。
届いたメッセージは一言だけ。
『急げ』




