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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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41/41

41.推しに振り向いてもらいたいけど

ヴォイドの部屋でエヴァを治したあと、エヴァとソフィア、ノアの3人はそれぞれの部屋へと帰っていった。

先程まで賑やかだった部屋に、いつもの静けさが戻る。

ヴォイドがなにか本を読みながら紅茶を飲む。

杏と華は魔界語を学ぶ。

華にとって、今日はすごく長い一日だった気がする。

だが、今こうして穏やかな日常にもどることができ、とても不思議な気持ちだった。


華はヴォイドの方をちらりと盗み見る。

ヴォイドがこちらを見てくれるような気配は一切ない。

どうせこちらを見たら目を逸らしてしまうくせに、華はこっちを見てくれないかなぁと念を送った。

それに気がついた杏が少しニヤリとしながら華の方を見る。

華はその視線に気がつくことのないまま、本とヴォイドを交互に見つめた。






次の日、久しぶりに恵がヴォイドの部屋を訪れた。

笑顔の多い恵にしては珍しく、とても神妙な面持ちだった。

それ以外にも違和感を感じた華。

それは杏の一言ですぐに判明した。


「いらっしゃい。久しぶりだね。あれ?今日は楓ちゃんは?」


──ああ、そうか、ここ最近いつも一緒だったのに、今日は楓ちゃんがいないから違和感あったのか。


杏の言葉に、恵は頭を下げた。

驚く華と杏に、恵はここ最近の出来事、楓について話してくれた。

どうやら、楓はサミュエルと共謀していたらしい。

ヴォイドの部屋の間取りを教えてたり、ヴォイドが不在にする時間、杏が不在にする時間もサミュエルに伝えていたとか。

手紙を書いて、華の部屋に置いていたのも楓だったらしい。

サミュエルが魔王様に尋問を受けた時に、全て吐いたそうだ。


「それで今、楓ちゃんは?」

「魔王様に連れていかれた……。どうなるのかは分からなくて……。楓ちゃんがほんとにそんなことする人なのか未だに信じられなくて、私もどうしたらいいか……。」


恵には申し訳ないが、華は妙に納得してしまった。

楓ならそんなことをしていてもおかしくないと、そう思えるぐらいに、華は楓から敵対心を感じていた。

華は恵のことは好きだったが、楓のことは苦手だった。

だから最近2人のことを避けてたし、今こうやって楓なしで恵に会えて嬉しい気持ちになってしまっていた。

それでも……。


「楓ちゃんも、サミュエルに操られてたって可能性はない?チップを埋め込まれた形跡があるとか、そもそも2人はいつ出会ったんだろう?」


本心から、そんな言葉が出た。

むしろ、操られていて欲しかった。

楓が華を嫌いな理由が、楓自身から来るものではなくて、第三者に植え付けられたものであって欲しいと願ったのだ。


「ううん。チップとかは埋め込まれていないみたい。それ無しで洗脳されてた可能性はあるんだけど……。」

「じゃあほんとに楓ちゃんが悪い人かどうかは分からないじゃん!今からでも魔王様のところに行って、事情説明して、処罰?とか軽くなるようお願いしようよ。」


華の言葉に恵は軽く頭を抱えた。


「華ちゃんがそう言ってくれるなら……って言いたいところなんだけど……。ごめん、私も上手く言えないんだけど、なんかそれで許しちゃうのは違う気がしてて……。華ちゃんがされたことを考えると、ちゃんと反省して欲しい気持ちがある。けど楓ちゃんが悪い人でっていうのもまだ決め付けられなくて……。ごめん」


まだ自身の中で整理がつけられていないのであろう。

恵は見るからに狼狽えていた。

それを見た杏が温かいお茶を入れて、恵に手渡す。

結局その日は上手く意見がまとまらず、また明日以降に考えることにした。

ヴォイドから魔王様に時間が欲しいと伝えてもらう。


1人にしておけないと思い、恵には今日はヴォイドの部屋に泊まってもらうことにした。

杏と華のベットをくっつけて、隙間に布団を敷き詰め、段差を感じさせないようにする。

そうしてできた大きいベットに、3人で身を寄せあった。

不謹慎かもしれないが、華はパジャマパーティーみたいで少し楽しくなってしまった。

もちろん、恋について語り合ったりなんてことはなく、3人でたわいも無い話をしていただけだった。

それが3人にとってはいい気晴らしになる。

華は疲れからか、そうそうに眠りについた。

眠ってしまった華に杏と恵は布団をかけてあげた。


「杏さん」

「ん?何?」


恵が小声で話しかける。

杏も同様に小声で返事をした。


「ここ最近、色々と気遣ってくれてありがとうございました。私、自分のことしか見えてなかった。幸せだなぁなんて呑気に毎日を過ごしてた。友達が苦しんでることにも気が付けなくて。好きな人ばっかり目に入ってた。皆に優しくしたい気持ちや、好きな人に振り向いて欲しい気持ちは変わらないけど、それで大切な人のSOSに気付けなくなるなんて嫌だ。……私、変わりたい。」

「うん。……その変わりたいって気持ちがあるのなら、恵ちゃんなら大丈夫だと思う。私になにか手伝えることがあれば遠慮なく言ってね。」

「ありがとう。なんかやっぱり、杏さんって……ううん、やっぱりなんでもない!私ちょっと御手洗に行ってきます!」


恵は立ち上がり部屋を出ていく。

杏はその後ろ姿を見送って、布団の中へと潜った。

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