22.推しの好きな食べ物②
「コーヒー!?」
恵が華の心の中の声とリンクするように叫んだ。
杏が声の大きさに驚きつつも、ヴォイド、華、恵の目を順に見る。
「うん、多分ね。」
華はテーブルに目を向ける。
今視界に映っているのは、私たち3人が作ったカレー3種。
ナン。
福神漬け。
サラダ。
水の入ったコップ。
口の中が辛くなった時のための牛乳。
コーヒー要素なんて全くなかった。
強いていえば食後にいつも通りコーヒーを淹れようかなと思っていたぐらい。
「華ちゃんと恵ちゃん、カレー作る時、何を材料にしてた?ちなみに私は市販の甘口カレー粉に人参、じゃがいも、玉ねぎ、そして隠し味にリンゴとはちみつ。」
「私は杏さんみたいに凝ったものは入れてなくて、普通に中辛と辛口のカレー粉を混ぜました……。」
「私は……」
先程隠し味は内緒と言っていた恵は、材料を聞かれてもごもごとする。
「コーヒーでしょ。」
言いながら杏は、キッチンの棚に並べてあるコーヒーの粉が入った瓶を手に掲げた。
「……そう。杏さんよく分かったね……。」
───コーヒー?なんでそんなに言い淀んでるの?確かに隠し味にコーヒーって聞いたことある気がする。
「だよね。ヴォイドさんがよく飲んでるコーヒーの粉がやけに減ってるなぁ。買い足さなきゃ。と思ったんだよね。やっぱりカレーに混ぜてたんだね。」
杏の名推理は続く。
「それで、ヴォイドさんがカレー食べてるところを観察してたら、恵ちゃんが作ったカレーを食べた時だけ若干表情が違うというか……。それで、あぁこのカレー、というか隠し味のコーヒーが好きなんだなって。」
珍しいことに、杏の言葉にヴォイドも耳を傾けている。
自身ですら気付いていなかったようだ。
「よくよく考えたらヴォイドさんいつもコーヒー飲んでるしね。他の幹部たちもよく飲んでるなら、ヴォイドさんがって言うより、魔族がコーヒーを好むのかもしれないけど。」
「ノアはコーヒー飲んでいるところあんまり見た事ないです。プロテインばっかり飲んでる。」
「あー、確かに。泊めてもらってた時もプロテインをよく片手に持ってたような。」
といった流れで、華は推しの好物を知ることができた。
美味しいコーヒーの入れ方を勉強しようかなぁなどと考えながら華は眠りにつく。
次の日目覚めると甘くていい香りが部屋に漂ってきていた。
華が時計を見ると既にお昼すぎ。
杏が寝ているはずの隣のベッドは、もぬけの殻だった。
華は慌てて布団から出て、リビングに向かう。
「あ、華ちゃんおはよ〜」
「おはよう、華ちゃん」
「2人ともおはよう!なんかめちゃくちゃ寝ちゃってた。とってもいい香りがするんだけど……」
「そう!お菓子作ったの!もうすぐ食べられるよ〜。華ちゃんも食べられそうならぜひ!」
華が、顔を洗って戻ってくると、既にダイニングテーブルにスイーツが並べられている。
スコーンやプリン、ケーキ、サンドイッチである。
それらはスリーティアーズに盛り付けられている。
これは所謂。
「アフタヌーンティ?」
「そう!ヌン活しよ!」
「朝から?」
「あははっ、もうお昼だよ、お寝坊さん。」
杏に言われて少し顔を赤くする華。
杏と恵に促されて、席に着いた。
驚くべきことに、華の斜め前にはヴォイドが座っている。
───すごい、最近ずっとご飯一緒に食べてくれてる。夢見たい。
華はヴォイドのことが直視できず、少し俯きがちになる。
それでも視界の端ではとらえ続けた。
「「「いただきまーす!」」」
「すごい、まだあったかい。美味しい〜!」
「ほんと、上手くできてよかった!」
華はスイーツを一口食べてすぐに気がついた。
このスイーツは全て材料にコーヒーが含まれている。
お菓子を作った理由が分かり、華はなんとも言えない複雑な気持ちになった。
「恵ちゃん、スイーツ作るの得意なんだね。ほんとにお店のものみたいに美味しい。」
「杏さんが手伝ってくれたから!華ちゃんも今度早起きした時は一緒に作ろうね!」
恵の屈託ない笑顔が華に向けられる。
うんと頷きながら華も笑顔を返したが、ぎこちなくなってないか不安だった。
視界の端でヴォイドの様子を伺う。
女子3人みたいにはしゃいではいないが、黙々とスイーツを口に運んでいるのを見る限り、お気に召したのだろう。
───スイーツに夢中になってる?推し可愛い。
ヴォイドの隣に座る恵の表情は本当に幸せそうで、輝いて見えた。
「ヴォイドさん、どうですか?美味しいです?自信作なんです!」
素敵な笑顔を今度はヴォイドに向けながら、恵は感想を聞いた。
「ああ。……おいしい。」
「「え︎︎゛っっっつつ!?」」
華と恵の叫び声が重なる。
杏は2人の声に驚いて目を見開いた。
華と恵は目を合わせる。
───ヴォイドが「おいしい」って言うなんて。
乙女ゲームの世界でそのようなワードをヴォイドが口にしたことはない。
新規レアボイスが聞けたと、2人は声に出さずに語り合っていた。
恵は嬉しさで上機嫌になり、より一層深めた笑みで残りのスイーツもどんどん平らげる。
そのみごとな食べっぷりと心からの嬉しさが滲み出た姿に、華はクラクラとした。




