第6話
美術館に予告状が届いた翌日。
その事が朝刊の一面を飾っていた。
美術館の前のカフェで男がコーヒーを飲みながら朝刊を読んでいた。
そこにもう一人の男がやって来て向かいの席に座る。
お冷とおしぼりを持って来た店員にコーヒーを頼んだ。
「朱雀様。
おはようございます」
「おはようございます。
鉤爪は朝刊を読みましたか?」
「ええ、読みました」
「では、これはどう思いますか?」
朱雀が読んでいた朝刊の一面を見せる。
「考えられませんね。
あの人が多い時間に突然予告状が現れるなんて」
「そうですね。
しかし、実際に起きた事です。
それを否定しても仕方ありません。
問題はどうやったかです」
「皆目検討もつきませんね」
「気配を消していたそうですよ」
「はい?」
朱雀の言葉に鉤爪は意味がわからず聞き返した。
「ただ気配を消していただけだそうです」
「まさか、冗談ですよね」
「それが冗談では無いようです」
朱雀はコーヒーに口をつける。
店員が鉤爪のコーヒーをもって来たので、店員が捌けるのを待って朱雀が続けた。
「横をすれ違っても、目の前を通っても気づかれない程気配を消して予告状を置いて帰る。
あなたには出来ますか?」
「無理ですね。
そんな事は不可能です」
「私もそう思います。
でもそれが現実」
「朱雀様のお言葉を疑って申し訳ありませんが、そんな情報をどこで?」
「剣聖ですよ。
若き剣聖エルザ・ノワールがそう言ってました。
彼女の魔眼を持ってしても、微かに見える蜃気楼のようだったと」
エルザ・ノワールの実力は鉤爪も良く知っていた。
その魔眼の力も。
だがそれを聞いてなお、鉤爪はやっと半信半疑になる。
「それがナイトメア・ルミナスの構成員だったと」
「いえ、そいつはナイトメアと名乗ったと」
「それが奴らのボスだったと」
「そのようですね」
「朱雀様。
これは雪辱を晴らす時です」
鉤爪は意気込んで朱雀に打診する。
前回王都の隠れ家を壊滅させられ、部下の大多数をやられた鉤爪はナイトメア・ルミナスに大きな憤りを感じていた。
「気持ちはわかります。
私も面白くはない」
「ならば――」
「しかし、相手の強さは未知数。
ましてや当日は騎士団でごった返しになっています。
私達は動けません」
「それはそうですが……」
「そう気を落とさなくてもいいですよ。
今度は私達が彼らを利用しましょう」
「と言いますと?」
「混乱に乗じて他の美術品を頂きましょう」
朱雀は鉤爪に微笑みかける。
朱雀の意図を理解した鉤爪は感心して頷いた。
「なるほど。
全ての罪を奴らに擦りつけるのですね」
「ええ。
それから騎士団との戦闘で消耗した奴らを叩く準備もしておいてください」
「もちろんです。
では俺はすぐに動けるように準備しております」
「ええ、嘴と右翼と左翼も招集します。
総力戦といきましょう」
朱雀は穏やかな口調ながらも闘志を燃やす。
彼も前回やられた事を快くは思っていない。
「では、お願いしますね」
鉤爪が喫茶店を後にする。
入れ替わるように初老の男が朱雀の前に座った。
「これはこれは玄武ではありませんか。
珍しいですね」
「昨日カジノがやられた」
玄武は挨拶も無しにいきなり忌々しそうに言った。
「それも一番大きな所だ。
客の預かり金も全部やられた。
だから、その穴埋めで大きな損失だ」
「それは困りましたね」
朱雀は本当に困ったように相槌を打つ。
昨日カナリアが潰したカジノはドーントレスの大きな収入源だったのだ。
「ナイトメア・ルミナスだ」
「どうして断定出来るのですか?」
「生き残った従業員の証言だ。
そいつはカナリアと名乗ったらしい。
タイニーもエミリーも奴らの仕業かもしれん」
玄武の中で怒りが沸々と湧き上がる。
圧倒的な権力を持つ彼にとって屈辱的な出来事だった。
「どうやら私達を本気で潰そうとしているようですね」
「ふざけやがって!」
「そう熱くなってはいけませんよ」
「お前もよく冷静でいられるな」
玄武は朝刊を指差して言った。
「予告状なんか出した足でカジノだぞ。
お前の正体がバレているんじゃないか?」
「確かにその可能性はありますね」
「どうするつもりだ」
「とりあえず騎士団にお任せですね。
そして疲労した所を叩きます」
「力を貸すぞ」
「珍しい。
相当応えたのですね」
朱雀が茶化すと玄武は大きな舌打ちをした。
「心配無用ですよ。
こちらも全戦力を投入します。
私自らも出るつもりです」
「それこそ珍しいではないか。
お前も実は相当応えているな」
「ええ。
不意打ちで拠点をやられてますからね。
やられっぱなしは性に合いません」
「生捕りにしたらこっちに回せ。
やられた奴の代わりになるように調教してやる」
「それはいいですね。
可能なら生捕りにしましょう」
二人は同時に席を立ち、喫茶店を後にする。
朱雀は美術館へと向かう。
「おはようございます」
美術館の受付の女性に挨拶をする。
女性は嬉しそうに挨拶を返した。
「館長。
おはようございます」
少しでも面白かったと思ったら下にある☆ ☆ ☆ ☆ ☆から、作品の応援をお願いします。
1つでも構いません。
ブックマークも頂けたら幸いです。
よろしくお願いします。




