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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
5章 悪党は仇なす者に容赦はしない
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第19-3話

酒場を後にした僕は夕食はいらないと伝えて、朝まで寝る事にした。


夜中ぐっすりと寝ていた僕の客室に侵入者が現れた。

特に敵意が無いから無視して寝続けよう。


その侵入者は静かに僕の寝ているベットまで来て布団を捲った。

そしてそのまま僕の上に跨るように乗った。


「起きて。

起きてヒカゲ」


侵入者は僕に呼びかけるけど無視する。

だって僕は今惰眠を貪るのに忙しい。


「ねぇ起きてってば」


体を揺らされても起きる気は無い。

用事なら明日にして欲しい。

僕は寝ているんだ。


「……起きてるでしょ」


寝てます。

余裕で寝てます。

諦めて帰った帰った。


「……起きないと思いっきり殴るわよ」


そう言って右の拳を大きく上に振りかぶる。


こいつ悪魔か?

普通寝てる人のお腹殴るか?


でもこいつならやりかねん。

こんな逃げ場の無い所で殴られたらたまったもんじゃない。


「おはようリリーナ。

どうしたのこんな夜更けに」


僕は諦めて返事した。

僕の上に乗っているリリーナは風呂上がりなのか、バスローブ姿だ。


「やっぱり起きてたじゃない!」


「うっ」


結局思いっきりお腹を殴られた。

なんて理不尽なんだ。


こいつは間違い無い。

悪魔だ。


「ねえ、なんで夕食来なかったのよ」


「お腹空いて無かったから」


「本当にそれだけ?」


「そうだよ」


「どっか体調が悪いとかじゃないよね?」


どうやら僕の事を心配しているらしい。

そんな子供じゃないんだから、一食抜いたぐらいで心配しなくても。


「いたって健康だよ。

君に殴られた所以外は」


「なら大丈夫ね」


いや大丈夫じゃないだろ。

と言おうと思ったけど、本当に安心したような雰囲気に何故か言いそびれた。


「あの後どうしたの?」


「あの後って」


「ヒカゲが私のお腹の傷を治してくれた後」


「はて?なんの事?」


僕はとりあえず惚ける。

あんな事忘れた方がいいに決まっている。


「なんで惚けるの?」


「夢でも見てたんじゃない?」


「夢?あれが夢な訳無いでしょ」


「現実と思う程怖い夢ってあるよね」


リリーナは僕をじっと見下ろす。

僕は目を逸らさずに見返す。


「どうでもいいけど、そろそろ降りてくれない?」


「いやよ」


そう言ってリリーナは徐にバスローブを脱いだ。

綺麗な下着姿のリリーナが月光を反射して浮かび上がる。


「ねえヒカゲ。

抱いてよ。

私汚されちゃったの。

私の初めてを上書きしてよ」


リリーナはブラジャーを外して片手で胸を隠してグッと顔を近づける。


整った顔がほんのり赤くなっている。

これはわざと作った顔では無く凄くエロい。


思わず襲ってしまいそうだ。


「別に犯されて無いだろ?

あいつらもまだ犯して無いって言ってたよ」


「チッ!」


リリーナは大きな舌打ちをして体を起こす。

そして――


「やっぱり惚けてたのね!」


「ぐはっ」


思いっきりお腹に拳を振り下ろした。


なんでこんなにも躊躇なくお腹を殴れるんだ?

普通もっと躊躇するだろ。


「どうして惚けるのよ!

なんで無かった事にしようとするのよ!

あんたはいつもいつも!

私に素直にお礼を言わせてくれないのよ!

なんでなんで!」


一言事に拳を振り下ろす。

その全てが僕のお腹にクリーンヒットする。


なんて事するんだこいつは。

悪魔だ。


さすがの僕も辛い。

だけど上に乗られているから逃げ場がない。


「痛い痛い。

わかった。

ごめんって。

悪かったから殴るのやめてよ」


ようやくリリーナの拳が止まる。

その目は涙目で僕を見下ろしていた。


泣きたいのはこっちの方だ。


「それであいつらはどうなったの?」


「もう君の前に現れる事は無いよ」


「どうなったって聞いてるの!」


リリーナはこれ見よがしに拳を振り上げる。


「待った待った」


「誤魔化さずに答えてよ!」


「わかったからその拳を下ろしてよ」


「素直に答えてくれる?」


「死んだよ」


「あなたが殺したの?」


「そうだよ」


「三人共」


「うん」


リリーナはゆっくりと拳を下に下ろす。

安心したのか、少し体の力が抜けた気がした。


「信じられるの?」


「もちろんよ。

だって本当なんでしょ?」


「うん」


「あなたは私の傷を治してくれた。

そんなあなたなら不思議じゃ無いわ。

もっと隠している事いっぱいあるんでしょ?」


「みんなには内緒だよ」


「ええ。

誰にも言わない。

絶対に」


「それと、そろそろどいてくれない」


「いやよ」


「せめてなにか着ようよ」


「いやよ」


「えー」


僕結構我慢してるんだよ。

下半身が反応しそうなんだよ。

一応僕も男なんだけどな……


「なによ。

気になるの?」


「そりゃ気になるよ。

僕も男だからね」


「女なら誰でもいいの?」


「そうは言ってない。

僕は美しい物しか興味無い」


「それは私が美しいって事でいいのよね?」


「君はいつでも美人じゃないか」


「ふーん。

そう思ってるんだ」


「そうだよ。

いつも言ってるだろ」


リリーナはまた顔を近づけてくる。

今度は両手が僕の顔の両サイドに置かれた。

当然隠していた胸が露わになり、上半身が月灯りに照らされてはっきり見えた。


「リリーナ、見えてるよ」


「見せてるのよ」


強めの口調と裏腹に顔は真っ赤に染まっている。


「良くないよ」


「そう言いながら目を逸らさないのね」


「吸い寄せられる美しさだよ」


「なんなら揉んでもいいわよ」


「さすがにそれはしない」


「あいつらに揉まれたわ」


「は?」


「それは好き勝手に。

だからヒカゲが上書きしてよ。

私がレインのキスを上書きしたみたいに」


リリーナは黙って真っ直ぐに僕を見下ろす。

その表情から本当か嘘か読み取れない。


「いいの?

そこまで言うなら揉むよ。

本当にそんなのでいいの?」


僕は悪党だから揉むとしたら容赦しないよ。

それは言えないけどね。


「……嘘よ。

あいつらは私に自分から犯されに来いって言ったからね。

あれ以外は本当に何もしなかった。

多分それも込みで犯されに来いって事だったのね」


次第にリリーナの体がガタガタ小刻みに震え出してくる。


「でも体を抑えつけられて、魔道具を刺されて、お腹を切り裂かれていく感覚がするの。

耐えられない程の痛み。

だけど耐えれてしまう。

ずっと痛みが続く」


「リリーナ、思い出さなくていいよ」


「あいつら一文字一文字読み上げていくの。

私の悲鳴よりも大きな声で。

あの言葉と下品な笑い声が永遠のように聞こえ続けるの」


「リリーナ。

言わなくていい」


「痛みと悔しさと悲しみと恥ずかしさが順番に込み上げてくる。

今思い出しても震えが止まらないの。

だからヒカゲ抱いてよ。

全て忘れさせてよ」


リリーナはいつの間にか泣きじゃくっていた。

止めどなく流れる涙が僕の顔に落ちる。

もうその相手がこの世にいないとわかっていても苦しみは消えないのだろう。


「リリーナ……

忘れさせてあげようか?

抱かないけど記憶は消せるよ」


「……あなたなら本当に出来そうね」


リリーナは涙を拭って小さく笑う。


「やっぱり抱いてはくれないのね」


「リリーナは僕なんかには勿体ないよ」


「私はあなたがいいのよ」


「昨日の事で気持ちが弱ってるだけだよ。

きっと時間が経てば――」


リリーナの唇が僕の口を塞ぐ。

完全な不意打ちに反応出来なかった。


いや、避けようと思えば出来たと思う。

だけど何故か避けてはいけない気がした。


しばらく時間が止まった。

リリーナは一向に離れない。


一体どれぐらいの時間が経ったのだろう?

やっと僕の口が自由になった。


リリーナの顔はこれでもかってぐらい真っ赤だ。


「いくら忘れっぽいあなたでも、今のは忘れられないでしょ?」


「そうだね。

今のインパクトは忘れられそうに無い」


そして僕の性欲もかなり限界が近い。


「記憶は消さなくていいわ。

だってあなたが抱きしめてくれた温もりも忘れてしまうから。

そのかわり、お願い聞いてくれる?」


「抱かないよ」


「ううん、今夜だけは一緒に寝ていい?」


「それは――」


僕が答える前にリリーナは横に転がって、僕の腕を枕にしてこっちを見る。


「いいとは言ってないよ」


「いいじゃない。

私達婚約してるんだから」


「婚約破棄するんじゃ無かったの?」


「誰よ?そんな事言ったの?」


「リリーナだよ」


「それこそ夢じゃないの?

夢で良かったわねダーリン」


「ダーリンって呼ぶな」


「いやよ。

あんまりグダグダ言うと学園でもダーリンって呼ぶわよ」


「……わかった。

二人きりの時だけね。

あと、なにか着てくれない?」


「いやよ。

あまりグダグダ言うと下も脱ぐわよ」


「……わがままだね」


すっかりいつもの理不尽なリリーナに戻っている。

でも彼女はこれでいいのかもしれない。

それがリリーナがリリーナらしく生きてるって事だから。


「そうよ。

私は腹黒で、わがままで、自分勝手なの」


「もっといっぱいあるよ」


「そうね。

あとは美しくて、可愛くて」


「いや利点の方じゃなくて……」


「それでいてヒカゲ・アークムを心の底から愛してる。

それが私、リリーナ・コドラよ」


あまりに自信たっぷりに言い切るリリーナに、僕は何も言えなくなってしまった。


「おやすみダーリン」


「うん、おやすみ」


「いつでも襲っていいからね」


「もう遅いから寝ようか」


リリーナはイタズラっぽく笑った後に目を瞑った。

程なくして小さく穏やかな寝息をたてた。


どうやら安眠出来ているようだ。


早くリリーナにいいお相手が出来るといいな。

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