第19-2話
とある酒場に僕は足を運んだ。
中では楽しそうに宴会が行われていた。
「今回は太っ腹だったな」
「そうだな。
田舎男爵の息子を一晩牢屋にぶち込むだけであの金額だもんな」
「更にこんな美人が揃った酒場まで貸切だぜ」
「ギャハハハハハ!!」
僕はバカ笑いする騎士の後ろから声をかける。
僕を冤罪で牢屋にぶち込んだ騎士だ。
「君達さ。
仮にも騎士だろ?
なにかおかしいと思わないわけ?」
「うおっ!
ビックリした!
なんだポンコツ息子じゃないか。
今日は貸切だぜ。
帰りな帰りな」
「君達はもう帰れないよ」
「はぁ?何を言って、グハッ!」
僕の右手が騎士の体を貫いて心臓を握りつぶした。
「いつもなら気にしないんだけどね。
今回は報復に来たよって、聞こえて無いか」
「貴様!」
『動くな』
僕に殴り掛かろうとした騎士はもちろん、他の騎士ももれなく動けなくする。
「君は調書書かずに居眠りしてたね」
「お前!こんな事して――」
「一生寝てなよ」
同じく心臓を抉り出して握り潰す。
「あと、1、2、3……8人か」
僕は一人一人確実に殺していく。
さっきまでの楽しそうな笑い声は阿鼻叫喚にと変わる。
そして最後の一人になった。
「君は部隊長だったね。
お世話になったね」
「おい!店の奴は何をしている!
ここに殺人鬼がいるぞ!
早く騎士団を呼べ!」
7人の店員が僕達の周りに集まってくる。
「早く!早く騎士団を――」
「ごめんね。
こんな事お願いして」
「気にする必要無いわ。
ナイトメア・ルミナスはあなたのギルドだから」
「どう言う事だ……」
部隊長が状況を理解出来ずに困惑している。
察しの悪い男だ。
こんなんで部隊長なんて出来るのだろうか?
「貸切なんておかしいと思わないと」
「まさか!?」
「そうだよ」
この酒場は僕がナイトメア・ルミナスのみんなにお願いして用意してもらった舞台。
もちろん貸切の招待も偽物。
「本当はじっくりお礼をしたい所だけど、時間が惜しいから楽に殺してあげるよ」
「何をバカな――」
最後まで言い切る前に首が床を転がった。
それを見届けたみんなは音も無く消える。
それと同時に酒場だった場所が空き家へと変わった。
少し待つとトレインが入って来た。
「遅いよ」
「そう言うなよ。
これでも王都から全速力で走って来たんだ。
君が誰にもバレずに来いって言うから」
トレインはかなり疲れた様子で床にへたり込む。
落ち着いて周りの惨劇を見たトレインら驚きの声をあげる。
「なんりゃこれ!」
「お願いがあるんだ」
「待て待て。
先にこの現場を説明しろよ!」
「こんな惨劇なんて良くある事だろ?」
「よくはねぇよ。
一体誰がこんな事を……」
「僕だよ」
「え?」
「僕が殺したの」
「これ全部?」
「そう」
「一人で?」
「そう」
トレインは何故か唖然とする。
僕と死体を何度も見比べる。
「なんで?」
「腹立ったから」
「はぁ!?」
「それでお願いなんだけど」
「ちょっと待て!
腹立ったぐらいでここまでするか!?」
「するよ。
僕なら。
それでお願いなんだけど」
「まさかとは思うけど……」
「偽装しといて」
「だよな〜」
トレインは大きなため息を吐いて肩を落とす。
死体を見て悩みだした。
「出来るでしょ?」
「出来なくは無いけど簡単じゃないな。
さて、死体をどう処理するかな?」
「死体が邪魔?」
「10体となると簡単にはなぁ」
「わかった」
僕は指を鳴らす。
すると死体から青紫色の炎が上がり一緒にして蒸発して、跡形も無くなった。
「え?え?はぁ!?
何したんだ!?」
「死体が邪魔だって言うから消した」
「マジかよ……」
「これで出来るよね?」
「あ、あぁ……」
なんか気のない返事だなぁ。
大丈夫かな?
まあ、ダメだったらその時はその時だな。
僕は事前に回収しておいた鉄仮面の破片を入れた袋をトレインに投げる。
それを受け取ったトレインは中をマジマジと観察した。
「これは?」
「トレインはケルベロスって知ってる?」
「確か……
東の方で最近有名になって来たギルドだと記憶してる。
なんか三人共鉄の仮面を被っていて顔が見えないとか」
「それがその鉄仮面の破片」
「は?」
「三種類入ってるでしょ」
「確かに入ってるけど……」
「三人共死んだよ」
「待った待った!
理解が追いつかない!」
トレインが混乱して喚きだす。
なにをそんなに騒ぐ事があるのだか?
「人が死ぬなんて良くある事だろ?」
「それはそうだ。
だけど何故死んだんだ?」
「僕が殺したから」
「なんで?」
「腹立ったから」
「またかよ!
腹立ったぐらいで殺すなよ!」
「ちなみに死体はもう無いよ」
「さっきみたいに消したのか!?」
「死体が無いなんて良くある事だろ?」
「ねぇよ!」
「それでもう一つお願いが――」
「話を進めるな!」
トレインは頭を抱えて呻き声をあげた。
でも、僕は無視して続ける。
「偽装しといて」
「そうなるよな〜」
「東のどこかで野垂れ死んだって事で」
「簡単に言うなよ」
「その破片を東の適当な所で捨てて来たらいいだけだろ?」
「俺に東まで行けって事か!?」
「他に誰が行くのさ」
「君と取引した事を後悔しそうだよ」
トレインは疲れ切った顔で袋の中の破片を確認している。
早く行けよと思ったけど、ちょっとぐらい休憩させてあげよう。
「トレイン」
「まだ何かあるのか?」
「僕はトレインは女好きだと思ってたよ」
「俺は自他共に認める女好きだ」
「でも僕は男だよ」
「知ってるさ」
トレインは呆れ顔でこっちを見る。
だけどその表情は若干強張っている。
「なんだ、てっきり僕の事を女だと勘違いしてるのかと思ったよ。
僕の事を調べてたから」
トレインの顔から呆れ顔が消えた。
「それで何かわかった?」
「……特に変わった事は何も」
トレインは観念したのか、素直に答える。
「そうなんだ。
ちなみに僕は知ってるよ、トレインの事。
トレインのスリーサイズとか、騎士団学校時代の成績とか、今までの女関係や、どんな出自だって事まで」
「……調べたのか?」
「お互い様でしょ?」
「結果は雲泥の差みたいだけどな」
トレインは悔しそうな声を漏らした。
僕は余裕の笑みを向ける。
僕達の間に沈黙が流れる。
その沈黙に耐えきれなかったのはトレインの方だった。
「君は一体何者なんだ?」
「トレインの調べた通りだよ。
田舎男爵のポンコツ息子」
「そんなんで納得できねぇよ」
「出来る出来ないじゃなくて、納得するんだよ」
「しなかったら?」
「どうもしないよ。
でも考えた方がいい。
なんで僕がトレインを呼んだのかを」
トレインは賢い。
だから僕の言葉の意味を瞬時に理解したはずだ。
その証拠にトレインは苦虫を噛み潰したよう顔をみせた。
「じゃあ任せたよ」
後はトレインがなんとかしてくれるだろう。
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