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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
5章 悪党は仇なす者に容赦はしない
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第18話

エミリーはふかふかのベットの上で目を覚ました。


「ここは?」


無駄な物が一切無い部屋。

殺風景ながらも寂しさを感じさせない綺麗な雰囲気の空間。


エミリーはベットから降りた。


床の冷たさが足の裏から直接感じられる。


「なんで何も着ていないの?」


エミリーは自分が全裸である事に今更ながら気がついた。


自分にかけられていたシーツを体に巻き付けて体を隠す。


朧気な記憶を順番に思い出していった。


「リリーナ様!」


最後の記憶はリリーナがケルベロスに襲われている所。

それを思い出して立ち上がる。


だけど今のエミリーにはどうしようも無い。


果たしてリリーナはどうなったのか?

あれからどれぐらいの時間が経ったのか?

確かめる術は彼女には無かった。


「起きたのね」


エミリーはビックリして後ろを振り返る。


彼女も腕にはかなりの自信があった。

だけど全く気が付かなかった。


「あなたは……もしかして!」


エミリーは声の主に見覚えがあった。


6年前に見た美しい剣の使い手。

当時よりも遥かに美しく成長しているが、見間違える事は無い。


「私はスミレ。

あなたに会うのは二回目ね」


「じゃあここは……」


「ここは裏ギルド『ナイトメア・ルミナス』の本部よ」


ナイトメアの名前もはっきりと覚えている。


あの時の衝撃は忘れられる物では無い。


二人の剣術がリリーナだけでなく、エミリーの成長にも大きく影響を与えている。


「リリーナ様は?

リリーナ様はどうなったのですか?」


「自分の事よりリリーナ・コドラの事の方が気になるのね」


「私の事よりリリーナ様は無事なのですか?」


「リリーナ・コドラは無事よ。

生きているし、何も奪われてはいないわ」


「本当ですか?」


「本当よ。

残念ながらあなたは私の言葉を信じるしか無いけどね」


スミレは淡々と答える。


エミリーはひとまず安心をした。

スミレの言う通り嘘の可能性はある。

だけど確かめる術が無い以上、その言葉に縋るしかなかった。


エミリーはようやく自分の事を考える余裕が出来た。


「私は何故ここに?」


「タイニーの依頼よ」


「タイニーの?」


「ええ。

タイニーの依頼はお館様と呼ばれる男から義妹の保護。

それと西区からの逃亡の護衛。

そして――」


「中央区まで逃げた後、タイニー自身の殺害ですね」


「ええ、そうよ」


エミリーは目を瞑ってタイニーに黙祷を捧げる。

スミレはそれを邪魔しないように見守った。


「タイニーは昔から私達の優しいお姉さんでした。

今回も私がお館様の意思に背くとわかっていたのですね。

そして、その時の為にあなた達に依頼した」


エミリーの目から一筋の涙が流れる。


「そう言うことね」


スミレは冷たく言い放つ。

スミレは同情も憐れみもしない。

ただ事実として受け入れた。


「それで私はどうなるのでしょうか?」


「あなたには二つの選択肢があるわ。

一つはここにペットとして飼われる道。

あなたは容姿が悪く無いから愛玩動物としては丁度いいわ。

あなたが大人しくペットでいる限りは快適な暮らしを保障してあげる」


「一生ここで大人しく暮らせと言うのですか?」


「一生では無いわね。

あなたへの脅威が無くなるまでね」


「それは一生ですね。

お館様の脅威が無くなる事なんてありませんから」


「そんな事無いわ。

遠く無い未来。

必ず無くなる」


「あなたはお館様の恐ろしさを知らないから――」


「サゴドン公爵」


「!?」


その名を聞いてエミリーは心底驚いた。


「フルネームはゴカイド・サゴドン。

中央区を納めるホロン王国で一番影響力のある公爵。

更に愛人達に産ませた子供に特殊訓練を施して、王国内の有力貴族の家に奉公人として忍び込ませている」


「そこまで調べているのですか!?」


「全てタイニーが残した資料の中にあったわ。

それが今回の報酬だから」


タイニーが死際に渡した鍵はサゴドン公爵に関する情報を入れた金庫の鍵だった。


タイニーがいつか義妹の命を守る為に集めていた資料だ。


「なら、お館様の恐ろしさはわかっているはずです。

今やお館様は王国全土に影響力があります。

王宮にだって――」


「だから何?」


スミレの何も気にしていない素振りにエミリーは戸惑いを感じる。


タイニーが本当に全ての情報を残しているのなら、恐ろしさを理解出来ないとは思えない。

それでもこの態度を取れると言うならそれは、相当の馬鹿か相当の自信があるかのどちらかだ。


「お館様に歯向かうと言う事は王国全てを敵に回すと言う事になるのですよ」


「そうね。

だけどそれがどうしたの?」


「!?」


「前に会った時に言ったでしょ?

私達は悪党よ。

王国全てが敵?

当たり前じゃない。

王国どころか、世界全てが敵よ」


スミレの言葉から冗談やからかいは一切無い。

本気で世界を敵に回す覚悟があった。


あまりのスケールの大きさにエミリーは言葉を失った。


「今回の一件は私達のマスターのナイトメアの逆鱗に触れた。

彼は珍しく私達に今回の黒幕を調べろと言ってきた。

私達は全力を持ってゴカイド・サゴドンの事を調べ上げる。

それを彼に報告した時、それはゴカイド・サゴドンの最後よ。

彼は決して容赦はしない。

そして私達も同じよ」


「お館様を甘く見てはいけない」


「甘く見てはいないわ。

権力は決して無視出来ない程の力よ。

だけど、どんなに強大な権力を持っていようと所詮は人間。

首を刎ねれば死ぬわ」


「それはそうですけど……」


あまりに簡単に言い切るスミレにエミリーは困惑した。

彼女は目の前のスミレが自分の知っている世界と違う所にいるような気がしてならない。


「そこでもう一つの道よ。

私達の構成員となってゴカイド・サゴドンと戦う道」


「そんな恐れ多い事……」


「別にどっちでもいいわよ。

ただ……」


「ただ?」


「あなたは一生愛玩動物のままね」


「え?」


「だってそうでしょ?

ゴカイド・サゴドンに飼われて、今度は私達に飼われる。

その後は誰に飼われる?

リリーナ・コドラ?

彼女なら飼ってくれるかもね。

でもそうやっていつまでも誰かに飼われ続けるの?

あなた自身が決断して抗わない限り何も変わらないわよ」


スミレの言葉がエミリーに重くのしかかる。


今まで抗うなんて事を考えた事が無かった。

だけど、ずっと心の中に罪悪感だけがあった。


「お館様に勝てるのですか?」


「勝つとか負けるとかでは無いわ。

私達は奪うのよ。

彼に仇なす悪党から全てを」


スミレの瞳には自信とかでは無く、ただやる事だけをやるという覚悟だけがあった。

その瞳にエミリーは憧れた。

ただただ自分には決して出来なかった覚悟に。


「私に抗う事が出来るのでしょうか?」


「さあね。

それはあなた次第。

でもあなたは既に二回抗っている。

そこにあなたの意志がどこまであったかわからない。

けれども、それが出来たあなたなら支配から抜け出す事が出来る。

少なくともタイニーはそう信じていたわ」


その言葉にエミリーの目から自然に涙が流れる。

その涙がエミリーを決意させるのに時間はかからなかった。


「私に抗う術を教えてくれませんか?」


「いいわよ。

まずは服を着なさい」


エミリーは服を探してキョロキョロする。

しかしどこにも見当たらない。


まずは服を生成することから始まった。

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