第16話
ツバキとスミレは再びぶつかっていた。
その力は互角のまま。
激しいぶつかり合いが繰り広げられていた。
「流石勇者ね。
まさか気力まで使えるなんて」
「気力?
なんだいそれは?」
「知らずに使いこなせているのね」
「残念ながら使いこなせているわけでは無いんだなこれが」
ツバキも気力を知らない。
ただ少しの間だけ身体強化出来る力程度の認識だ。
使い過ぎたらヒナタのようになる事をわかっていた。
「なんで君達はあれを守ってるんだい?
どう見ても人攫いじゃないか」
「それは依頼を受けたからよ」
「相手は悪党だよ」
「私達も悪党よ」
「なるほど、君達は悪党の味方をする裏ギルドって事だね」
「少し違うわ。
私達は悪党の味方をするわけではない。
私達の行動原理は一つ。
ギルドマスターであるナイトメアの美学」
「美学ね。
私には理解し難いよ」
「あなたには理解出来ないわ。
でもそれでいいのよ。
あなた達の方が絶対に正しいから」
「ならどいてくれないかな?」
「そうね。
そろそろいいかしら」
スミレはツバキから離れる。
ツバキも深追いをしない。
馬の走り去った方を見た。
まだ小さいながらの馬の姿が見えた。
しかし、ツバキは唇を噛み締めた。
その姿は西区と中央区の領地間の関所を通過する所だった。
今から行っても関所で足止めをくらう。
そうなったら追いつく事は不可能だ。
「あの状態で関所を通過出来るって事は、君達は中央区に伝手があるんだね」
「私達ではなく依頼人ね」
「あの子はどうなるのかい?」
「あなたが知る必要は無いわ」
「あの子は君達の美学だと酷い目に遭うのかな?」
「さあね。
どんな未来が待っていようとも、そこで何を感じ、どうするかは彼女次第よ」
「つまり死ぬ事は無いんだね」
「貴方とはまた相見える時があるわ」
スミレはそれだけ言うと、夜の闇に溶けるように消えた。
そこで、ようやくシンシアがツバキに追いついた。
「師匠。
エミリーさんは?」
「すまない。
逃してしまった」
「そんな……」
「あの子の行方は私が追い続けるよ。
それより、お友達は放ってきたのか?」
「ヒナタなら大丈夫です。
きっと今頃迎えが来てますから」
◇
中央区の領地に逃げ込んだタイニーはしばらく馬を走らせた所で止まった。
そこは綺麗な川が流れており、馬は水を飲んで疲れを癒していた。
「もう、ここらへんでいいニャ」
「そうですね。
ここまで逃げたら西の人達に迷惑はかけませんね」
タイニーはエミリーをヨモギに預ける。
それから馬を撫でて優しく語りかける。
「あなたも良く走ってくれましたね」
そこにスミレが合流して話かけた。
「本当にいいのね」
「はい。
報酬の物はこれです」
タイニーは鍵をスミレに渡す。
それを受け取ったスミレは剣を生成した。
「エミリーをよろしくお願いします」
「ええ。
お館様がどんな相手であろうとも、手を出させないわ」
「お館様の正体も報酬の中に入っています」
「貴方も保護出来るわよ。
それぐらいの報酬は貰っているわ」
スミレの言葉にタイニーは首を横に振った。
「私はもう手遅れです。
お館様を裏切る事は出来ません。
もう私は完全に支配されています。
でもエミリーは違います。
彼女は自分の意思で親方様の命令に背けた。
きっと支配から逃れて自由に生きられるはず。
それまでどうかエミリーを、いや義妹をよろしくお願いします」
タイニーは全てを悟っていた。
裏切ろうと思っただけで体は震え、恐怖に支配される。
その恐怖に打ち勝つ所か逆らう勇気すら無かった。
「私達はね、自らの命を捨てる物は愚か者と呼ぶわ。
それが義妹達を守る為だとしても」
「ええ、私は愚か者ですよ。
義妹達の幸せを願いつつも、その為の最善の方法を選べない愚か者」
「私達は否定もしないし、同情もしない。
でも願っていてあげる。
せめて安らかな夢を見れる事を」
スミレは素早く剣を振った。
タイニーは痛みも苦しみも感じる事無く絶命し、跡形も無く紫色の炎に包まれて消滅した。
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