第15話
西都から王都に向かう街道を大型馬車が爆走していた。
それを引っ張る馬を巧みに操縦しているのはタイニーだ。
荷物は殆ど乗っておらず、運転しているタイニーの横でエミリーが眠っている。
その両手両足は拘束されていた。
「本当に馬鹿な子。
お館様の命令に背くなんて」
タイニーはしみじみと呟く。
昨晩の事。
リリーナの決闘の場を二人は隠れて見ていた。
当然決闘の結果も見ていた。
そしてその後リリーナが襲われる所も。
その残酷な光景にエミリーは耐え切れずに助けに入ろうとした所をタイニーに気絶させられたのだ。
それはお館様からの試験だった。
エミリーが命令に背かずに最後まで見届ける事が出来るか。
その試験に合格出来なかったエミリーはタイニーによってお館様の所に運ばれていく。
「監視対象に情なんか抱くから。
何も考えず命令だけ聞いていたらよかったのに」
命令に背いた者の末路を数多く見て来ていたタイニーには、エミリーがこれからどうなるかわかっていた。
でもタイニー自身にそれを止める手立ても度胸も無かった。
ただ命令に従ってエミリーを運ぶだけだ。
例えそれが不本意だったとしても。
その馬車の前に急にヒナタ達が現れる。
タイニーは慌てて手綱を引いて馬を止めた。
「エミリーさんを放しなさい!」
ヒナタの言葉にタイニーは怯む。
何故?
この三人が?
タイニーの中で疑問が広がる。
しかし答えなど出るはずが無い。
「さあ、早く!」
ヒナタ達が剣を抜いた。
タイニーは自分では太刀打ち出来る相手では無い事を分かっている。
1番恐れていた不足の事態。
だが、この為にタイニーは手を打っていた。
タイニーは馬を思いっきり走らせて突進させる。
その時馬車の屋形からヒナタ達が未だかつて感じた事の無い様な殺気が放たれた。
「マズイ!」
その殺気にあてられて萎縮してしまったヒナタとシンシアをツバキが抱えて大きく距離をとった。
「あっ!待て!」
ヒナタ達は殺気の正体がわからないが馬車を追いかける。
三人が屋形の上に飛び乗ると、屋形は内側から横真っ二つに蹴られて、上半分が後ろにスライドする。
三人は再び飛んで残った屋形に移り剣を構えた。
「さっきの殺気は君?
どんな怪物かと思ったけど……
まさかこんな可愛らしい女の子なんてね」
「私もあなたが来るとは思っていなかったわ。
勇者ツバキ」
「いかにも私はツバキだ。
君の名前も教えて欲しいね」
「ナイトメア・ルミナス第一色、寛容のスミレ」
スミレは剣を生成して三人と対峙する。
ツバキは剣を構えたまま出方を伺った。
少しの沈黙ののちツバキが動いた。
それに合わせてスミレも動く。
両者の剣が交わる。
いくつもの攻防が繰り返されていく。
両者の剣は均衡を保っていた。
その両脇をヒナタとシンシアがすり抜ける。
狙いはタイニーだ。
タイニーはエミリーを抱えて馬へと跳び移る。
ヒナタ達も追いかける様に跳んだ。
「ここまでニャ」
その間にヨモギが現れて二人の剣を両手の爪で受け止めて押し返す。
元の位置に二人が着地したと同時にヨモギは馬との連結を切り離した。
重荷が減った馬のスピードが更に上がる。
馬と馬車の距離が離れていく。
スミレは大きく宙返りをしてヨモギの横まで下がる。
ヒナタ達三人は馬車から飛び降りて馬を追った。
「これはたまげたな」
ツバキは馬の後ろをこっちを向いたまま飛んでいる二人を見て、素直に驚きを表した。
三人は走って追いかけるが馬の方が早い。
少しずつだが、確実に距離は離れていく。
ツバキはヒナタとシンシアを置いて行こうと思ったその時。
「絶対に逃がさない!」
ヒナタが叫んだと同時に体内を気力が巡った。
ヒナタは気力を知らない。
だから完全に無意識だった。
彼女のエミリーを助けると言う意思が気力を覚醒させた。
身体が強化されてスピードが一気に上がった。
一瞬にして馬との距離が縮んでいく。
「何あれ?」
「愛弟子。
後からおいで」
ツバキも気力で身体強化してスピードを上げる。
ヨモギが迎え打とうと前に出るも、ヒナタはそれを躱して前へと進む。
ヒナタの剣がタイニーの背中に迫る。
その剣はスミレによって受け止められてしまった。
「やはりあの人の言う通り。
私達は正義には勝てない」
「どけー!」
ヒナタがスミレを弾こうと力を込める。
しかし逆にヒナタの全身から力が抜けていく。
「なんで?」
「オーバーワークね。
もう体が限界なのよ」
スミレは軽くヒナタを弾き返す。
受け身も取れないヒナタをツバキが受け止めた。
「ヒナタ!」
「愛弟子。
お友達を見てやってくれ」
ツバキはヒナタをシンシアに預けて馬を追った。
「ヒナタ大丈夫?」
シンシアはヒナタを近くの木にもたれ掛からせる。
「シンシア行って」
ヒナタは息を切らせながらもシンシアに先を急がせる。
「でも……」
「いいから早く!
エミリーさんを助けて」
「わかった。
ここに大人しくしててよ」
シンシアは後ろ髪をひかれながらもツバキの後を追った。
その背中が見えなくなるとヒナタの両目から大粒の涙が流れた。
「うぐっ、どうして?
もう少し、うぐっ、もう少しだったのに……」
静かな林にヒナタの泣き声が染み込んでいった。
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