第5話
僕は頑張った。
途轍も無く我慢した。
僕は自分を褒めながらアンヌの部屋を後にする。
アンヌをベットに寝かせてすぐに退散するつもりだったのに、まさかその直前に起きるとは。
そして着替えさせてとおねだりされてしまった。
もちろん断ろうと思ったさ。
でも甘えたモードのアンヌのお願いを無視出来るはずもない。
しっかりと着替えさせて、寝付くまで一緒にいましたとさ。
それでも我慢した僕はやっぱり偉い。
何回か着替え中に突撃しといてよかった。
下着姿を見慣れて無かったらヤバかった。
寝よう。
今日は部屋に戻って速攻寝よう。
僕は勢いよく自分の部屋の扉を開ける。
「主、おかえりー」
ソラが幼女姿でペットの上でゴロゴロしていた。
「……ただいま」
「今の間なに?」
「なんでもない」
忘れてた。
完全に忘れてたよ。
当然食べ物なんて貰って来ていない。
「そういや、伝言聞いて無かったね」
僕は全力で誤魔化す事にした。
今日はもう何処にも行かずに寝たい。
「伝言って?」
「なんか伝言があるから僕に会いに来たんだろ?」
「無いよ。
だって私休暇中だもん」
ナイトメア・ルミナスには休暇があるのか。
結構ホワイトでやってるんだね。
「ならなんでここに?」
「主に会いにだよ」
「わざわざ」
「だってこうでもしないと主と会えないもん。
仕事の連絡係はいつもジャンケンで決めるし。
最近全然主の血飲んで無いし」
そうか。
ソラはジャンケン強いんだ。
何か決める時はジャンケン以外にしよう。
「それより主。
お腹空いた。
食べ物は?」
「やっぱり覚えてた?」
「……もしかして主忘れた?」
「明日じゃダメ?」
「いやだー!
お腹空いたー!
ちゃんと大人しく待ってたのにー!」
ソラがベットの上で暴れ出す。
これはマズイ。
こんな夜中だと周りに響くじゃないか。
「待って待って。
とにかく落ち着いて」
「お腹空いたのー!
空いた!空いた!空いたー!
もう我慢出来ないー!!」
「わかったわかった。
僕の血あげるから」
「本当!?」
ソラは瞳を輝かせてピタリと止まった。
とりあえず周りには気付かれて無いようだ。
「その代わり大人しく出来る?」
「出来る出来る。
早くちょうだい」
「はいはい」
僕はベットに近づいていく。
するとソラが僕をベットに押し倒して馬乗りになる。
もう目が捕食者そのものだ。
完全に僕を食糧として見ている。
「いただきまーす」
そのまま覆い被さるように僕の首元に齧り付く。
血が吸われる感覚がする。
この感覚はなんとなく気持ちがいい。
そのまま寝てしまいそう。
でもそういう訳にはいかない。
本当の戦いはここからなのだから。
ソラが徐々に成長していく。
吸い終わって起き上がる頃にはすっかり妖艶な姿になっていた。
その代わり服は着ていない。
そして顔は火照り目はトロンとしている。
ああ、やっぱりこうなったか。
「大人しくするって言ったよね?」
「激しくしないからやっていい?」
「ダメ」
「でも主もやりたいでしょ?
そんな味がした」
ヴァンパイアは血の味で相手の状態がわかるらしい。
つまり僕が今性欲が溜まってる事もバレバレ。
仕方ないじゃん。
僕は超絶可愛いアンヌの誘惑を我慢して来たばかりなんだ。
今だってソラの体を見て我慢するのに必死なんだ。
「主、私はもう我慢出来ない」
僕はソラの顔を持って首元に齧り付かせる。
ソラはそのまま血を吸い始めた。
このまま寝落ちするまで吸わせ続けよう。
あとは僕の理性だな。
◇
結局一睡も出来ないまま朝を迎えた。
僕は我慢出来た。
さすが僕だ。
ソラは僕に齧り付いたまま寝ている。
そっとソラを剥がしてベットから立ち上がる。
朝日が眩しい。
空気が綺麗だと太陽も綺麗に見える。
「おはよう主」
「おはよう」
ソラが目を擦りながら欠伸をしている。
すっかり酔いは醒めたようでよかった。
無防備な姿に僕の欲求は高まる一方だけど。
「服着ないの?」
そう、ソラは全裸のままだ。
色白い肌が日光を反射して艶を増している。
出会った頃に日光に当たっても大丈夫なのかと聞いたら不思議な顔をされた。
そして日光当たったぐらいで死んでたら絶滅してるよって大笑いされた。
言われてみればそうかもしれない。
「まだ寝るからいい」
なるほど、寝る時は全裸なのか。
そういやスミレもそうだったな。
「主も一緒に寝る?」
「いや、僕はご飯食べに行くよ」
もう限界だからね。
とりあえず食欲を満たして少しでも解消する。
あとは外でも走るか。
「なら主の所で寝る」
そう言ってソラは僕の影へとダイブして消えた。
いつ見ても圧巻だ。
全くもってどうやっているか理解できない。
いつか会得したいものだ。
僕は急いで食堂に向かう。
朝一番だけあって誰もいない。
「おはよう少年。
早いじゃないか。
早起きとは感心感心」
そう思ったらツバキが朝食をとっていた。
また酒を飲んでいる。
いや、まだと言った方がいいか?
「おはよう。
まだ飲んでたの?」
「もう歳でね。
水分が無いと食事が喉に詰まる事があるのだよ」
20代前半の見た目と反して年寄りくさい事を言っている。
「普通に水で良くない?」
「水と酒と何が違うのかい?」
「……変わらないね」
これはなにを言っても無駄だ。
一緒だって事にしておこう。
僕は運ばれて来た料理をがっつく。
「いい食べっぷりだね」
「お腹が空いてるんだ。
おかわり」
「それはあれかい?
アンヌを食べちゃたからかい?」
「食べてないよ」
「それは勿体ない。
せっかくのチャンスだったのに」
「僕も勿体ないとは思う」
「意気地なしだね」
「良く我慢したって言って欲しいね」
僕は運ばれて来たおかわりをがっつく。
自然豊かな食材ばかりでどれも美味しい。
二杯目は味わう余裕があって良かった。
「きっと今からでも遅く無い。
行っておいでよ」
「そう言われると悩ましいな」
「行っちゃえ行っちゃえ。
あら、手遅れだったみたいだ」
「ツバキさん。
ヒカゲ君に変な事吹き込まないでください」
起きて来たアンヌがツバキに文句を言ってから僕の隣に座る。
まだほのかに柑橘系の甘い匂いがしていた。
「おはようアンヌ」
「おはようヒカゲ君。
それでその……」
アンヌが僕の耳元に顔を近づけて囁く。
「昨日の事は忘れてください」
「覚えてるの?」
アンヌは返事の代わりにボッと音が聞こえそうな程一気に顔を赤く染める。
悪いけど忘れるつもりは無い。
あんな可愛いアンヌを忘れるなんて勿体ない。
忘れっぽい僕でも忘れないね。
「キャハハハハ。
アンヌは記憶に残る方か。
良かったな少年我慢して」
「全くだよ。
危うく朝から土下座だったよ」
「アンヌ、今夜も一緒に飲もう」
「飲みません」
「なんでだよ〜
昨日あんなに楽しく飲んだじゃないか〜」
「それはそうですが……」
アンヌが顔を赤らめたまま俯く。
なんかこのまま押し切られるてしまいそうな雰囲気だ。
「少年も一緒に飲もうよ〜
今晩もアンヌお持ち帰りしていいからさ〜」
「また悶々とした夜になっちゃうよ」
「今夜はやっちゃえばいいじゃん」
「ツバキさん!?
なんて事言うんですか!」
「そうだよ。
アンヌは記憶飛ばないんだよ」
「記憶があるかどうかではありません!」
「考えてみたまえ少年。
記憶があるって事は、明日は恥ずかしさで悶えるアンヌが見れると言う事だよ。
それと夜の乱れる姿のギャップを楽しめる」
「だから!ヒカゲ君に変な事吹き込まないでください!!」
アンヌはそれはもう顔どころか全身真っ赤にしてツバキに叫ぶ。
そんな事なんて気にせずにツバキは酒を飲んで笑っている。
「確かにそれを想像するととても萌える」
「ダメです!
想像してはいけません!」
「随分楽しそうな話をしているわねダーリン」
僕の後ろから聞こえるはずの無い声が聞こえる。
ちょっと前から気配はしてたんだ。
だけどこんな所にいるはず無いからね。
気のせい気のせい。
「なんで無視をするのかな?
ダーリン」
リリーナが僕の後ろから抱きつく。
残念ながら気のせいでは無かったらしい。
「なんでここにいるの?
あとダーリンって呼ぶな」
「ダーリンを迎えに来たからよ。
それで、とても楽しいお話してたわね?
私も混ぜてくれるわよね?」
リリーナは誰にも見えない所を思いっきり僕をつねっていた。
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