第16話
結界を出たナイトメアをルリが出迎えた。
その瞳には憧れと崇拝が色濃く映し出されていた。
「お見事ですマスター」
「ああ、ルリも力の使い方に一段と磨きがかかっているな」
「ありがとうございます。
マスターにお褒め頂けるなんて光栄の極みです」
「ルリ。
あとは任せていいか?」
「はい。
お任せください」
ルリは死体を全て魔力蒸発させて処分する。
それから闇と共に消えた。
ナイトメアは再びレインの元まで歩いていく。
「ナイトメアさん。
2度も助けて頂きありがとうございます。
今とても見れられるような顔でないので、このままでお願いします」
涙声でレインは背中越しにナイトメアに感謝の気持ちを述べる。
「構わないからこっちを向け」
「しかし……」
「いいからこっちを見ろ」
横暴ながらもどこか優しい声。
その声にレインは渋々振り返る。
レインの言う通りその顔は泣き腫らしていて、とても人に魅せられるような顔では無かった。
だがナイトメアはそれを気にせずに続けた。
「これがお前の誤ちの結果だ」
「はい……
わかっています。
他の誰でも無く、私の誤ち」
「だが、お前の思いには決して誤ちは無い」
「そう言ってくださるのですね」
「この誤ちは決して無駄にはならない」
「はい、決して無駄にしてはいけません」
ナイトメアはゆっくりと屈んで、レインの頭の上に優しく手を乗せる。
「お前は良く頑張った」
ナイトメアの優しい声と心地よい力の波の音がレインの涙腺を再び決壊させた。
レインは堪え切れずにナイトメアの胸に飛び込んで、幼い子供のように大声で泣きじゃくる。
幼き頃、自らの信念を持って実の父親と闘う道を選んだレイン。
あの日の勇気の代償に視力を失った。
それでも彼女は信念を貫き通して来た。
その為に彼女は涙を捨てた。
どんなに辛くても泣くのを辞めたはずだったはずなのに、今全てが戻って来たみたいに泣き続けた。
「お前に問う。
まだ進み続けるか?」
少し落ちついて来たレインにナイトメアは問う。
「進みます。
生きて闘い続けます。
それがどんなに過酷で残酷で理不尽だとしても。
それが私に出来る唯一の事だから」
レインは嗚咽で舌が回らないながらも、力強くはっきりと言い切った。
「そうか」
ナイトメアは短く言葉を切って少し間をおく。
「ならば光を見て進め。
その目で。
もう道を誤らないように」
ナイトメアの力の波が優しくレインを包む。
その波がレインの悲しみを少し緩和していく。
そしてレインは自らの変化に気付いて顔をあげた。
「そんな……
まさか」
その瞳には帽子の影から覗くナイトメアの白い仮面がはっきりと映し出された。
「見えてる。
ナイトメアさん。
あなたの顔がはっきりと」
「言っただろ。
俺はナイトメア。
今宵、悪夢へ誘う者」
ナイトメアは優しくレインを引き剥がしてゆっくりと立ち上がる。
「此度の事は俺が誘った悪夢。
そして悪夢はいつか必ず醒める。
どんなに恐ろしく悲しい悪夢でも所詮夢なのだから」
「レインお嬢様。
ご無事で何よりです」
レインは長年聞き馴染んだ声に慌てて振り向く。
聞き間違うはずのない声の主。
最後に見た時よりもすっかり老けてしまった見覚えのある顔。
無傷のガイアがそこには立っていた。
「ガイア……
どうして?」
「私にも何がなんやら……
ですが、まだお嬢様にお側にいれるようです」
「これもあなたが――」
再び振り返った時にはナイトメアは消えていた。
本当に夢だったかのように。
だけどレインの耳にだけは、はっきりとナイトメアの声が聞こえた。
「次は夢では無く未来を見ろ。
お前が望む誰もが笑っていられる明るい未来を」
レインは今度は溢れ落ちそうな涙を堪えて、羽織っている紫のロングコートを強く抱きしめた。
「そしていつか、その未来で俺を消しに来い」
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