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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
4章 悪党は自分の都合しか考えない
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第15話

馬車の中からは衣服が乱暴に破かれる音とレインの悲鳴だけが聞こえてくる。


「早くしろよ。

後が詰まってるんだから」


馬車を男達が取り囲んで囃し立てる。


そんな男達を置いといて、毒と出血で意識が消えかけているガイアを見てエリアが言う。


「さて、あとはこいつね」


「こいつまだ立ってる。

まともに相手しなくて良かったね」


ケーシーがケラケラ笑いながら弓を引く。


「後何回刺したら倒れるか賭けてみようよ。

私は4回」


「では私は1回ですね」


ケーシーの背後から声が聞こえて、背中にステッキの先が当たる。


「え?」


振り返る前にステッキの先から放たれた魔力によって、ケーシーの体に風穴が開いた。


「はい、1回。

あら?失敗しました。

何を賭けるか決めてませんでした」


ケーシーの亡骸は馬車の上から自然落下して床へと落ちる。


「お初にお目にかかります。

ナイトメア・ルミナス第二色、謙虚のルリです。

以後お見知りおきする必要はありませんよ。

此度しかお会いしませんので」


状況が理解できていないエリア達にルリはシルクハットを脱いで優雅に挨拶をする。


「お前たち!

この女も相手してくれるってよ!」


我に帰ったエリアが男達を嗾けるが、ルリは余裕を崩さない。


「私に触れていいのはマスターのみですよ」


ルリの言葉と同時に馬車の内側から扉をぶち破って男が一人吹き飛ばされた。

その男はすでに絶命している。


その男だけでない。

馬車中に入った男たちも漏れなく絶命している。


その中からロングコートで体を隠したレインを、抱き抱えたナイトメアがゆっくりと降りてくる。


レインは幼き頃薄れていく意識の中で聞こえた魔力の波の音を聞いた。

その時よりも更に洗礼されて力強くも心地の良い音を感じた。


「ありがとうございます。

あなたがナイトメアですか?」


まだ消沈しているもレインが力なく尋ねる。


「そうだ。

俺はナイトメア。

今宵、悪夢へ誘う者」


両サイドからエリアとセイカの槍がナイトメアに迫る。

ナイトメアは姿を消し、次の瞬間にはガイアの前へ現れてレインをそっと下ろす。


レインはもつれる足でガイアの元へ近づいていく。


「ガイア。

ごめんなさい。

私が愚かなばっかりに」


「レイン……お嬢様……。

ご無事で……?」


「私は大丈夫。

またナイトメアが助けてくれた。

まだ何もされて無い」


「……良かった」


その言葉を最後に完全にガイアの意識は途切れる。


「ガイア……」


力なく言葉が漏れるレインの両目から大粒の涙が止めどなく流れた。


そこにエリアに命令されたならず者達が容赦無く迫る。


「ルリ」


「はい、マスター」


ルリが間に降り立ちステッキを地面に刺す。


『そこに直りなさい』


ルリの霊力がステッキの先から地面を伝ってならず者達に伝わり全員気をつけの状態で固まる。


「こんな馬鹿な事が……」


エリアはこの光景に絶句する。


まだナイトメアほど霊力を使いこなせないルリは、言葉だけでは相手を止める事は出来ない。


それでもエリアの知っている力とは雲泥の差があった。


「マスター申し訳ありません。

今までの報告に誤りがありました。

ギルド『カメレオン』は一流の暗殺者ではありません。

こいつらは組織が大きいだけで、暗殺者としては二流でした」


「それは聞き捨てならないわね!」


エリアの言葉をルリは無視して続ける。


「暗殺相手を痛ぶって楽しむのは二流、一流は相手に気付かれる事無く殺す。

そして超一流の私の手にかかれば」


『止まりなさい』


ルリの霊力によりエリアとセイカ以外の全員の心臓が止まり絶命した。

まるで突然死したようだ。


「暗殺された証拠すら残しません」


ルリは大量の死体を前に、出番が終わり舞台を降りる時のような優雅な礼を見せた。


エリアとセイカは何が起きているのか理解出来ていない。

今まで暗殺により様々な死を演出して来た彼女達でも、こんなにあっさりと大量に殺す方法など知らなかった。


「マスター。

あの二人はどうなさいますか?」


ナイトメアは自らの誤ちを悔いて泣き崩れるレインの背中と、気力だけで立ち続けたガイアを交互に見る。


しかし何も言わずに振り返りエリアとセイカを見据える。


「俺がやろう」


いつもよりも一段と低い声を放ちルリよりも前へと出る。


「仰せのままに」


ルリは一歩下がってナイトメアを見送る。


一歩また一歩とゆっくり、だが確実にエリアとセイカの元へと歩いていく。


先に動いたのはセイカだった。


ナイトメアとの距離を一気に縮めると、目にも止まらぬスピードで槍を連続で繰り出す。


その全てが魔力の壁によりナイトメアには届かない。


「セイカ!チェンジ!」


セイカが横へと捌けると、間髪入れずに魔力で強化かされたエリアの槍がナイトメアを迫る。

だが、魔力の壁に阻まれる。


休む事無くセイカが後ろから首を狙って薙ぎ払われた槍も、同様に魔力の壁にぶつかり止まった。


その後も一切止まる事無く二人の槍がナイトメアを襲い続ける。


S級冒険者の二人のコンビネーションには一切の無駄がなく、一瞬たりとも攻撃が止まる事は無い。


ただ、棒立ちのナイトメアに掠る事すら一度も無い。


決して彼女達の攻撃が軽いわけではない。


その槍の全ては鋼鉄でも簡単に砕いてしまう程の一撃だ。


「そんな物か?」


ナイトメアが二人に問う。

二人は若干息が切れながらも決して攻めの手を緩めない。


「これ以上の攻撃手段がないなら一生やっても無駄だ」


二人共それは薄々わかっていた。

だが、この攻撃が止まった時。

それが自分達の敗北の時だともわかっていた。


ナイトメアは少し離れた所のケーシーの死体から矢を二本超能力で二人目掛けて飛ばす。


完全に死角からの矢は二人の太ももに刺さった。


「まさか!?」


「これは!?」


二人が気づいて時には遅い。

それはガイアを苦しめた麻痺毒の矢。


二人共体が硬直して動けなくなる。


「自らの毒の耐性すら無いのか?」


ナイトメアの呆れた声が二人に絶望を与えらる。


『痛みを知れ』


「「ア゛ァァァーー!!!」」


ナイトメアの言霊。

それが二人に届いた時、矢の刺さった所から激痛が走る。


魔力により二本の杭が生成されて、ナイトメアの近くの空中から二人を狙う。


ナイトメアは無言のままそれを飛ばして腕へと刺した。


「「――――――!!!」」


もはや言葉にならない悲鳴が響き渡る。


『寝るな』


痛みで意識が飛びそうだった二人を言霊が無理矢理覚醒させる。

もう二人は気絶する事すら許されない。


あまりの悲痛な悲鳴にレインは両耳を塞いだ。


「うるさいな。

もっと静かに出来ないのか?

周りに迷惑だ」


ナイトメア自分を中心に魔力の結界で二人を覆う。

防音されたこの結界の外には一切声が漏れない。


「これで思う存分悲鳴をあげれるぞ」


その二人の周りに無数の杭が生成されて、四方八方から鋭い先端が狙う。

これからどうなるか理解した二人の顔に絶望と恐怖が支配する。


「俺は二流暗殺者だからな」


杭が一本致命傷にならない所に刺さる。

二人の悲鳴が結界無いを埋め尽くす。


「だが、俺は人間を殺す方法を熟知している。

その逆も然りだ。

言っておくが今見えている物だけどで終わると思うなよ」


「嫌だ……頼むから殺して……」


二人はこの先に起きる事を理解して懇願した。

だが、その二人の言葉はナイトメアの耳には入らない。


「それでは命尽きるまで終わらない悪夢を」


ゆっくりとナイトメアは結界の外へと歩いていく。

二人を覆う杭は一本一本ゆっくりと深く各部位へと刺さっていく。


その杭は刺さると同時に傷口を塞ぎ、血が噴き出る事はない。

そしてナイトメアの言葉通り杭は次から次へと生成される。


「グッド・ナイト・メア」


二人の終わらない悪夢は、もう杭が刺さる所が無くなり、最後の杭が心臓を貫くまで続いた。

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