第9話
さあ、今宵もやってまいりました。
今日は一体どんな一発芸が見れるのでしょうか。
今日の僕は昼間に欲求不満を解消したから心に余裕がある。
心なしか今宵の星空は一段と綺麗に感じる。
心に余裕があると新しいアイデアが生まれる。
だから今晩は強い暗殺者を楽しみにするのはやめた。
広い心で一発芸を楽しみにする事にする。
それにしても今日は遅いな。
そろそろだと思うんだけど。
「こんばんはルリ。
今日はどうしたんだい?」
いつも通り屋根の上で寝転がっていると、頭の上にルリが立つ。
「こんばんはマスター。
今日も見つかってしまいました」
ルリが言葉と裏腹になんだか嬉しそうに言っている。
「ねえルリ」
僕はルリを見上げながら諭すように呼ぶ。
ルリはいつもの魔力で作った下がミニスカートのタキシードドレス。
つまりこのアングルは……
「なんでしょう」
「パンツ見えてるよ」
「はい。
今日はマスターをイメージした紫と白の縞パンです」
「いや、パンツの説明じゃなくて……」
スミレの時も思ったけど、この子達の羞恥心はどうなっているんだろうか?
「お気に召しませんでしたか?」
「凄くいい」
僕はキリッとしたイケメン顔で答える。
「ありがとうございます」
「でも、君みたいな美人がパンツを見せたら間違いを起こす男性がごまんといるから気をつけようね」
僕はパンツを穴が開くほど凝視しながら諭す。
「大丈夫です。
マスターにしかお見せしませんから」
おっとそう言う事か。
この子もハニートラップを仕掛けて来たんだな。
この綺麗な夜景に不意に見える下着。
エロスを駆り立てる完璧なシチュエーションだ。
でも非常に惜しかったね。
昼間性欲発散したんだ。
そうじゃなかったらルリみたいな美人相手だと理性を保てたか怪しかったけどね。
「お気に召したのならこのまま報告いたしますね」
ルリはパンツが良く見えるようにスカートを少したくし上げた。
ほうほう、仕掛けて来たね。
僕を見下ろす美人の顔もしっかり見えるアングル。
初めからこれを狙っての立ち位置だな。
「報告?」
僕はハニートラップに真っ向から迎え討つ為、一切目を離さない。
紳士なら目を逸らして「お嬢さん風邪ひきますよ」とか小粋な事言ってスカートを下ろしてあけるのだろうけど、僕は悪党だからね。
ハニートラップを避けつつも、しっかり美味しい所だけは堪能させて貰うのさ。
「はい。
先日ご報告にあがったギルド討伐依頼。
ほぼ完了いたしました」
「お疲れ様。
でも、ほぼって事はまだ残ってるって事だよね」
「はい。
ギルド『カメレオン』の全ての拠点を全滅したのですが、何人かのトップクラスの暗殺者はどの拠点にもいませんでした」
「つまり、もうこちらに向かっていると」
「その通りです。
ですので情報をマスターと共有しつつ、私がマスターのサポートして迎え討とうと思います」
「それは心強いよ。
よろしくね」
「はい。
この謙虚のルリ、及ばずながらお供いたします」
「その二つ名って誰が自分達で付けたの?」
それなら僕のも考えて欲しいな。
飛び切りカッコいいやつ。
「マスターに付けて頂きましたよ」
ルリが不思議そうに首を傾げる。
「……マスターって僕?」
「もちろんです。
私のマスターは初めてお会いした日から今まで、そして未来永劫マスターのみです」
どうしよう。
全然記憶に無い。
「マスター、どうかいたしましたか?」
「いや、なんでも無い」
うん、とりあえずこの事は金輪際触れないでおこう。
「それより、残りの一発芸人の情報は?」
「一発芸人?」
おっと、慌てて話題変えて誤魔化そうと思ったら間違えちゃった。
あながち間違いでも無いけどね。
「ごめんごめん。
こっちの話。
一発芸……じゃなくて暗殺者の情報を教えてよ」
「はい。
では一つずつ」
ルリは一枚の小さな肖像画を出して僕に見せる。
自分の顔とパンツが一切隠れないように見せて来るのが憎らしい。
「まずはキリカクレ。
名前の通り、魔力で濃い霧を発生させて視界を奪います。
こいつ自身はその魔力の動きで、霧の中の状況が手に取るようにわかるようです」
ん?なんかそのパターン知ってるぞ。
僕のそんな思いなど知る由もないルリが二枚目の肖像画を取り出した
「次にフウサ。
鎖鎌を使う女です。
変装が上手く、その場に溶け込んでターゲットに近づき暗殺します」
ん?ん?ん?
ちょっと待てよ。
「次はジランヤ。
大きな斧を振り回す巨漢ですが、実はかなり特殊な魔力の使い手です。
こいつは――」
「相手の五感を少しずつ奪っていくんだろ?」
「マスター良くご存知で」
「いやご存知と言うか……もう三人共殺りました」
「なんと!
流石がマスター!
この三人は長年トップを走り続けていた暗殺者です!
いくら探しても足取りを掴めないと思ったら、もうこの世にいなかったとは!
是非マスターの武勇伝を聞かせてください」
ルリは興奮して目を輝かせながら僕にせがんでくる。
期待させといて悪いけど、武勇伝ってほどの事はしていない。
「うーん。
また今度ね。
それより他の暗殺者は?」
とにかく今は煙にまいておく事にしよう。
「おっと失礼しました。
次はこの女、ハッコリ。
飛ぶ鳥を落とす勢いで名を上げている10代の暗殺者です。
毒ナイフと毒フォークを使って食事を文字通り最後の晩餐に変えてしまいます。
そのルックスが良く、暗殺者界のアイドルと言われています」
「暗殺者界にアイドルなんているの?
笑っちゃうね」
「そうですね。
私も初め聞いた時バカかと思いました」
「確かにアイドルって言われても納得できるルックスだったけどね」
「まさか!?」
「その子は犯りました」
「こいつも殺ってしまいましたか!
まあ、こんなぽっと出の小娘などマスターにかかれば悲鳴すら上げる前に跡形も無く殺られてしまうてしょう」
「悲鳴は上げて無いけど、可愛い喘ぎ声は上げていたな〜」
「へ?喘ぎ声ですか?」
「え?い、いや、なんでも無い。
そう、なんでも無いよ」
おっと危ない。
流石にうら若き女の子にバレるのは良くない気がする。
「これについてもいつか武勇伝を聞かせてくださいね」
「あはは。
また、そのうち、機会があればね」
絶対に言えない。
今思えば自分でも引くぐらい無茶苦茶に犯ったからね。
それはもう、薄い本が出来るほど。
なにせ久々だったからね。
一人で盛り上がっちゃって……
でも、反省も後悔もしてない。
だって僕は悪党だから。
欲望に忠実なのさ。
「もういない暗殺者の話は置いといて次いこう」
「次はありません」
「え?」
「もう暗殺者の情報はありません」
「つまり全滅完了したって事?」
「一応そう言う事になりますね」
えー、じゃあ今日は来ないのー。
つまんないー。
「ただ、これで依頼達成かと言うと微妙でして……」
「他に何かあるの?」
これはワンチャンあるのか?
僕期待しちゃうよ。
「実はギルド『カメレオン』のギルドマスターの消息が不明です」
「君達でも見つけられないんだ」
「言い訳みたいで申し訳ありませんが、元々カメレオンのギルドマスターは謎の人物なんです。
まるで存在して無いかのように全く情報が入ってきません」
「本当にいないんじゃない?」
「いえ。
カメレオンはお互いの暗殺が被らないでいて、尚且つ途切れる事無く暗殺者を送り込んでいくギルドです。
誰か統率者がいるはずです」
「なるほどね〜」
言われてみれば順番守って来てたもんな。
それに行く先々に先回りされてたし……
「そう言う事か」
「マスター!何かわかったんですか?」
僕の声が出たか出てないかわからない程度の呟きにルリが反応する。
この子は凄く耳がいいね。
「まあ、大体ね」
「これだけの情報で全て理解するなんて……
流石マスター、恐れ要ります」
「別に全てかどうかはわからないけど……
まあいいや。
とりあえず今日は来ないだろうから、一緒に星空でも堪能しようか」
「ご一緒させていただけるんですか!」
「そりゃ星空はみんなの物だからね」
「では、その……お願いがあるのですが……」
ここに来て恥ずかしそのに顔を赤らめるルリ。
パンツを見せ続けてるより恥ずかしいお願いってなんだろう?
「何かな?」
「お隣に行ってもいいですか?」
「え?隣?
別にいいけど」
あまりに大したことないお願いに拍子抜けだよ。
「ありがとうございます。
では失礼して」
ルリは僕の腕を枕にして隣に寝転がる。
「あの〜ルリ」
「なんでしょう?」
今日一の笑顔をこちらに向けたままルリが返事をする。
「なんでこっちを見てるの?
星空は上だよ?」
「はい大丈夫です。
マスターの瞳に映った星空を堪能しております」
「なるほど。
そういうのも風情があっていいね」
それは面白い星空鑑賞の方法だ。
また違った良さに気づけるもしれない。
今度機会があったらやってみよう。
「マスター、実は一つ奇妙な事が」
「どうしたの?」
「暗殺依頼をした奴らが一つだけ場違いのギルドに出入りしてました。
そのギルドが――」
「――でしょ?」
「やっぱり何でもお見通しですね」
「その件についてはまたお願いするね。
でも、今晩は星空を堪能しようよ」
「はい。
マスターの思いのままに」
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