第10話
親善大使滞在四日目。
今日は観光視察。
っと言ってもアークム領にはこれと言った観光スポットは無い。
でも豊かな自然は山ほどある。
今来ている巨大な緑地公園もその一つだ。
大自然の中で子供達が駆け回っているこの光景は正しく平和そのものだ。
「あ!ヒカゲだ!」
一人のガキが僕を見つけて指差を指す。
それを見た周りのガキどもと一緒に駆け寄って来て一瞬で僕は囲まれた。
「よお、ヒカゲ。
やっぱり学校クビになったのか?」
「私はヒカゲには無理だと思ったのよね」
「これでも持った方では無いかしら?」
「俺なんて1週間も持たないと思ってたぜ」
「私は行きすらしないと思ってたわ」
「そもそも合格した事が今でも嘘だと思ってる」
「それ言えてる」
「「「キャキャキャキャキャ!!!」」」
ガキどもが一斉に大笑いする。
なんて失礼なガキ共だ。
てか、後ろで見てる親共もニコニコしてないでちゃんと躾しろよ。
「でも大丈夫よ。
ヒカゲは私がお婿さんにもらってあげるから」
「ダメよ。
ヒカゲは私がお婿さんに貰うの」
「そこ喧嘩しない。
みんなでヒカゲはシェアしましょう」
勝手に僕をシェアしないでくれる?
「お兄ちゃんにはもう婚約者がいるからダメでーす」
ヒナタが話に割り込んでくる。
別に張り合わなくていいのに。
「ヒナタ様。
どうせヒカゲはフラれますよ」
「それは間違い無いと思います」
「残念でした。
お兄には第二夫人のシンシアもいまーす」
「こら!ヒナタ!
子供達に変な事吹き込まないの!」
突然の流れ弾にシンシアまでもが話に入ってくる。
「でもヒカゲ。
シンシア様は少し暴力的だよ」
「そうそう。
私達にシェアされたら、毎日優しくしてあげるわよ」
「俺たちも毎日遊んでやるぜ」
うーん、それは魅力的かもしれない。
「シンシアのあれはツンデレって言うんだよ」
ヒナタが子供達にいらない知識を吹き込む。
「ツンデレってなあに?」
「シンシアのお兄ちゃんに対する態度は全部照れ隠しって事」
「だから変な事吹き込まないの!」
「うわー。
シンシア様乙女だー」
「ほら余計な事言うから!」
「キャーッ!シンシアが怒ったー。
みんな逃げろー」
「「「キャーッ!!!」」」
「こらヒナタ!
待ちなさい!」
ガキどもがヒナタと共に散り散りに逃げていくのをシンシアが追いかけていく。
それを見ながらレインとアンヌは楽しそうにおしゃべりを楽しんでいた。
「ヒカゲ殿は子供達に人気なのですね」
エリアが僕に検討違いな事を言い出した。
「ねえ、今の聞いてた?
完全に舐められてただけだよね?」
「そんな事はありません。
依頼で色々な土地へ出向きますが、子供達にあんなにフレンドリーに話しかけられる貴族なんておりません」
「つまり僕は貴族として見られて無いわけだ」
「それにしても平和ですね」
エリアもそう思うのか苦笑いを浮かべて露骨に話題を変えた。
「そうだね。
君達も出番が無くて困るね」
「そんな、とんでもない。
私達は出番が無い方がいいに決まってます」
「そうか。
その方が何もしないで報酬貰えるからお得だね」
「いや、そう意味では無いのですが……」
「え?
でも楽して稼げるなら、それに越した事ないよね?」
「それはそうなのですが、なんか語弊がありますね」
「語弊も何もそのままの意味だよ」
◇
今日の昼食はお弁当屋さんのデリバリー。
配達に来た人が面子を見て驚いていた。
本日荷物持ちすら無かったメイドが簡単なピクニックセットを設営して、そこでみんなで美味しく頂いた。
美味しいご飯の後はみんなは運動がてら地域交流込みでガキどもと遊んでいる。
僕はピクニックセットを片付けているメイドの隣でゴロゴロして時間を潰す。
「メイドさんも大変だね」
「いえ。
これが私の仕事ですので」
僕の軽口にメイドはテンプレの返事を返す。
「メイドさん、若いのにしっかりしてるよね」
「お褒め頂きありがとうございます。
でも、もう若いって言われる歳ではございません」
「そうなの?
今いくつ?」
「頑張って若作りしておりますが、33になります」
「へえ〜。
全然見えないね。
10代後半でもいけそうだ」
「ありがとうございます」
「それで、メイドさんはいつからウチで働いてるの?」
「もう15年お仕えさせて頂いてます」
「またまた〜。
僕は君を知らないよ」
「何をご冗談を。
私はヒカゲ様の事を小さな時から存じあげておりますよ」
「それは調べたからでしょ?」
「仰っている意味が良く――」
「メイドさんでしょ?
カメレオンの統率者」
テキパキと片付けていたメイドさんの手が止まる。
「良く分かったわね」
「潔いね」
「確信しているのでしょ?」
「まあね」
僕はよっこいしょと立ち上がる。
「何故分かったか聞いてもいい?」
「僕達の動向を先回り出来る人間は限られているからね。
後は君みたいな新人メイドがこんな重要な来賓にずっと付いて回れるのがおかしい」
「それが不思議なのよ。
あたしは15年お仕えしたメイドと信じ込ませてるはずなんだけど」
そう。
彼女は屋敷の全員に15年仕えたベテランメイドと言う暗示をかけていた。
それも霊力を使って。
本人が霊力と認識しているかはわからないけど、メイドさんは霊力を使える珍しい人間だ。
「残念ながら僕には効かったみたい」
「なるほどね。
なら初めから疑ってたわけ?」
「初めは新しく入ったメイドさんかなと思ったんだけど、父に聞いたら新しく雇って無いって言ってたからね」
「まさかポンコツ息子のあんたにバレるとは完全に油断したわ」
メイドさんは溜息を吐いて、タバコに火をつける。
「で、昨日の晩に誰も来なかったって事は、もう次の刺客がいないって事でいいのかな?」
「ええ、そうよ。
誰とも連絡取れなくなったのよ。
だから仕方ないけど今夜にでも私があの女を始末して消えようと思っていたのにね」
「よかった。
昨日のウェイトレスのお姉さんが最後だったんだ」
「まさか!
ギルドメンバーを葬ったのもあんた?」
「まあ、そうなるね」
「あんた実はポンコツ息子なんかじゃないね」
メイドさんは勢いよく煙を吐き出してから、渇いた笑いを漏らす。
「ハハハ。
これは傑作だ。
下調べの段階から失敗してたわけだ。
妹二人には警戒してたのにね。
あたしもヤキが回ったよ」
メイドさんはまたタバコを口にして、煙を吐き出す。
『動くな』
僕を言霊が襲う。
だけど僕の霊力がそれをかき消す。
『ひれ伏せ』
お返しに僕の言霊がメイドさんを地面叩きつけた。
「あんたもあたしと同じ能力使えるとはね。
どおりで効かないわけだ」
メイドさんは地面に縛りつけられたまま悔しそうに言う。
僕はゆっくりと近づいていく。
「冥土の土産に教えてくれないか?
お前は何者なんだ?」
「僕は悪党だよ。
君達と一緒の」
「ハハハ。
蛇の道は蛇って事だ」
「そうだね。
今日はメイドさんが消える順番が来たって事だよ」
僕は刀をメイドさんに突き刺す。
メイドさんは絶命して跡形も無く蒸発した。
「しまったな。
片付けが終わったから始末したら良かったな」
僕は仕方無しにメイドさんの代わりにピクニックセットを片付けた。
さて、今晩が正念場だな。
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