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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
4章 悪党は自分の都合しか考えない
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第8話

親善大使滞在三日目。


本日の親善大使様のご予定は商業視察。


メンバーは昨日と一緒。


僕も昨日と同じく護衛。

いざと言うときの盾役。


せっかく実家に帰って来たのだから、家でダラダラしてすごしたいのに……


この商店が立ち並ぶ一角は基本のどかな田舎アークム領でも唯一賑わいを見せている。


国境領地だけあって、二つの国の文化が混じりあったようなオリジナル商品も結構多い。


女の子達は漏れなく買い物と世間話を楽しんでいる。

レインは日用品も買い足していた。


メイドは昨日と同じく荷物持ちだが、一人では持ちきれず今日はガイアも荷物持ち。


僕はと言うと、


「おっ!ヒカゲ君じゃないか!

やっぱり勉強について行けずに戻って来たか。

まあこれをやるから元気だせ」


商店のおっちゃんが僕に籠と一緒に日用雑貨を渡してきた。


「ありがとう。

でも勉強はギリギリだけどなんとかなってるよ」


「おいおいヒカゲ君に失礼だろ。

勉強じゃなくて剣術がダメで戻って来たんだろ?

これやるから気を落とすなよ」


違うおっちゃんが籠に新しい商品を入れる。


「ありがとう。

でも、剣術もギリギリついて行けてるよ」


「お前も充分失礼だぞ。

ヒカゲ君はそんな事よりも友達が出来ないから戻って来たんだ。

心配しなくていい。

友達なんていつか出来るさ。

さあこれやるから頑張って生きるんだよ」


更に違うおっさんによって商品が増えていく。


「ありがとう。

確かに友達は出来て無いけど、出戻りじゃないからね。

今は夏休みで帰って来てるだけ」


「「「えー!!!」」」


商店の人々が店員と客含めてみんな驚きの声をあげた。


こいつら全員失礼だな。


「ウフフ。

やっぱりヒカゲ君は人気者ですね」


レインが楽しそうに笑っている。


「話聞いてた?

みんな僕をバカにしてるんだよ」


「そんな事無いですよ」


「そんな事あるよ。

僕が受験に受かった時なんて言ってたか知ってる?

アークム領最大のミステリーだよ。

誰一人信じて無かったんだから」


「私はヒカゲ君なら合格出来るって信じてたわよ」


アンヌが僕を慰める為に優しい言葉をかけてくれた。


「うわーん。

僕に優しいのはアンヌだけだよ。

撫でて撫でて」


どさくさに紛れてアンヌに抱きつこうとしたら、ヒナタとシンシアが僕の首根っこを掴んで阻止された。


「お姉ちゃんに手を出すのは許さない」


「お兄ちゃん。

アンヌお姉ちゃんはダメ。

シンシアにしなさい」


「うわーん。

シンシア撫でて撫でて」


「なっ!抱き付きたら鉄拳お見舞いするからね!」


なにそれ怖い。

抱きつくのは諦めよう。


「兄妹仲がいいのですね」


レインにはこの光景が仲がいいように見えるらしい。

変わった感性の持ち主だ。


「私は一人っ子なので羨ましいです」


「お兄ちゃんと結婚したら私達ご姉妹になってあげるよ。

今ならまだ第三夫人が空いてます」


「ウフフ。

前向きに検討しますね」


ヒナタの提案にレインが社交辞令で返す。


なんて恐ろしい妹なんだ。

僕を政略結婚の道具として使い潰す気だ。



昼食は地元料理が食べられる老舗のレストランに案内した。


この店はとても美味しくて、両親の行きつけの店でもある。


お祝い事とかでも良く利用させて頂いている。


僕もここの料理は大好物だ。

ナイトメア・ルミナスのみんなを連れて来れないのが残念で仕方がない。


いつかみんなに味わって貰える方法を模索中だ。


個室に案内されて席に着くと、みんなの元に食器が並べられる。


食事が運ばれるのを待っている間は楽しい会話が飛び交う。


すっかりみんな仲良しになっている。

これはヒナタの凄い所。

誰とでもすぐに仲良くなれる。


ガシャーン!!


食器が落ちて割れる音が響く。

賑やかだった店内が静まりかえって、みんなの視線が音の方に注がれる。


「失礼しました!」


店員の申し訳無さそうな声の後、元の喧騒へと戻った。


まもなく料理が順番に運ばれて来た。


楽しい食事が始まる。

お客さんの口にも合ったようでみんなの箸が進む。


みんなが楽しい時間を過ごせた事で、この場は良しとしよう。



食事の後、僕はこっそり別行動を取る事にした。


「今日はもう帰るの?」


レストランの裏口から出て来たウェイトレスに僕は呼びかけた。

かなり慌てていたみたいで、ウェイトレスはビックリしてこっちを見る。


「お客様。

こちらは従業員専用の出入り口ですよ」


「わかってるよ。

君を待ってたんだよ」


「私を?」


「そう。

で、君の今日の勤務は終わり?」


「はい。

今日は昼までなので」


「せっかくだし僕とちょっと遊んでいかない?」


「ナンパはちょっと……」


「いいじゃないか。

付き合ってくれたら、なんで暗殺に失敗したか教えてあげるよ」


ウェイトレスはテーブルナイフを僕の顔面目掛けて投げる。

僕は軽く首を傾げて躱わすけど、頬を掠めて一筋の傷から血が流れた。


「今のナイフに塗ってあったみたいにレインの食器にだけ毒を塗ったんだよね?

でも残念。

食器が割れてみんなの視線が移った時にすり替えちゃった」


僕は可愛く言ってのける。

ちなみに皿を落としたのも僕の超能力。


「そんなのおかしい!

テーブルには人数分の食器しか用意していなかった!」


「だからすり替えたって言ったじゃん。

僕のやつと」


「でもお前も食べたはず」

「食べたよ」


毒なんて所詮体内で化学反応起こしているだけだからね。

気力で反応する前に毒素を破壊したらなんら問題無い。


「毒は無味無臭だったから料理は美味しく食べれたよ。

だけど毒に対処しながらの食事は楽しめないでしょ?」


ウェイトレスが投げたフォークがガードした僕の腕に刺さる。

しっかりと毒が塗ってあるけど、当然効かない。


「もしかしてこれで終わり?」


僕はフォークを抜きながら期待せずに聞いてみる。


「舐めるなよ!」


ウェイトレスの服と鞄からテグスに繋がれた大量のナイフとフォークが現れた。

それを十本の指で器用に操り、宙を舞うナイフとフォークが全方位から僕に刃を向ける。


「毒が効かないなら串刺しにしてやるわよ」


全てのナイフとフォークが一斉に僕目掛けて飛ぶ。

そして一斉に僕の超能力によって空中で静止した。


「うそ!なんで?」


ウェイトレスはすっかり戦意消失してしまった。


「君も一発屋だね。

はあー、毎日毎日つまらない」


僕はナイフとフォークをウェイトレスに向けて飛ばす。

でも決して肌を傷つけないように服だけを切り裂いていく。


そして半裸になってあられもない姿のウェイトレスをテグスで壁に貼り付けにした。


「人生で食事の回数って決まってるんだよね。

だから僕は基本的には好きな物しか食べない。

だって勿体無いじゃん。

そう思わない、可愛いウェイトレスのお姉ちゃん」


ウェイトレスは返事をしないで必死に脱出しようと試みている。

そんな彼女に僕は嘲笑いながらゆっくりと近づいている。


「つまり君は僕の貴重な一食を台無しにしたって事だ」


「うるさい!

これを外せ!」


僕はその言葉を無視をする。


正直僕はこの連日の欲求不満が溜まりに溜まっている。

そこに僕の好きなお店の料理も楽しめないときた。

そろそろ我慢も限界に近い。


「デザートぐらいは美味しいの食べたいと思わない?」


「何を意味のわからない――

キャッ!」


僕はウェイトレスの体の一部に残った布切れを引きちぎる。


「お、可愛い声あげるね。

僕好みだ。

ウェイトレスのお姉ちゃんは顔もかわいいし、スタイルもいいからちょうどいいや」


「一体何を――

うっ!んー!」


引きちぎった布切れを猿轡にして口を塞ぐ。

そのあと優しく頭を撫でてあげた。


「食事自体に毒入れなかったのは褒めてあげるね。

ご褒美に死ぬ前に天国に連れていってあげるよ」


僕は無意識に舌なめずりをしていた。


「んー!んー!」


辛うじて大事な部分を残している布を鼻歌混じりに引きちぎっていく。


ビリビリと言う音とウェイトレスの猿轡から漏れる必死な声が僕のストレスを緩和しつつも、欲求を強めていく。


さて、美味しく頂く準備は完了。

僕は涙を浮かべているウェイトレスのお姉さんの耳元で囁く。


「いただきまーす」



はあ、スッキリした。

美味しく頂きました。


やっぱり満たされなかった三大欲求は、別の三大欲求で補うに限るね。


なにせ睡眠欲も溜まってたからね。

食欲とのダブルパンチは応えたよ。


こっちの命を狙ってくる相手だと、気兼ね無く犯れるからいいね。


こっちに来てから命狙われる事少なくなったからな。


「ヒカゲ君、用事は終わりましたか?」


こっそり帰って来たはずだったのにアンヌには別行動してる事がバレてしまっていた。


「あれ?こそっと抜け出したのにバレちゃった?」


僕はお茶目な仕草でお茶を濁す。


「ええ。

ヒカゲ君は昔からすぐどっかに行ってしまうので、目が離せないんですよ」


「それはヒナタとシンシアでしょ?」


いつも元気いっぱいのヒナタとそれについて行くシンシアはすぐに何処へでも行ってしまうから、両親も使用人もいつも苦労していた。


「ヒナタちゃんとシンシアは目立ちますからね。

でもヒカゲ君はいつも気付かれないように消えてしまうから。

まるで初めからそこにいないかのように」


僕は正直驚いた。

自然とその場に溶け込んだり消えたりするのは僕の得意分野、怪盗の必須スキルだ。


それをアンヌは昔から気付いていたどころか、その事に僕が気付いていなかったなんて……


もしかして、僕の腕鈍ってる?


「良く見てるんだね」


「お姉ちゃんですから」


アンヌは誇らしげに言う。


その顔を見てふと前世の姉さんを思い出した。

姉さん元気にしてるかな?

……まあ、あの姉さんなら大丈夫だろ。


「お姉ちゃんって凄いね」


「ええ。

お姉ちゃんは偉大なのですよ」


フフッとアンヌは華麗に笑う。


「そういや、なんでレインと一緒にいたの?」


「お友達になったのよ」


「アンヌ様の作品は我が国の方が評価が高いんです」


ヒナタ達が下着屋に入って行ったから外で待機する事になったガイアがが話に入ってきた。


「今やアンヌ様は国賓扱いです」


「へえ〜。

凄いね」


「そんなに煽てても何も出ませんよ」


「そう謙遜なさらずに。

レインお嬢様もその作品に惚れ込んだ一人です」


「熱烈なラブレターを頂いて、お家に招待して頂いたの。

目が見えないのに気に入って頂けるなんて私もビックリしたわ」


「それだけアンヌの作品が素晴らしいって事だね」


「もう、ヒカゲ君ったら」


アンヌは恥ずかしそうに頬を紅く染める。

愛しさ100点満点。


これこそ自然体。

リリーナとは大違いだ。

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1つでも構いません。


ブックマークも頂けたら幸いです。


よろしくお願いします。

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