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世界を生き抜く悪党の美学  作者: 横切カラス
4章 悪党は自分の都合しか考えない
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第7話

親善大使滞在二日目。


本日は農業視察の予定だ。


案内役はヒナタとシンシア。

二人とも学園で少し離れていたにも関わらず、完璧に熟知している。


農民達と挨拶や世間話をしながらの案内で、終始和やかな雰囲気だ。

一応補足があった時の為に付いて来たメイドはただの荷物持ちとなっている。


レインとアンヌが二人の案内を楽しそうに聞いている。


ガイアとエリア達は農民を威圧しないように最低限の装備で護衛しながら、一緒に聞いている。


それで僕はと言うと、両親から全員の護衛に行って来いとの命を受けた。


どう考えても一番弱い僕が護衛っておかしいよね?


いざとなったら盾になって死ねって事だと僕は理解した。

任せておけ。

そんな事なる前に暗殺者には退場して頂くから。


農民達も久しぶりに会ったヒナタとシンシアとアンヌに親しげに話かけている。


この子達は領民に人気だからね。

やっぱり可愛い娘は誰にでも好かれる。


「ヒカゲ君は勉強ついていけてる?

これ食べて頑張るんだよ」


僕の手に農民から野菜の入った籠が渡された。


「ありがとう。

大丈夫。

なんとかギリギリやっていけてるよ」


「ヒカゲ君、学園でいじめられてない?

これ食べて強くなるんだよ」


別の農民から籠に新しい野菜が追加された。


「ありがとう。

大丈夫大丈夫。

いじめられそうになったら逃げるから」


「ヒカゲ君、辛くなったら帰って来たらいいからね。

これ美味しいからお食べ」


更に別の農民から野菜が追加されて籠が重くなる。


「ありがとう。

逃げるのは得意だから大丈夫だよ」


みんなヒナタ達のついでに憐れみで僕に話かけてくる。

ちなみに僕だけは君呼びだ。


「ヒカゲさんは人気者なんですね」


レインが籠の中の野菜を見ながら言う。


「みんなポンコツの僕を憐れんでるだけだよ」


「でも野菜を渡されたのヒカゲさんだけですよ。

しかもこんなに立派な物ばかり」


「野菜の良し悪しが分かるの?」


「はい。

私も東端の田舎領主の娘ですからね。

私の領地も農業が盛んなんですよ」


「すごいね。

僕はかじってみて美味しいかどうかしかわからない」


「ウフフ。

それが一番大事ですね」


僕のあまりのポンコツさに呆れたのか、レインは笑っている。


「あっ、ちょっと手伝ってくるね」


僕は収穫した野菜を沢山運んでいる老人の団体に向かって走っていく。


「もう、そんなに無理して持たなくても。

二回に分けて運びなよ」


「そんな事したら忘れてしまうさ。

ハハハ」


「笑い事じゃないよ。

ボケるのはまだ早いって。

はい、ここ入れて」


僕は近くにあった台車を持って来て、全員の荷物を乗せる。


「今日はヒカゲ君が届けてくれるから楽ちんじゃのう」


「はいはい。

じゃあ順番に回りますよ」


僕は老人達の護衛に変わった。



最後のおばあちゃんの荷物を乗せた台車を引きながら一緒に歩く。


「ねえ、おばあちゃん」


「なんじゃ?」


「いつまでこの茶番続ける気?」


僕の言葉におばあちゃんの足が止まる。


「おばあちゃん、ここの領民じゃ無いでしょ?」


おばあちゃんは見た目からは想像出来ないほどの素早く振り向き、鎌で切り掛かって来る。


僕は台車を手放して飛び退いて避ける。

その僕の体鎖が巻き付いて捕えた。


おお、すげぇ。

鎖鎌だ。


なかなか使い手がいない武器だから珍しい。


おばあちゃんの姿がいつの間にかスタイルのいい女性に変わっている。


「おばあちゃん、鎖鎌って珍しいね」


「この姿に戻ったのにおばあちゃんってのは失礼なボウヤね」


「じゃあお姉さんでいい?」


「あら、物分かりのいいボウヤは好きよ」


「それでお姉さん。

次どうするの?

早く早く」


この後どうやって僕を殺すのか楽しみだ。

この圧倒的な有利な状況からどう言う戦術を取るのか早く見せて欲しい。


「そんなに死にたいの?

望み通り殺してやるわ!

ってあれ?」


お姉さんが思いっきり鎖を引っ張るけど、僕はびくともしない。


「ボウヤ、なかなか力強いわね」


お姉さんが何回引っ張っても僕は一切動かない。

僕は必死なお姉さんを楽しく眺めている。


「ねえねえ、はーやーくー」


もちろん煽るのも忘れない。

苛立ちが募っているのが僕の優越感を満たしていく。


「こっちから行ってやるわよ!」


業を煮やしたお姉さんが自らこっちに近づいて来て鎌が僕の首を狙う。


そっちが動いたら意味無くない?


なかなかのスピードだけど、僕は後ろに飛び退いて躱わす。

再び鎖がピンっと張られた。


「まーだー」


更に僕は煽っていく。

お姉さんはまた引っ張るが当然動かない。


「これならどう!」


一体鎖の拘束が解かれたと思いきや鎖が首に巻き付く。


解かれてから首に巻き付くのが、逃げる間も無いくらい早かった。

かなりの使い手みたいだね。


「これでボウヤもお終いよ」


お姉さんが喜びを浮かべながら鎖で首を絞める。

その顔が少しづつ曇っていく。


「それで?

この後は?」


全く動じない僕にお姉さんは混乱し始める。


「な、なんで!?

首を絞められ普通に話せるなんてありえない!

ボ、ボウヤは一体何者!?」


「それより、もうネタ切れ?」


「ば、化け物……」


化け物とは失礼な。

超能力で首が締まらないように隙間を空けてるだけだよ。


「ねえってば。

他には何か無いの?」


もっとあるでしょ。

鎖の先の分銅をぶつけるとか、巻き付けるだけならロープでよくない?


ああこれはダメだ。

これはもう何も考えられない感じだな。


僕は鎖を軽く引っ張る。

お姉さんの体が一気に引き寄せられる。


「お姉さんはこれがしたかったんだね」


僕はお姉さんを軽く切り捨てた。



昨日と今日でわかった事がある。

暗殺者というのは相手に気が付かれる前に殺すのに特化している。


だから自分の土俵から離れてしまうと途端に対応出来なくなるんだな。


でもルリはそんな事無かったけどな……

いや、そのルリも直接戦闘は苦手って言ってたような気も……


なんにせよ、過度な期待は良くないと言う事だ。


それでも今夜もゴロゴロ星空を見上げながら、期待して屋根の上で待っている僕がいる。


だって持久戦の生き残りだよ。

もうちょっと骨があるやつ来てもいいと思うんだよね。


“おっ、なんか魔力が展開された?

あれ?声が出ない?”


違う。

音が聞こえないんだ。


“すごい。

自分の声も聞こえない。

自分がちゃんと発音出来てるかもわからない。

なんか楽しい”


全くの無音の世界。

凄く新鮮な気分。


“楽しいけど……

これなの意味があるの?”


その時、何者かが豪快に屋敷の塀を飛び越えた。

かなりの巨大な男だ。


“なるほど。

音がしないから簡単に忍び込めるのか。

……昨日の霧の奴とコラボして来いよ”


僕は屋根から飛び降りて巨漢の前に踊り出る。

男はかなり驚いているようだ。


“えーと巨漢君でいいかな?

って聞こえなのか。

じゃあ巨漢君でいっか”


巨漢君が大きな斧を振り下ろす。


いかにも暗殺に向かなそうな武器だ。

それをこの音の無い空間が補っている。


“でも、そんな大きな物を敷地内で振り回されるのは困るな”


僕は斧を片手で受け止め、一回転してハンマー投げのように投げ飛ばした。


遥か敷地外へ飛んでいく巨漢君を走って追いかける。


巨漢君が落下した所には小さなクレーターが出来ていた。


“流石巨漢君。

無傷みたいだね”


巨漢君がのっそりと立ち上がる。

その姿が揺らいだ。


巨漢君ダメージが足に来たのかな?って思ったけど違う。


周りの風景も揺らいでいる。

僕の目がおかしいんだ。


すると、今度は僕の足元が揺らぐ。

匂いも感じない。

視界は更にボヤけていく。


僕は勘違いしていた。

こいつは聞こえなくするだけじゃない。

少しづつ五感を奪っていってるんだ。


屋敷から遠ざけたのは正解だったな。


昨日の奴とコラボしろとか思ってごめんね。

君の方が上位互換だったよ。


巨漢君は僕の五感が完全に消えるのを待っているのか、全く動かない。


ついにまともに立っていられなくなってきた。


凄い、凄いぞ。

体の自由が効かない。

まるで自分の体では無いみたい。


へたり込む僕に巨漢君が近づいてくる。


だが、振り上げられた斧が振り下ろされる事は無い。

大量の剣の雨が降り注いて巨漢君の命を奪ったからだ。


巨漢君の魔力が消えて僕の感覚が元に戻る。


「惜しかったね。

大量の魔力の剣を超能力に上空で浮かしてだんだ。

って聞こえて無いか」


巨漢君の死体を蒸発させて跡形も無く決しておく。


「結局一発芸で終わりか」


僕は今日学んだ。

暗殺者相手は相手の土俵で戦っても結局バリエーションが無いからすぐ冷める。


暗殺成功率100%って言うから期待してたのにな〜

期待外れにも程がある。

なんか欲求不満だ。

何かいい発散方法考えないと。

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1つでも構いません。


ブックマークも頂けたら幸いです。


よろしくお願いします。

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