第6話
家に帰ってしばらくして、僕は父に呼ばれた。
そろそろ親善大使様が到着するとの事だ。
めんどくさいけど、お出迎えに立ち会わないといけないらしい。
出迎えには両親とヒナタとシンシア、あと数人の使用人がいた。
やがて親善大使様を乗せた場所が家の前に止まって扉が開き騎士が降りて来る。
その騎士に手を差し伸べられてポニーテールの女の子が降りて来た。
「お初にお目にかかります。
カルカナ王国ヤマーヌ公爵の娘、レイン・ヤマーヌと申します。
私と一緒に来た騎士は護衛のガイア・ゲンガです。
5日間の短い期間ですがお世話になります」
レインは上品に礼ををした。
それに父が代表して応える。
「ご丁寧にありがとうございます。
私はこの土地の領主エンテン・アークムです」
二人は握手を握手を交わす。
その後父が家族を順番に紹介していく。
それを聞き終えたレインは再び上品に礼をした。
「皆さん、話に聞いて想像した通りです。
いい家族ですね」
「そうでしょ、私の自慢の家族よ」
いたずらっ子ぽく微笑むレインの後ろからもう一人、ガイアに手を差し伸べられて女性が降りて来る。
「お姉ちゃん!」
シンシアがビックリして声を上げる。
そう、場所から降りて来たのはアンヌだった。
「ただいま戻りました」
アンヌは深く頭を下げる。
「おかえりなさい。
待ってたわよ」
母がアンヌに優しい声をかけた。
両親はアンヌが一緒に来る事をわかっていたようだ。
「立ち話もなんですし屋敷へどうぞ」
父の一言でみんな屋敷の中に入る。
レインの荷物はメイドの一人が運んで行った。
◇
両親が親善大使と対談している間、僕達は別室でアンヌと久しぶりの再会に話を弾ませていた。
とくにシンシアは凄く嬉しそうに今までの事を話している。
珍しくヒナタより喋っている所を見るに相当嬉しいのだろう。
アンヌはニコニコしながら話を聞いていた。
僕は邪魔しないように静観している事にした。
「それにしてもお姉ちゃんがいるなんてビックリした」
「私も!
お父さんもお母さんも教えてくれなかったもん」
「ごめんなさいね。
せっかくだからサプライズしようってレインが言うものだから、つい乗っちゃたの。
でもヒカゲ君は驚いてくれなかったわね」
アンヌが急に僕の方を向く。
「え?そうだった?」
いきなり過ぎて僕は適当な返事を返した。
なんたって僕は馬車がついた時点で気がついてたからね。
「お兄ちゃんは冷めてるからね。
きっとアンヌお姉ちゃんの顔忘れてたんだよ」
「それは酷いわ。
私泣いちゃうかも」
「ちょっとヒカゲ!
お姉ちゃん泣かしたら許さないから!」
「ちょっと待ってよ。
顔を忘れた事なんて無いよ」
僕の慌てっぷりに三人が楽しそうに笑う。
三人が笑ってくれるならピエロも悪くは無い。
楽しい時間を過ごしているとドアがノックして使用人がドアをあける。
「失礼します。
ヒカゲ様、ご主人様がお呼びです」
「え?僕?」
「はい」
僕に一体なんの用事だろう?
部屋を後にして、使用人についていく。
案内された部屋で待っていたのはレイン・ヤマーヌだった。
傍らではガイアが護衛している。
「改めましてレイン・ヤマーヌです」
「これはどうも。
僕はヒカゲ・マークム」
自己紹介した僕をレインが黙ってじっと見る。
「あの……何か?」
「ヒカゲさん。
私と会うの初めてですか?」
「そうだと思いますよ」
「そうですか……」
なんか納得いかないようだけど、間違い無く初めましてだ。
僕はこの姿でカルカナ王国に行った事は無い。
この子には姿なんて関係無いだろうけど。
「レインはこの国に来た事があるの?」
「いきなりタメ口なんですね」
「ダメだった?」
「いえ、少し驚いただけです。
でも不思議とあなたなら嫌な気がしませんね。
ウフフ」
レインは口元に手を当てて上品に笑う。
「それで質問の答えですが、私は初めてですよ」
「ならやっぱり接点が無いから初めましてだね」
「そのはずなんですけどね……」
やっぱりまだ納得出来ない様子だ。
「なにか聴こえてるの?」
僕の問いに二人は目を見開いて驚いた。
でもレインの焦点は僕に合っていない。
「なんで私が盲目だとわかったんですか?」
「アンヌが馬車から降りる時。
そこの騎士がエスコートするのを見せつけるようだったから。
まるで、誰にでもするのが当たり前と言わんばかりに」
「たったそれだけですか?」
「あといろいろあるけど、最終的には勘だね」
「つまり鎌をかけたと?」
「そうなるね」
「ウフフ。
アンヌの言う通りですね。
あなたの周りの評価と違って実は聡明な方ですね」
「アンヌが僕の事褒めてくれたの?
それは嬉しいな。
でも、それは身内の贔屓目だよ」
「私が盲目だと気付いたのはヒカゲさんが初めてですよ」
「たまたまよ」
「今はそういう事にしておきますね」
レインは含みのある言葉で話を仕切り直した。
「それで、あなたをお呼びだてした理由ですが。
私は国の要請で親善大使として訪れました。
でも、それとは別に個人的な目的もあります。
人を探しています」
「人?」
「そうです。
手掛かりは名前だけ。
その名はナイトメア」
「ナイトメア?
変わった名前だね」
僕は自然に応える。
悪いが僕は突然名前を出されたぐらいでボロを出すような人間じゃない。
「ご存知無いですか?」
「全く」
「そうですか……
私はあなたの言う通り盲目です。
でも初めからこうだったわけではありませんよ。
数年前にちょっと我が家で騒動が起きまして。
その時の領主である父に思いっきり平手打ちされたんです。
その時に頭を強打してしまった後遺症なんです。
そのまま殺されていてもおかしく無いような状況でした。
その時私を助けてくれたのがナイトメアなんです」
へぇ〜そんな事あったんだ。
全然記憶に無いけど。
僕とは違うナイトメアさんかな?
「私は朦朧とする意識の中で必死に私を助けてくれたお方の事を知ろうとしました。
その時魔力の波の音を感じる事が出来るようになったのです」
「魔力の波の音?」
なにそれ?初めて聞いた。
凄く気になる。
「私が勝手にそう呼んでるだけですけどね。
人はそれぞれ違った魔力の波形をしています。
その波形が私にはなんとなく音として聞こえるんですよ」
魔力の波形?
それは調べてみる価値あるな。
後で意識してみよう。
「ナイトメアの音はまだ私が感じるようになってすぐだったからかもしれませんが、いろんな音が混ざりあっている感じ。
けれどもその全ての音が綺麗にハモリあっていて、凄く心地よい感じでした。
そしてその一つの音とヒカゲさんの音が凄く似ているように思います」
「それで僕を呼んだの?」
「それもありますが、一番の理由はアンヌです」
「アンヌ?」
「ええ、アンヌが一度ヒカゲさんとお話しした方がいいと言っていたんです。
アンヌの言う通りでした。
あなたとお話しできてよかった。
お時間を頂きありがとうございました」
「こちらこそ。
力になれずにごめんね」
「いえいえ。
もし何か分かれば教えてください。
あと、私が盲目だって事黙っていてくださいね。
なにせ敵が多い物ですから」
「もちろん」
「ありがとうございます」
レインは僕が部屋を出て行くまで深々と頭を下げたままだった。
全くこの女には困ったものだ。
悪いけど、君の好きにさせるつもりはないからね。
◇
その日の晩。
みんなが寝静まった夜中。
レインの護衛の為にエリア達が順番に起きていた。
もちろんレインが連れて来たガイアも、我が家の兵士達も順番に起きて護衛している。
警備は万全。
でも、夜はどうしても昼よりは警備が薄くなる。
だから、暗殺者はやってくる。
そして僕のお楽しみの時間もやってくる。
僕のお楽しみは誰にも渡さないよ。
屋敷の屋根の上で寝転がって星空を眺めながら待ち続ける。
やがて霧が出て来る。
その霧がだんだん濃くなっていき、あっという間に自分の手すら見えなくなるほどの白い霧が屋敷を覆い隠す。
来た来た来た。
おいでなすったよ。
なるほどね。
この霧に紛れて暗殺するんだね。
魔力を白く可視化させて放出しているんだ。
おかげでこちらは全く見えないけど、あちらは魔力によって全て手に取るようにわかるって事だ。
僕が普段気配察知に利用してる魔力を白くした感じだね。
面白い使い方だ。
覚えておこう。
敷地の外から人がゆっくりと歩いて来る。
この圧倒的な有利の状況でも慎重に迫り来る暗殺者はプロ中のブロだ。
そのプロに魔力で生成したナイフを投げる。
暗殺者は難なく避けられるが、動きが止まった。
僕の位置は把握しているだろう。
あとは今のがたまたまかどうかを考えてでもいるのかな?
そんなわけ無いのにね。
ではもうひとつご挨拶。
再びナイフを投げる。
また軽く躱さ避けられる。
これで僕が君の居場所がわかっているのに気が付いたかな?
じゃあ本番行くよ。
僕はナイフを次から次へと生成しては投げる。
段々と投げる間隔を短くしていきながら、ナイフのスピードも上げていく。
さあ、そろそろ気付いた?
君が狩られるの側だって事を。
初めは余裕を持って避けていた暗殺者も次第に動きが大きくなり、挙げ句の果てには床を転がる様に這いずり回っている。
「いいねいいね。
楽しくなって来たよ」
僕はみんなを起こさないように小声で呟きながら投げ続ける。
殺そうと思えばすぐに殺せるんだけどね。
せっかくだし楽しまないとね。
もし千本避け切れたらご褒美あげよう……ってあれ?
なんか止まって命乞いみたいな事しだした。
えーつまんないー
早く逃げ回ってよ〜。
ほらほら敢えてギリギリ掠める所投げてあげるから。
そんなに震えて怖いでしょ?
さあさあ逃げて逃げて。
ってなんか冷めたな。
僕はおでこに投げて暗殺者に突き刺す。
最後の命乞いさえ無ければ完璧だったのにな〜
明日も誰か遊びに来てくれる事に期待しよう。
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