第3話
僕は部屋に帰る前に元来た道を戻る。
僕の寮よりもう一つ学校に近い寮。
そこにヒナタがいる特待生用の寮がある。
当然明日からの夏休みの事を聞きに来た。
流石の僕もちょっと怒っている。
たとえヒナタだろうと、僕の夏休みのダラダラ計画を邪魔させてなるものか。
「はいはーい。
今出まーす」
部屋のチャイムを鳴らすと元気な声が聞こえて扉が開く。
「あ!お兄ちゃん!
遊びに来たの?」
「いや今日は――」
「どうぞ、入って入って」
ヒナタは僕の話を遮って、部屋の中に引きずりこんむ。
「ヒナタ。
ちょっと話が――」
「何か飲む?
ブドウジュースあるよ」
僕をソファーに座らせたあと、ジュースを取りに言ってしまった。
少しして実家から送られて来たであろうブドウジュースと二人分のコップを持って戻って来ると、僕の隣に座った。
「はい、どうぞ」
「うん。
ありがとう。
それで――」
「そうだ。
シンシア呼ぶ?」
「シンシアは呼びません」
「じゃあ一緒に夜這いしに行く?」
「夜這いしに行きません」
てか、なんだよ兄妹で夜這いしに行くって。
それも妹相手に。
ヤバイ奴らじゃん。
「もしかして私を夜這い?
キャーッ!」
「一人楽しそうだけどしないから」
実の妹を夜這いは更にヤバイ奴じゃん。
「ちょっと私お風呂で体清めて来る」
「行くな行くな」
立ち上がったヒナタを僕は慌てて止める。
「ヒナタ。
わざとやってるだろ」
「バレた」
ヒナタはペロっと舌を出した。
ちくしょう可愛いな。
怒る気がだんだん薄れて来たじゃないか。
「ヒナタ、お兄ちゃんの言う事を良く聞きなさい」
「なに?」
「ヒナタはカワイイんだから――」
「えへへ。
お兄ちゃんにかわいいって言われた」
嬉しそうに笑うヒナタに僕の怒りは更に消えていく。
だけど心を鬼にして話を続ける。
「ヒナタはカワイイんだから、男の前でそう言う冗談を言ってはいけません。
相手が本気にしたらどうするんだ?」
「大丈夫大丈夫。
お兄ちゃんにしかしないから」
それはそれで問題だ。
「僕も一応男です」
「お兄ちゃんならドンと来いだよ」
「あのねヒナタ。
そう言うのは本当に好きな男が出来た時にしなさい」
「私お兄ちゃんの事好きだよ」
「そうじゃなくて……
ヒナタもちょっとは気になる男いないの?」
「いないよ」
「ヒナタを狙ってる男は多いと思うだけどな〜」
「私結構モテるよ」
「だろうね。
それはいい事だ」
それは良かった。
モテないよりモテた方が断然いい。
「ちなみにシンシアも結構モテるよ」
「うんうん、わかるよ」
「でも、私もシンシアも全部お断りしてるの」
「そうか。
二人のお眼鏡にかなう奴はいないか」
「だね。
お兄ちゃんを超えるような男子はいないね」
「ん?なんて?」
「私もシンシアもお兄ちゃんを超えるような人じゃないとお断りって言ってるから」
特待生からの挑戦状はお前達の仕業だったのか。
なんて子達だ。
僕への嫌がらせの為だけにそんな嘘を吐くなんて。
これは絶対に挑戦状は無視し続けないといけないな。
「それでお兄ちゃん。
今日は泊まる?」
「泊まりません」
「えー、なんでー。
どうせ明日一緒に家に帰るからいいじゃん」
「そうだ、その事で来たんだ。
なんで僕が帰る話になってるんだ?」
「お父さんから帰って来なさいって手紙が来たの」
「僕には来てない」
「そりゃあ一緒の学校に通ってるのにみんなに送る必要無いじゃん」
ヒナタはおっかしいーとか言いながらケラケラ笑う。
「それはわかる。
でも僕は聞いて無い」
「だってお兄ちゃんに言ってないもん」
「なんで言わないの?」
僕はちょっと怒りモードでヒナタに尋ねる。
本当にちょっとだけどね。
言って欲しかったな〜程度だけ。
「だってお兄ちゃん言ったら逃げるでしょ?」
「……その通りです」
完膚なきまでに論破されました。
ぐうの音も出ません。
「でも……僕にも用事ってものがだね――」
「だからリリーナお義姉ちゃんには聞いたよ」
「なんで僕の予定がリリーナありきで決まってるわけ?」
「だって他に用事ないでしょ?」
「あるよ……いや無いか……」
「でしょ。
だってお兄ちゃん友達いないもんね」
僕は一応ギルドマスターで忙しいって言えないのが口惜しい。
実際は何もしてないけど。
「それで。
なんで帰って来なさいって言ってるの?」
「なんかお客さん来るらしいよ」
「お客さん?
だれ?」
「知らない。
書いて無いもーん」
「そうか知らないのか。
なら仕方ないね」
「だねー」
「僕が帰る意味あるのかな?」
領地運営に関係ある事ならヒナタとシンシアだけで充分のはずだ。
「あるよ」
ヒナタはやけに自信たっぷりに言う。
「なんで?」
「だってお兄ちゃん私達に会えないと寂しいでしょ?」
どうしよう。
全然寂しく無い。
「……なんで君達の中で僕は寂しがり屋の設定になってるんだ?」
「お兄ちゃん寂しく無いの?
私は寂しいよ」
「も、もちろん寂しいよ」
ヒナタが途轍もなく悲しい表情をするから慌てて返事をした。
するとヒナタは一瞬で笑顔になった。
「じゃあ明日一緒に帰ろうね」
もしかして謀られた?
この僕を謀るとはなかなか恐ろしい子だ。
僕の夏休みダラダラ計画は初日を迎えずに失敗が決まった。
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