第4話
帰省の馬車は学園によって準備されていた。
特待生にだけに与えられた特権だ。
しかも最上級の馬車が用意されている。
流石特待生だけあってサポートが手厚い。
僕はそれに便乗させてもらう形になった。
でも所詮馬車。
とにかく遅い。
僕は両隣を妹に挟まれながら早くつかないかなと願う。
両サイドの妹達は目の前の護衛の女性の話に夢中だ。
彼女も学園によって派遣された護衛。
トップクラスの冒険者ギルド『ユニコーンハート』所属でS級冒険者のエリア。
エリアの冒険譚は確かに面白い。
ユーモアも有って話し方も上手い。
何より自慢気に話さないで、あくまで体験した事実を物語風にアレンジして話しているから聞き易い。
でも僕は正直興味が無い。
それでも楽しんでる妹二人の水をささないように聞いていた。
やがて馬車がマークム領に入る。
アークム領はのどかな田舎。
両親の性格も相まって時間がゆっくり流れているように感じる。
だけど、今日は少し様子が違う。
なんと言うか空気がどこかピリついている。
そんな空気の時は決まって良くない事が起きる。
僕たちの馬車は十数人程度の盗賊に狙われていた。
さて、どうしたものか?
「エリア。
囲まれてる」
馬車を運転している女性がエリアに声をかける。
彼女はエリアのパーティーメンバーのケーシー。
エリアと同じS級冒険者。
「敵は何人?」
「20人いないぐらい。
こちらの様子を伺ってるみたいね」
ケーシーの隣でもう一人のパーティーメンバーのセイカが答える。
彼女もS級冒険者だ。
学園は賢い。
女の子二人の護衛にちゃんと女性の冒険者を手配するなんてやるじゃないか。
なんたって二人はカワイイからね。
何かの間違いがあってはいけない。
そんな事を考えていると馬車は街道の少し開けた所で止まった。
「ここで迎え討つわ。
私は右、セイカは左、ケーシーは後方から援護をお願い」
エリアは二人に指示を出すと側に置いてある槍を手に取る。
セイカも槍、ケーシーは弓を準備する。
「じゃあ私は後方ね」
「残った前方が私だね」
シンシアとヒナタも剣を取った。
なんか二人ともウキウキしている。
この子達は護衛されてるって自覚が無いらしい。
「私達の仕事だ。
君達はここで大人しく――」
「いいからいいから。
私達強いよ」
「でも……」
「ダメって言っても勝手に出て行くわよ」
「わかった。
でも危なくなったらすぐに馬車に戻るんだよ」
エリアが諦めて渋々了承した。
わがままな妹達でごめんね。
だけど、君達なら楽勝だから大丈夫だ。
「僕はどうしたらいい?」
「お兄ちゃんはここで大人しくしてたらいいよ」
「わかった。
そうしとく」
ヒナタに言われて僕はのほほんと座っておく。
エリアが冷ややかな目で見てるけど気にしない。
だって僕は護衛対象の自覚があるからね。
「行くよ」
エリアの掛け声と共に三人は飛び出し定位置に移る。
セイカも定位置について、ケーシーは馬車の屋根の上に登った。
程なくして戦闘が始まった。
僕は広くなった馬車の中で寛ぐ。
「久しぶりだねルリ」
「やっぱりマスターは私を見つけてくれるんですね」
僕は魔力で外に音が漏れないように防音してから、目の前に座ったシルクハットの似合う女の子に話かける。
彼女はルリ。
人目を引きそうな美人だけど、とにかく存在感が薄い。
本人はそれがコンプレックスらしいけど、元暗殺者の彼女には立派な長所だと思う。
まあ人間の欠陥品みたいな僕なんかが言っても、なんの慰めにもならないけどね。
「で、どうしたの?」
「マスターにスミレ様から言伝を預かっています」
「今回もジャンケンで決めたの?」
「はい。
よくご存知で」
そっか〜
今回はルリが負けたのか〜
「マスターの実家に隣国の公爵令嬢のレイン・ヤマーヌが訪問する予定になっております」
へぇ〜お客さんってのはそのレ?レ?……なんとかって言うお嬢様なんだ。
「その令嬢の訪問は親善大使として両国の和平強化を目的です。
しかし、隣国の革命派はこれを期に穏健派の中心人物である彼女をアークム領内で暗殺。
ホロン王国への侵攻への理由にしようと目論んでいます」
「なるほどね。
ついでに穏健派の勢力を削れるし、アークム男爵の信頼も失墜して領内が荒れるから攻め込み易くなる。
まさに一石三鳥だね」
「その通りです。
その為に両国のあらゆるギルドに片っ端から依頼をかけて、今やこの領内に両国の暗殺者が集まってきています」
「そうか」
それはなかなか楽しそうな事になってるね。
僕もぜひともその宴に参加したい。
「私達ナイトメア・ルミナスは暗殺を受けた全ギルドの殲滅の依頼を受けて、全員でギルド潰しを行っています」
「それは大仕事だね。
いくつぐらいあるの?」
「大小合わせて50はくだらないかと」
本当に手当たり次第だね。
一人頭八つぐらい潰さないといけないね。
「現在8割程度のギルドの全滅に成功しています」
「すごいね」
「ありがとうございます。
ただ残りの2割が厄介でして。
その殆どが裏ギルドなんですが、所在がわかっている表ギルドと違って居場所の特定に時間がかかるケースが多くて殲滅に時間がかかっております」
「確かに大変そうだね」
でも楽しそうでいいな〜
僕も混ぜて欲しいな。
「可能ならレイン嬢の訪問までに方をつけたかったのですが……
申し訳ありませんが、マスターのお手を煩わす事になりそうです」
ルリは申し訳無さそうにシルクハットで顔隠す。
「ようは僕が暗殺者を返り打ちにしたらいいって事でしょ。
任せて任せて」
ヨシ。
退屈だと思っていた里帰りが面白くなって来たぞ。
何人ぐらい来てくれるのかな?
いっぱい来てくれるといいな〜
「マスターに限って万が一があるとは思えませんが、お気をつけください。
今回の件は名のある暗殺者がこぞって依頼を受けています。
中でも暗殺ギルド『カメレオン』はこの国最大の裏ギルドの一つで、決まった拠点を持っておらず殲滅に苦労しています。
そこに所属しているジランヤ、フウサ、キリカクレ、ハッコリの四人は界隈では知らない者がいない暗殺者です」
なんか忍者みたいな名前だね。
まあ、忍者も暗殺者も似たようなものか。
「暗殺成功率100%と言われているギルドで、とにかく成功するまで諦める事無く暗殺者を送り込んで来ます」
「つまり持久戦になるって事だね」
「はい。
可能な限り私達で対処いたしますが、なにぶん数の違いが大きく時間が足りないかと」
「気にしない気にしない。
いつも君達に任せっぱなしだからね。
たまには働かないと」
みんなに呆れられて、あの秘密基地を追い出されたく無いしね。
「ではもしもの時はよろしくお願いします。
ちなみにマスター」
ルリは何か言いたげな顔をする。
「どうしたの?」
「私はマスターに会うまでは一人でも100%でしたよ」
何故かルリが誇らし気に小さな胸を張っている。
どうやら負けられない物があるらしい。
「大丈夫。
そのカメレオンとか言う暗殺ギルドも今回で終わりだからルリの方が優秀だよ」
「ありがとうございます。
では、私はまだ殲滅予定のギルドがあるので一旦離れます」
「頑張ってね」
ルリがスッと消えたとほぼ同時に外の戦闘も終わった。
予想通り完勝だった。
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