第22話
王都の見張りが四体のガーゴイルを確認して王都内に緊急アラートが発令した。
グラハムから緊急招集された騎士達に緊張が走る。
緊急招集されたがグラハムは不在。
更には第一、第二、第三部隊長も不在。
その事実が只事でない事を示している。
しかし彼らは誰か一人臆する事無く出陣した。
グラハムによって彼らはこう言う状況でも何をしたらいいか訓練を積んで来た。
彼らの目的は一つ。
王都とそこにいる市民を守る事。
ガーゴイルの襲撃に備えて部隊が編成される。
騎士団見習いはすぐに市民の避難誘導を開始した。
そして遂にガーゴイルが王都の各所へと降り立った。
それと同時に騎士団によるガーゴイル討伐が始まった。
王都の入り口付近。
まず一体目のガーゴイルが降り立った。
そこにすかさず騎士団が攻め込む。
しかし魔力に耐性のある魔坑石で作られたガーゴイルには、魔力の乗った騎士団の攻撃など傷一つ付かない。
逆にガーゴイルは一撃で内臓破裂させるほどの攻撃を繰り出していく。
その強さの差は人数でカバーできる程のレベルでは無かった。
騎士団側の死傷者は無慈悲にも増えていく。
それでも騎士団は果敢に攻め続ける。
ガーゴイルの攻撃にもなんとか耐え忍んでいた。
敗北を遅らせるだけの苦しい戦いが続く。
「良く耐えた!誇り高き戦士達よ!」
激励と共にグラハム・グランドがガーゴイルに斬りかかる。
固い物同士がぶつかり合う音が響き、グラハムの剣が欠ける。
ガーゴイルの反撃を避けて欠けた剣を構える。
素早く戦況を確認する。
至る所に転がる死体に心を痛めながらも次の指示に移る。
「ダイナ、レイナ。
二人共やれるか?」
「「部隊長の誇りにかけて!」」
「なら、二人共それぞれ他のガーゴイルを叩け。
あと、負傷した者で動ける者は負傷者の避難。
無傷の者は他のガーゴイルの応援。
そして伝えろ。
足止めだけでいいと。
私達が行くまで死ぬなと!」
グラハムの命令で全員が一斉に動き出す。
グラハムとガーゴイルの一騎討ちとなる。
魔坑石とは大変高価な物で加工も難しい。
その素材の良さから各国が武器転用の研究を進めているが、費用的な問題で実用化は皆無だ。
だが、技術的には可能。
グラハムも対策を全く考えていなかった訳では無い。
魔坑石の武器を持っている相手には、その武器を避けて攻撃するのが基本。
どうしてもダメな時は、その武器を破壊する。
グラハムは迫り来るガーゴイルの攻撃を避けて、剣をボディに叩き込む。
インパクトに合わせて魔力を爆発させた。
その衝撃でガーゴイルの体が大きく後退する。
それと同時にグラハムの剣は砕けた。
グラハムはガーゴイルの体を確認する。
微かだが、ガーゴイルの体に傷が付いている。
「これならいけるな」
グラハムは深呼吸をして冷静に周囲を観察する。
そしてガーゴイルが動き出すと同時に違う方向へ走り出す。
「お前たちの誇りを借りるぞ」
グラハムは亡骸となってしまった部下の剣を拾い、追って来たガーゴイルに叩き込む。
そして再びインパクトに合わせて魔力を爆発させる。
剣が砕け、ガーゴイルは仰反る。
その隙に次の剣を拾い再び叩き込む。
ガーゴイルはやられるがままにグラハムの攻撃を浴び続ける。
砕けた剣が二十本を超えた頃、遂にガーゴイルの体が真っ二つに砕けて動きが完全に止まった。
流石のグラハムも疲れが現れて肩で息をしていた。
「俺は勇敢なお前たちを誇りに思う」
亡くなった戦士達に短い黙祷を捧げてグラハムは次の戦場に向かった。
◇
週の頭とか関係無く王都の飲み屋街は毎日の様に賑わっている。
騎士団もそれがわかっているので、すぐに避難誘導を開始した。
しかし酔っ払い相手に避難は遅れる一方。
騎士団達も避難誘導に四苦八苦していた。
そこに一体のガーゴイルが降り立った。
その姿にさっきまでくだを巻いていた酔っ払い達が一斉に逃げ出した。
一瞬にして場がパニックに陥る。
そんな中でもすぐさま騎士団は抗戦へと移る。
逃げ惑う市民とそれをなんとか誘導する見習いの盾となって戦う騎士達は次々と倒れていく。
グラハムが送った応援も人の波に押し返されて辿り着けずにいた。
もう無傷の者は殆どいなくなり、戦況は絶望的となっていた。
「みんなガーゴイルの周りから人を遠ざけて!
後は私が相手する」
絶望的な戦場に一筋の希望の光が差した。
レイナが建物の壁を垂直に走って応援に来たのだ。
壁を蹴って細剣をガーゴイルに突き刺す。
だがガーゴイルには傷一つ付かない。
レイナは素早く距離を取りガーゴイルの反撃を避ける。
想像以上の硬さに気後れしつつも、弱さを見せまいと気丈に構える。
ガーゴイルの追撃を躱して素早く数回突きを繰り出す。
レイナの腕は確かな物で、確実にガーゴイルに入る。
が、決して傷一つ付かない。
圧倒的なパワー不足。
ガーゴイルの作者が狙った状況が再現されている。
それでもレイナは一切攻撃の手を緩めない。
自分の後退がいかに騎士達の士気を下げる事になる事を理解しているからだ。
そんな彼女の奮闘も長くは続かなかった。
彼女の細剣がガーゴイルに捕まれて、そこまま力いっぱいに投げ飛ばされた。
レイナの軽い体は酒場の壁を突き破る。
痛む体に鞭を打って立ち上がったレイナとガーゴイルの間に割って走る人影が現れた。
「おうおうおう。
人がせっかく気持ち良く酒飲んでるのに邪魔するのはだ〜れだ〜」
旅人のようなローブ越しでも分かる程のメリハリのある身体つきと、醸し出される色気で女性だと分かる。
喋り方と千鳥足で確実に酔っ払っている。
立っているのもやっとなのか、左手に持っている剣を杖にして体を支えていた。
「お〜ま〜え〜か〜
いいのか〜?
久しぶりにやったるど〜」
右手に持った瓢箪に入っている酒をグビッと飲み干してから女性は、酔っ払いが絡みに行くようにガーゴイルへと千鳥足で進んでいく。
「ちょっとあなた危ない!
誰か彼女を止めて!」
レイナが大声は急に吹いた強風に流される。
その風が女性のフードをめくって、女性の顔が顕になる。
そこにある騎士達は全員その顔に息を呑んだ。
騎士団にその顔を知らない者はいない。
彼女はツバキ。
旅をしながら人助けをしている平民。
相手が貴族だろうと平民だろうと関係無く正義の為に、己の正しいと思う事の為に力を振るう根っからの善人。
人々は彼女を勇者と言う。
ガーゴイルがツバキに迫る。
ツバキは右手の瓢箪を真上に投げる。
そして目にも止まらぬ速さで居合い切りした。
一筋の閃光が空間ごとガーゴイルを真っ二つにした。
ガーゴイルは動かなくなり、上半身が地面に滑り落ちるのとツバキが瓢箪をキャッチするのが同時だった。
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