第23話
夜の繁華街は静けさが支配しているはずだった。
ガーゴイルが降り立ち騎士団との戦闘が始まった事により、昼間とは違う喧騒が広がっていく。
ここでも騎士団とガーゴイルとの間に圧倒的な力の差があった。
しかし人気が少ないこの場所では騎士達の心持ちが違う。
自分達に荷が重いと判断すると、応援待ちの時間稼ぎにシフトした。
それでも死傷者が0とはいかない。
少しずつだが確実に増えていく。
「怪我人を避難させろ。
残りは僕のフォローを頼む」
駆けつけたダイナがガーゴイルに切りかかる。
そしてインパクトに合わせて魔力を爆発させた。
グラハムとの戦闘を一瞬見たダイナはグラハムと同じ判断をした。
彼には直感的に戦闘を有利に進める才能があった。
ダイナの剣はグラハム同様砕けた。
だが、ガーゴイルには傷一つ付かない。
彼の判断は100点満点だった。
だけど力が足りなかった。
魔坑石の魔力耐性を超える程の魔力を出す事が出来ないのだ。
ダイナは一旦離れて他の騎士から剣を受け取り再び攻める。
同じく魔力を爆発させるが剣が砕けるだけ。
だがダイナは諦めない。
今この場に彼を超える騎士は存在しない。
それはここにいる誰もがわかっていた。
何度も剣を持ち変えてはガーゴイルに挑む。
無情にも剣だけが砕け続ける。
そして遂にダイナの魔力が尽きた。
最後に魔力を爆発させたタイミングでダイナは膝をつく。
それはガーゴイルの目の前だった。
無傷のガーゴイルの腕から強烈な一撃が放たれる。
なけなしの魔力でガードしたダイナは辛うじて致命傷を避けたが、両腕の骨は折れ体は吹き飛ばされる。
その体が喫茶店に向かって飛んでいく。
喫茶店にぶつかる直前で大きな抱枕がダイナを受け止めた。
「なんだこれは?」
抱き枕からずり落ちて座り込んだダイナは不思議そうに抱き枕を見る。
その抱き枕は宙に浮いていた。
「お前弱くて役立たず。
ルージュ、せっかく寝てていいと思ったのに……
がっかり」
いつの間にか現れたネグリジェ姿のルージュがダイナを見ずに冷たく言い捨てる。
ダイナにとって人生で初めて弱いと言われた瞬間だった。
ルージュは糸で吊り上げられた人形のようにスーっとガーゴイルに近いていく。
異様な移動の仕方に騎士達は恐怖し固まった。
「ルージュ眠たい。
でもお前がいるのに寝てるとスミレに怒られる。
どっか行って欲しい。
ダメ?」
半ば寝ているルージュは首をコックリコックリしながらガーゴイルに話かける。
その目は今にも寝てしまいそうなほどトロンとしている。
ガーゴイルの返事は顔面への容赦無い拳だった。
あまりの容赦の無さに騎士達は息を呑んだ。
ルージュはその場で一回転して元の位置に戻る。
「ヒャハ!」
ルージュは短く笑ってガーゴイルを真っ直ぐに見据える。
見開かれた大きな瞳にガーゴイルが映る。
「ヒャハハハハ!!
ルージュと遊んでくれるの!?」
ルージュが急変して大声を上げる。
そんな事気にせずにガーゴイルが更に追撃をする。
そのガーゴイルの右腕を左手で受け止めて、右手は肩を掴んで思いっきり引きちぎる。
バキバキって音が響きガーゴイルの右腕が胴体と別れを告げた。
ルージュは引きちぎった腕を捨てるとすぐに背後に回る。
「次はこれー!!」
両手で両翼を掴むと、背中に蹴りを入れてと共に引きちぎる。
ガーゴイルは前のめりに倒れる。
「ヒャハハ!!
脆ーい!」
倒れてるガーゴイルに馬乗りになったルージュが、今度は頭を両手で掴む。
感情の無いはずのガーゴイルに恐怖の表情が浮かび上がっている錯覚に陥る。
「次はこれにしよ〜」
メキメキと音を立ててガーゴイルの首は引きちぎられた。
首も簡単に引きちぎられたガーゴイルは完全に沈黙した。
「な〜んだ。
もう終わり?」
残虐な光景に騎士達は怯んでしまった。
石像とはいえ、体の一部が引きちぎられる光景は心中穏やかではない。
ルージュの狂気に満ちた顔が次の遊び相手を探す様にぐるりと騎士達を見渡す。
その瞳に一瞬目が合うだけで誰もが背筋を凍らせた。
「ヒャハ!」
ダイナの顔を見て次の遊び相手を見つけたとばかりにルージュは短く笑った。
その狂気に当てられてダイナの背筋も漏れなく凍る。
今のダイナに抗う術は無い。
「もうおやすみの時間よ」
スミレがダイナの後ろから抱き枕を持って、
ルージュの元へゆっくり歩いていく。
ルージュは見開かれ瞳でスミレを見つめる。
次にスミレの持つ抱き枕に視線を移す。
「ヒャハ!
ルージュのみっけ!」
ルージュは真っ直ぐに抱き枕に飛びついた。
その瞳はトロンと瞼が落ちる。
「スミレ。
ルージュ眠たい。
もう寝ていい?」
「ええ、いいわよ」
ルージュは抱き枕と共に消える。
ダイナはこの光景を目の当たりにしながらも、未だに信じられないでいた。
今まで自分より圧倒的に強いのはグラハムだけだった。
でも、今目の前で起きた出来事は紛れもなく事実。
自分が全く歯が立たなかった相手が瞬殺されてしまったのだ。
「お前達はなんだなんだ?」
ダイナは問わずにはいられなかった。
「私達はナイトメア・ルミナス。
それ以上あなたが知る必要は無いわ」
「どういう意味だ?」
「だってあなたは弱者。
それも飛び切り愚かな弱者。
あなたは舞台から降りた方がいいわ。
この正義と悪が入り混じる混沌としたこの舞台から」
スミレも消えた。
言葉の意味を理解できずに放心したままのダイナを残して。
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