第16話
グラハムと鉤爪が対峙する少し前。
ルナとリリーナは神殿の遺跡の中にいた。
この神殿には王城の近くから地下の隠し通路で繋がっている。
この通路は王族と僅かな者だけが知っている、いわば避難通路になっている。
当然王女であるルナはこの通路を知っている。
そのルートを通って神殿に入った二人は周囲を見渡した。
そこは物置のような小さな部屋だった。
「ルナ、誰か通った形跡があるわ」
地下通路を隠していた蓋の周りには足跡があった。
「やはり王族かそれに近い人間にドーントレスと繋がってる者がいる」
「ルナ、何度も言うけど私達は犯人を突き止めるだけよ。
こっそり確認したら逃げるのよ」
「何度も言わなくてもわかってるわよ。
それにしても、あなたにしては珍しく弱気ね。
そんなにナイトメアって強いの?」
「強いって物じゃないわ。
あれは今の私達が戦っていい相手ではないわ」
「素手で剣を折ったり、言葉だけで呼吸を止めたり出来るって、あなたで無かったら信じてないわよ」
長い付き合いでルナは、リリーナがそんな嘘を吐かない事を分かっている。
けれども、まだ半ば疑っていた。
「信じられないのも無理無いわ。
私だって、実際に体験して無かったら信じてないわよ」
リリーナは昨日体験した死の恐怖を思い出し身震いする。
一瞬にして呼吸が出来なくなる。
それは単純だが、確実に死が近づいてくる感覚。
ナイトメアがその気になれば、だった一言で殺される事実にリリーナは悔しさと恐怖を覚えた。
二人は息を潜ませながら、足跡を追って奥へと進む。
その先で人の気配に気づいて物陰から様子を伺う。
しかし、その人影は二人の方に顔を向けた。
「やあ、これは麗しいお二人方。
こんな所でお会い出来るなんて光栄ですね」
二人は顔を見合って、出て行くか悩む。
「あれ?もしかして俺だと気づいてない?」
「わかっていますよ。
トレイン・バースト」
ルナは意を決してトレインの前に姿を現す。
リリーナも横に並ぶ。
「相変わらず二人ともお美しい。
今日の満月にも負けず劣らない美しさだ」
「そう言う分かりきった事、いちいち言わなくて結構よ。
それよりトレイン。
何故あなたはここにいるのかしら?」
「なぜって?
もちろんドーントレスの調査の為ですよ」
ルナの問いにトレインはニヤけながら答える。
いつもは気にならない事だが、今日ばかりはルナをイラつかせる。
「あなたの今日の勤務時間は終わってるはずよ」
「俺だって部隊長の端くれですから。
個人的に調査だってしますよ。
その証拠に剣も軍服も無いでしょ?」
トレインは両手を上げて、いかにも遊び人の格好を披露する。
「勤務時間が終わると一目散に女の尻を追いかけているあなたが?」
「色男ってのは、地味な努力は見せないんですよ」
「じゃあ、その色男に聞いてもいいかしら?」
「なんなりと」
「なんであなたは地下通路を知っているのかしら?」
「はて?なんの事ですか?」
「あなたが通ってきた道の事よ」
「ああ、あの地下通路ですか。
知っていたから知っていたとしか……」
「いいから答えなさい!」
イライラが募ってルナが思わず声を荒立てる。
トレインは急に真顔になって袖に隠し持っていたクナイを二人に目掛けて投げた。
ルナとリリーナは、あまりに突然の事に全く反応出来ない。
クナイは二人の方へ真っ直ぐに飛んでいく。
そして、二人の顔の間クナイが通過した。
「グハッ」
二人は後方で人が倒れる音がして振り返る。
そこには喉にクナイが刺さって絶命している男が倒れている。
状況が、把握しきれていない二人の後ろ襟をトレインが掴んで後方て思いっきり投げ飛ばした。
それと同時に倒れた男が破裂して、魔力の波動がトレインを襲った。
衝撃でトレインの体は崩れ落ちる。
後ろで尻餅をついたルナとリリーナはドーントレスの兵士に取り囲まれた。
「ヒッヒッヒッ。
王女と公爵令嬢では無いですか。
のちのち王国との交渉材料になりそうだな。
その二人を拘束しろ」
老人の男が兵士に命令する。
二人は抵抗する間もなく後ろで両手を魔力枷によって拘束されてしまった。
「では、お嬢様方大人しくついて来て下さいね」
老人はいやらしい目で二人を舐め回すように見る。
思わず二人の背筋に悪寒が走った。
「鶏冠様、この男はどうしますか?」
兵士の一人が倒れたトレインを指差して問う。
「そいつは役に立たないから殺してしまえ」
「分かりました」
部下が剣でうつ伏せで倒れているトレインの心臓の位置を突き刺した。
血飛沫が上がり、トレインの体は血溜まりへと沈んでいく。
「トレイン!」
「ウッヒッヒ。
上流貴族に産まれてよかったですな」
ルナとリリーナは引きずられるように奥へと連行されて行った。
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