第6話
2人の解説は非常に分かりやすかった。
知識量も凄く、僕の些細な質問にも的確に答えてくれた。
そこは流石と言うべきだろう。
受けて来た教育が違うという事だ。
それをきちんとインプットして、自分なりにアウトプット出来るのは、彼女達の頭の良さが伺える。
更に2人共お互いの解説を邪魔しない様に補完し合っていた。
おかげで凄くスムーズに美術館鑑賞が進んでいる。
それに関しては素直に感謝している。
だけど、2人共一切腕を離してくれない。
だから他の客、特に男性客からの視線が痛い。
その気持ちはわからんではない。
確かにこの2人には華がある。
だが一つ言いたい。
お前達は何を見に来たんだ?
目の前に芸術に集中しろ。
素晴らしい芸術に失礼だろ。
あと、自分の隣のパートナーの視線にも気がつけ。
僕たちを見ているお前達を睨んでる目がすごい事になってるぞ。
おっと、思わず二つ言ってしまった。
「ここが今回の目玉の展示スペースです」
一つの展示スペースに到着した所、ルナの声のトーンが上がった。
ルナもこのスペースが好きなのが表情からわかる。
「ここはあの有名なロビン・アメシスの作品の中でも、国王に献上された国宝を5種類展示しています」
ロビン・アメシスとは王国史上最高の天才芸術家と言われている芸術家だ。
木工細工やガラス細工、金属細工など立体的な作品が多い。
世界的にも有名で、ロビンコレクションと呼ばれて各国にある作品は国宝扱いになっている。
「中でもこれが公の場に初のお披露目となっています」
ルナが指差した先には大きな宝石が埋め込まれた金の天秤。
なんとも言えないオーラがある。
そして――
「なんか傾いてるね」
僕は首を傾けて天秤を見る。
「そうね。
何も乗って無いのに傾いてるわね」
リリーナも僕の真似をして首を傾けている。
「そうなんですよ。
このあえて均等じゃないのにセンスを感じますよね」
ルナも首も傾けて解説する。
そうだよね。
初めから傾いてる天秤なんて見たら、首を傾けるよね。
これ欲しいな。
今日は堂々と鑑賞してるからかも知れないけど、欲しい物が結構ある。
奪っちゃおうかな?
ここの夜間警備は王立だけあってかなり厳重だけど、それはこの世界に限っての話。
厳重と言っても騎士団の見回りが多いのと、何重にも施された魔術による警備。
魔術なんて打ち消してしまえばなんて事無い。
あとは騎士団だけど、気付かれないで奪っちゃえば関係無い。
王立美術館って事は、ここの物は王国の物だろ?
って事は善人の物じゃないから奪って問題無い。
よし決めた。
公開最終日の夜に奪いに来よう。
公開中に奪っちゃうとここに来る善人から、こんな素晴らしい芸術を見るチャンスを奪ってしまうことになるからね。
これぞ悪党の美学。
「他の作品も素晴らしい物ばかりです。
例えばこのダイヤモンドで作られたプリズム。
こんなに大きなダイヤモンドってだけでもすごいのに、それを大胆に削ってプリズムに仕上げています。
その光の屈折すら計算され尽くされており、光の当たる角度によって全く別物の美しさになります。
今回は私達が厳選した5つの角度からの光で楽しんで貰えるように、前にあるボタンでスポットライトの角度を切り替えられます」
これは凄い。
このボタンの切り替えだけで、一日中見てられそうだ。
「次に、人々が神から命を頂いた様子を造形したという金の彫刻です」
膝立ちをした人が天に向けて真っ直ぐ両手を上げており、その手の上には真っ赤に輝くルビーが取り付けられています。
「このルビーが命を現しています。
それと対になっている我が国の国旗にも書かれている鳳凰の彫刻です。
同じくルビーが命を現していて、鳳凰がその命を人々に運んでいる様子が表現されています」
金の鳳凰がルビーを両鉤爪で掴んで飛んでいる彫刻だ。
さっきのと対と言うだけあってルビーの大きさも変わらない。
この二つも素晴らしいが、僕はあの天秤がお気に入りだな。
「この四つの作品は、
当時の国王が王家の財宝を隠している場所の鍵として作られたと言われています。
今となっては、その隠し場所もこれらの使い方も不明ですので、その話が本当かどうかはわかりません」
「それはロマンを感じるね」
「そうでしょ!」
僕の相槌にルナは上機嫌になる。
ルナはこう言う話が好きみたいだ。
「その宝は国を治めるのに大切な力だと言われています。
一体どんなものか気になります」
国を治めるのに大切な力を隠すなよって、ツッコミたくなったけど我慢した。
こういう逸話と言うのは、そういうものなんだ。
「最後のこれは何?」
リリーナはこの話にあまり興味が無さそうに次の作品に移っていた。
「マトリョーシカ人形です。
これは木製で、前と後ろの胸の部分に付いていのはガラス細工です。
宝石や金と違ってどうしても見た目のインパクトは劣りますが、ロマン・アメシスの力強い彫りが一番わかる作品です」
それは大きさの違う7個の人形。
マトリョーシカと言うぐらいだから、全部中に収まるのだろう。
なんか、これはこれで素朴な味わいを出していて素晴らしい。
「なんか、この人形ヒカゲに似てるわね」
「言われてみたらそうね」
「えー、そうかな?」
「このどこにでもいそうな平凡な感じがそっくりよ」
リリーナが僕と人形を交互に見ながら笑う。
僕に似てるかどうかは置いといて、僕はこれが一番好きだな。
なんかロビン本人が一番楽しんで作った感じが伝わってくる。
これも奪いにこよう。
久しぶりに予告状でも作るかな?
少しでも面白かったと思ったら下にある☆ ☆ ☆ ☆ ☆から、作品の応援をお願いします。
1つでも構いません。
ブックマークも頂けたら幸いです。
よろしくお願いします。




