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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第7話「東日新聞記者・射手矢貴と魔術局長・シェイダ」
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7-4


一度警視庁を出て、タクシーを捕まえて新橋方面に向かう。適当なところで下ろしてもらうと、客が誰もいない純喫茶に入った。財務省時代、機密性の高い話をする時にはよく使った場所だ。


俺と射手矢はアイスコーヒー、ノアとシェイダはミックスジュースを注文した。ミックスジュースなら、それほど違和感なく飲めるだろう。


「で、どういうことなんだ?」


ネタの匂いに目を輝かせながら、射手矢がボイスレコーダーを置こうとした。俺はそれを制する。


「録音は禁止だ。ノートを取るのもダメ。完全オフレコという条件で話す。それと、これから話す内容は『解禁付き』だ。こちらがゴーサインを出すまでは、絶対に記事にするな、いいな」


「また随分ガチガチな条件だな。それだけの価値はあるんだろうな」


「大ありだ。真面目な話、新聞協会賞も取れる。ただ、国も絡んだ大ネタだ。こちらも慎重に動いている、そこは理解して欲しい」


「国も絡んでる?マジでそんな話なのか」


頷くと、ノアが口を開いた。


『あたしたちは、トモの世界の言葉で言えば『亡命者』らしいわ。ここじゃない、異世界から来ている』


「ということだ。違う言語だが、お前の耳にはノアの言葉が理解できるはずだ」


「いや、確かにそうなんだが……異世界って町田、財務省辞めて頭がおかしくなっ……ええっ!!?」


シェイダが無言で帽子を外した。そこからは、エルフ特有の長い耳が現れる。射手矢は「えっ……はあっ??」と混乱した様子だ。


『ま、見ての通り。私たちはこの世界の人間じゃないってわけ。アオモリってとこから来た奴も同じね。

で、私たちがあなたにここに来てもらったのは、あなたを協力者に引き入れるためってわけ』


「……協力者??いや、頭が混乱して何が何だかさっぱり分からないんだが」


『ま、言ってみれば?協力するならあなたに情報を流してあげるってこと。ただ、そうじゃないならそれでおしまい。あ、こっちを勝手に調べるようならそれなりに酷いことになるわよ、多分』


「協力って、何を」


シェイダが俺を見た。細かくは聞いていないが、多分こういうことだ。


「今、ある人物の居場所を探っている。そいつがどういう人間か、どこにいるかも分からない。ただ、場所の大雑把な当たりは付けられる。

俺たちとしてもそいつが何者かは知りたいが、俺たち自身で動くと見ての通り目立つ。そこで、お前の出番ってわけだ」


何より公安の尾行を気にせずに済む。ここが大きい。ただ、射手矢は険しい表情だ。


「俺に代わりに『取材』しろと??どういう理由かを知らないと受けられないぞ?それに、ネタを第三者に横流しするのはご法度だ。バレたら俺の首が余裕で飛ぶんだが」


「そこはバレないようにやるしかないな。あと、理由はお前が同意したらちゃんと話すさ。

それと、俺がゴーサインを出したら可及的速やかに記事にしてくれ。上司を説得するに十分な資料はこちらが出す。場合によっては、国も協力する」


『どういうこと?』


ノアの問いに、俺はシルム語で答えた。


『片桐や坂本が暴走しかかった時に、先手を打つためさ。あるいは、逆に国が動かなかった場合の圧力』


『そうか、情報を出す・出さないの主導権をこっちで握るわけね』


俺は頷いた。問題は、本当に射手矢がこちらの望み通りに動いてくれるかだが……。


「……結局、お前らの都合のいいように動かされているだけな気もするな」


『そんなことないわよ?』


突然、シェイダが射手矢の手を握った。そして、胸の谷間を見せつけて笑いながらこう言う。



『お・願・い』



射手矢の顔色が、目に見えて赤くなった。


「……わ、分かったよ。分かったからっ。で、どういう話なんだっ」


射手矢がシェイダから顔を背けながら叫ぶ。


……色仕掛けか、確かに女性経験がほとんどなさそうな射手矢には、効果覿面かもしれないな。


ノアを見ると、渋い顔をしている。ああいう手段が好みではないのかと思ったが、出てきたのは意外な言葉だった。


『あれ、シェイダの得意魔法。『情動操作』よ』


『え?』


『触れた人間の感情を操作するの。好意も敵意も、喜びも絶望も。その気になれば特定の人間を殺意に満ちた暗殺者にもできるし、意に沿わない人間を自殺させることだってできる』


もちろん念話は切っているから、この会話は射手矢には理解できないはずだ。……しかし、恐ろしいことをしでかすものだな。

そして、シェイダが射手矢を仲間に引き入れようとした理由がようやく分かった。絶対の自信があったのだ。


シェイダが俺たちに向けてウインクした。こちらの感情まで見透かされているようで、少しぞっとした。


『……ま、敵には回したくないわね』


ノアが呟いた。



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