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ド田舎無職の俺の近所に異世界の国が引っ越してきた件について  作者: 藤原湖南
第7話「東日新聞記者・射手矢貴と魔術局長・シェイダ」
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7-5


『あー……お腹すいた』


地下鉄に乗るなり、シェイダが疲れ切った様子でうなだれた。時間的には18時前で、まだ日も沈んでいない。昼飯が軽いものだったせいだろうか。


ノアが、やれやれといった様子で首を振った。


『魔法を使った反動だと思うわ。ここのマナの薄さを甘く見ちゃだめよ』


『確かに……これ、ちゃんと食べないと感知魔法使えないかも』


栄養ドリンクを飲ませれば多少は元気が出るだろうが、やはり飯をしっかり食べないとダメか。幸い、池袋なら食べるところには困らない。

問題は、その場所だ。あまり人が多いところだと、目立ってしまって仕方がない。ファストフードやファミレスは論外だ。駅ナカや、「ソーラーシャイン」の中にある飲食店街も避けた方がいい。


行きがけで、そこまで人が多くなく、なおかつしっかり食べられる、味のよい店か……


「……あそこにするか」


『え?ご飯食べるところ?』


ノアが目を輝かせてこちらにすり寄ってくる。本当に食べ物のことになるとテンションが変わるな。


「まあ、そうだな。ただ、ちょっと癖の強い店だから、気に入るかは分からないぞ」


『トモの選ぶお店なら多分大丈夫よ!シェイダも元気になるって!』


『……本当にこの世界のご飯が好きなのね……』


シェイダが呆れたように言うと、ノアは『うんっ!』と満面の笑みで頷くのだった。


それにしても、魔法は相当体力を消耗するものらしい。「マナ」の濃度が違うというが、そこまで大きく違うのか。

食事を取ったり、栄養ドリンクを飲ませたりすれば多少マシにはなるものの、普通にしていても『多少は疲れやすい』とノアは言う。それは夏の暑さのせいなのか、それとも人体の構造が少し違うからなのか。


この世界に来てるシムル人が、どう適応したのかはいよいよ気になった。恐らくは魔法を使う人間なのだろうが、これまで騒ぎにならなかった理由も含めて全くの謎だ。

早く接触したいが、そう上手く行くだろうか。


桜田門から池袋までの短い間で熟睡するノアとシェイダを見て、俺はわずかな不安に駆られた。



「着いたぞ」


『……ここが?普通の古い食堂にしか見えないけど?』


ノアが疑わしそうな目でその店を見た。まあ、無理もないな。


「ソーラーシャイン通り」を横に入った路地に、掘っ立て小屋のような黒い店がある。「くわ原」だ。

幸い、今日は行列ができていない。ここに来るまで好奇の目で見られまくっていただけに、正直ほっとした。


『何のお店なの?』


「ラーメンという料理を出す店だ。ノアは、こっちに来た初日の夜に一度食べてるな」


『……ああ、あれかあ!!あれ、美味しかったわよね』


『そんなに美味しいん?』


『お肉が柔らかくて、スープが濃厚で、味が染みてて……ここもそんな感じのお店なの??』


早口でシェイダにまくし立てるノアに、俺は苦笑した。


「あー……あれを普通のラーメンだと思われるとな。まあ、ここも普通のラーメン店じゃないが」


食券機を見ると、今日は裏メニューとして「いくらと卵黄の和えそば」があるらしい。正直心引かれたが、ここはデフォルトの塩ラーメンを3つ頼むことにした。


『普通じゃないって、どういうことなん?』


「あー、まあ食べれば分かるさ。昼の話を聞いて、ここに連れてくるのが一番元気が出ると思った。学生時代によく通った店で、個人的にはかなりのお気に入りだ。人を選ぶけど」


食券を渡し、カウンターに座る。壁がない屋台風の店構えだが、この暑い夏では悪くない。


『……で、ラヴァリはどうするつもりなの?』


「保釈までにはどちらにしろ少し時間がかかるからな。もう少し様子見だ。何より、本人の意思だな」


『そうねえ。追加で帝国から人が送り込まれる可能性とかを考えると、あまり急がない方がいいかもね。こっちにいるシムル人に接触できたらでいいかも』


ノアが思案顔で言う。色々やるべきことはあるが、まずはそれだ。射手矢次第だが、そこから始めないとどうしようもない。

あとは、明後日の浅尾のイルシア訪問。イルシアを守るある程度のメドが付けば、こちらも動きやすくはなるのだが。

向こうがどういう要求をしてくるのかは、読み切れない部分が多い。簡単に済むとは思っていないが……


そう考えているうちに「塩ラーメンです」と女性店員が丼をカウンターに置いた。もちろんノアとシェイダは箸が使えないので、フォークで食べることになる。


『これが『ラーメン』?前のとはまた随分違うわね。麺も固そうだし』


ノアが物珍しそうに麺を持ち上げる。シェイダもそれに続いた。


『ま、まずは食べてみましょ。……んっっ!!?しょっぱいっ!!』


『ほんとだ、こんなしょっぱい食べ物、食べたことない!でも、美味しい……!!』


ノアが凄い勢いで麺をすすり始めた。シムルでは塩が珍しいと言っていたのでどうかと思ったのだが、気に入ってもらえたようだ。


『確かに……!しょっぱいけど、しっかりと鶏の味もしてて……というか、肉の上に乗ってる、このピンク色の粉末って??』


「岩塩だな」


『岩塩っ!?そんな高価な物を使ってるの……??』


「ははっ、岩塩もそこまでここじゃ高くないから気にしなくていいさ」


シェイダが『こんな食べ物があるのね……』とお化けでも見たかのようにラーメンを見つめる。


『でも、確かに魔力回復に役立つのは納得ね。……ずずっ……んぐ。岩塩は、魔力を多く含むって……んぐ、言われてるし』


「……そうなのか?」


麺を飲み込みながらノアが頷く。


『岩塩が高価なのはそれも理由。でも、ここだとそんなにありふれたものなの?ちょっと信じられないわ』


「まあ逆にここだと高価でも、そっちだと二束三文のものもあったりするだろ、多分」


『そうねえ……そういうのもあるかもね。……あむっ、このお肉も柔らかくて美味しい!!』


岩塩か。日本じゃ確か採れないはずだが、将来的に貿易品になるかもしれないな。少し、頭の中に留めてもいいかもしれない。

この世界とシルムとの行き来がいつ自由にできるのか、それはさっぱり分からないが。



『……こんな高い場所、初めて来たわよ……』


ノアが呆然として立ち尽くす。眼下には東京都心を彩る夜景。その美しさは、この世界を生きる俺でも息を飲むほどだ。東京で夜景を見るなら、ここかスカイツリーが最適なのは間違いない。


『本当にすっごいわね……全くシムルじゃ敵わないわ。私たちが魔法を見せられているみたい』


「だが、本物の魔法は使えない。シムルの方が、遥かに優れた所は多分いくらでもあるさ。

例えば、これから行う人捜し。これはシェイダにしかできない」


『ま……ね。じゃ、やるとしますか』


夏休みだけあって、この時間帯でも最上階の展望スペースはカップルでにぎわっていた。互いに相手のことしか見えないおかげで、ここに来る途中ほどは注目されずに済みそうだ。


シェイダが両手を胸の前で組み、何やら呪文のような物を小声で呟き始める。しばらくすると、両手が黄色の光で包まれた。


『準備よし。じゃあ、ここを一周するわよ』


シェイダはゆっくりと外を見ながら展望台を回った。手は常に窓に向けられている。カップルたちが少し訝しげな様子を見せるが、大きな混乱はない。


そして、3分の2周ほどしたところで、足が止まった。


『……いるわね。あの、高い建物のすぐ近く』


シェイダが指さしているのは、六本木方面だ。高い建物というと……



「……六本木ヒルズか!?」



『そんなに驚くようなことなの?』


俺は思わず声を出し、小さく頷く。



「あそこに住めるのは、控えめに言って相当な富裕層……多分、社会的な地位が十分ある奴だからだ」




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